22―難民救出作戦⑦
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「グレースちゃん・・・」
「みっ、ミラ様・・・ぐっ!」
「ぐっ、グレースちゃん!?大丈夫!?」
「すっ、すみません。ゆっ、油断、しました。」
「待ってて、今治すからっ!全回復!」
ブォン・・・
「はぁ、はぁ、ふぅ〜あっ、ありがとうございます。」
「はぁ〜良かったぁ。やっぱアレ飲んでて正解だったね。」
「ミラ様にはいつも助けて頂いて、本当に申し訳ないです。私が至らないばかりに・・・」
「ほらまた!自分下げのこと言ってるぅ。グレースちゃんはよく頑張ってんだからもっと自信持ちなさい!!」
「はい・・・また怒られちゃいました。私って本当に・・・」
「もぉぉぉ!!言ってる側からぁ!この口がいけないんかこの口がぁぁwww!!」
「痛へへ・・・頬をひっはらないへ下はいよぉ〜」
「ミラ様!グレースさん!」
「セドヴィグさん!」
「ご無事で何よりです!まさか奴があのような行為に及ぶとは・・・」
「うん、私もさすがにあれにはビックリしたよ・・・でも、何でこの子はこんなにもあたしを恨んでたんだろ?」
「それなんですが、この者が口にした自分の名を聞いて、その正体を思い出しだんです。コイツの名前はメウロ・ファーナドル・クレネイア。“黎明の開手”のメンバー、チェルシ・アムルファ・クレネイアの弟にして、アドニサカ魔政国屈指の暗殺兵にして凄腕の傭兵です。」
『黎明の開手』?
確か前に戦ったエリストもその名前を言ってたような・・・
「黎明の開手は、ミラ様を討ち倒せることこそ果たしたものの、ミラ様からの手痛い反撃を受け、メンバーの大半を失ってしまったと聞きました。」
「じゃああたしのことをあんなしつこく殺そうとしたのって・・・」
「おそらく、身内を殺されたことへの怨みでしょう。」
何だか、後味悪いな・・・
この子だって、お姉ちゃんを殺されて、あたしをすごく憎んでたはずなのに、結果的にこの子は敵討ちができないままここで死んでしまったのだから・・・
でもこの子を倒さなかったら、ここにいるみんなを守ることなんかできなかっただろうし、そうなるとやっぱりあたしが決めたことって正しいことになるんかな?
なんか・・・今はこうして、吸血鬼の救世主としてやってるけど、あたし、やっぱ戦争って嫌いだ。
向こうにだってあたし達と同じように守らなきゃいけない物や心に決めたことがあるのに、勝つためにはそれを踏みにじらないといけないし・・・
あたし、この子にどうしてやれば良かったんだろ・・・?
「ミラ様、そう気に病む必要はありません。この者はミラ様のお命を狙い、それができないと悟るや、意地汚くグレースさんをあなたから奪おうとした。然るべき報いを受けたのです、コイツは。」
「・・・・・・・・。うん。」
そうだ。
今は、過ぎたことをくよくよ悩んでたって仕方ない。
みんなを無事に守ることができた、それだけでも十分嬉しいことじゃないか・・・
ああ、そうだ。そうに、決まってる・・・
◇◇◇
「では急ぎましょう!追手が来る前に彼等を安全な場所まで運ばないとっ。」
「セドヴィグさん、この人達はどこまで連れて行くんですか?」
「ひとまず南方の本部に設けた難民専用キャンプに運びます。そこならまず襲われることはないと思いますので。」
「そっか、なら良かった。」
「してミラ様、お願いがあるのですが、南の執将様にお見通りをして頂きたいので、私どもに同行してはもらえないでしょか?」
「あたしに?べっ、別に、いいけど・・・」
「ソウリン殿、よろしいかな?ミラ様は現在其方の預かりになっているのだが・・・」
「オレも大丈夫だ。ミラ殿の生存を知れば、執将様も喜びになるだろう。」
「ごめんなさいソウリンさん、なるべくすぐ帰れるようにしますから。」
「そう気負わないで下さい!お戻りになるまでアイツらはあなたのお側に仕えるくらいまで鍛えておきますので!!」
「そっ、そうですか・・・グレースちゃんも帰る?お父さん心配だろうし・・・」
「大丈夫です。父からも“ミラ様をしっかり守るんだぞ!”と言われているので。ですから私もお供いたします!!」
ぬっ、抜かりなしなんだね・・・
「意見がまとまったようなので、参りましょう。ソウリン殿、アドレ殿たちに、どうぞよろしくお伝え下さい。」
「分かった。其方もミラ殿を、どうか任せたぞ。」
「はい!今回は手助けして頂き、本当に有難うございました!この御恩は、何かの形でまたお返ししたいと思っておりますっ。」
「じゃあね、ソウリンさん。しばらくお別れ、だね。」
「ミラ殿、あなたとこうして会うことが叶い、誠に嬉しゅうございました。またいつでもお戻りになって下さいね。」
「うん!必ず・・・必ずきっと!!」
◇◇◇
ガタッ!ゴトッ、ガタッ・・・!
「・・・・・・・。」
「ミラ様、どうかなさいましたか?先ほどから浮かない顔をして・・・」
「うっ、ううん!何でもない!ちょっとボッーとしてただけだからっ。」
「そう、ですか・・・」
ダメだ・・・
やっぱりあの子のことがどうしても頭から離れない・・・
あたしは通り魔から子どもをかばって殺されて、この世界に生まれ変わったはずなのに、その世界で自分が守った子どもとほぼ同い年の子を傷つけて、間接的にその命を奪ってしまった・・・
グレースちゃんがあの子の血を吸うことを聞いてきた時、あたしは何の躊躇いも持たなかった。
“仕方のないことだった。”そう割り切るしかないと分かってる。
でも、どうしてもそれができない。
あたしって、やっぱ救世主失格なのかも・・・
こんなあたしじゃ、誰もついてきてくれるワケ、ない・・・
グイッ、グイッ
「えっ・・・」
「ミラお姉ちゃん、大丈夫?」
「うっ、うん。大丈夫だよ。」
「ほんとぉ?ミラお姉ちゃん、すごくかなしい顔してたから・・・」
「そっ、そうかな〜?元からこんなお顔してたと思うんだけどなぁ〜」
「ミラお姉ちゃん。」
「なぁに?」
「ボクはミラお姉ちゃん大好きだよ。だってボク達を助けてくれて、とっても優しくて、カッコいいから。ミラお姉ちゃんは、やっぱりボク達の、きゅうせいしゅさまだよ。」
「ッ!・・・・・・・。」
「ありがと・・・あり、がと・・・」
「どっ、どうしたのミラお姉ちゃん?泣いてるの?もしかして、ボクなんかしちゃった?」
「ううん、泣いてないよ。っし!着くまでまだ時間あるからさ、みんなであたしとゲームしよっか?」
「ゲーム!?やるっ!やるっ!」
「ナオさんとグレースちゃんも一緒にやろ?全員でやったらめっちゃ盛り上がるからさっ!」
「えっ、ええ。」
「では、喜んで。してミラ様、どういった物なんですか?」
「あたしも今思いついたんだけどね、みんなで輪になって、こう両手をグーにして出して、「いっせのーせ!」って言いながら親指を立てて、上げた指の本数を当てて順に上がっていくっていうルールなの。」
「なんだか不思議な遊びですね。ミラ様、この遊戯の名前は?」
「そうだなぁ・・・シンプルに“親指数え”ゲームなんてどうかな?」
「本当にシンプルですね・・・」
「いいじゃんグレースちゃん〜“シンプルisベスト”ってよくいうよぉ〜♪」
「は?シンプルイズ・・・?」
「もぉう!固いことは置いといて、早く輪になってやろっ!考案者のあたしがゼッタイ一抜けするだからねっ!!」
◇◇◇
「以上が今回の進軍計画です、執将殿。」
「承った。しかし、心強い。まさか貴殿らのような強者達の支援を受けることができるとは。」
「とんでもない。このような状況下ですから吸血鬼一丸となってこの難局を乗り越えるべきです。」
「本当に感謝いたす。」
「では私どもはこれで。ほら、行きますよ。執将殿に最後くらい挨拶したらどうですか?」
「・・・・・・・。」
「あっ、あなたねぇ!」
「まっ、まままっ!そうカッカするなっ。私はあまり気にしておらんでな。」
「誠に申し訳ありません・・・では、失礼します。」
バタン・・・
カツ、カツ、カツ、カツ・・・
「ふぅ・・・あの方を亡くされて、悲しみに暮れる気持ちは分かりますが、もう少し気丈に振る舞ったらどうですか?」
「・・・・・・・。」
「あなたがいつまでもそうしてたら、ミラ様も安らかにお眠りすることができませんよ。“乙女の永友たる我らこそ、あの方の意志を継いで仲間を導いてやらねばならんのですよ!!」
「・・・・・・・。アンタには分からないわ。私の気持ちなんか。分かって、たまるもんか・・・」
カツ!カツ!カツ!
「ちょっ、ちょっと待て!リリーナ!!」
カツ!カツ!カツ!
バタン!!
「はぁ・・・!はぁ・・・!うっ、うう・・・何で・・・何で私を残して、いなくなって、しまったんですか・・・?ミラ、お姉様ぁ・・・」




