052.なかよくやれるかな
「ロンカ姫とお茶会?」
お茶会の後、私室に戻ってきたクロさんに聞いてみた。猫の目がくるんと丸くなった後、きゅっと細まる。
「いいぞ。俺としても、シロガネ国の様子とか聞いてみたいしな。交流という名目でなら、問題ないだろ」
「良かった!」
「ありがとうございますう」
うん、あっさりOK出してくれてありがたい。クロさんの言葉なら、他の人たちも逆らわないだろうし……リューミさんはどうかな、と思うけど。
「場所とかスケジュールはリューミに調整させるから、少しかかるかもしれんが」
「お仕事に差し障りがないように……って、言わなくてもリューミ様ならやりますよね」
「だな」
ミカさんの言葉に、クロさんのしっぽがぱたんと揺れる。うん、リューミさんなら仕事に影響ないように何とかしちゃうよね。あのひと、そういうのがお仕事なところあるから。
「ああ、ロンカ姫。お前さんの付け人、今日付でシロガネ側から三名到着する予定だ。だから、私室と執務室が別でもまあ問題はないだろ」
「あ、ほんとうですかあ? よかったあ」
おー、お姫様の使用人増員されたのか。それはよかったよかった、ロンカ姫も知り合いが増えるのはいいことだろう。
私みたいに、もともとの知り合いが増えたらやばいわけじゃないしね。こちらに来たのはきっと、シロガネ国にいた頃の使用人さんなんだろう。お姫様なんだから、専属で何人かいてもおかしくないし。
「もし何か問題があったら、俺がただじゃおかねえが」
「その前にリューミ様が暴れそうなんで、そっちを抑えてくださいね」
「……気をつける」
クロさんが口にした問題というのはこの場合、多分だけど偽メイドさんみたいな城に入り込んで何かやらかす馬鹿が出たりする、ってことだろう。シロガネ国の人のことは信用してるっぽいけど、その中に餅の国のスパイがいないとも限らないしさ。
にしても、ロンカ姫のお仕事ってこの国とシロガネ国の間を取り持つ仕事なんでしょ。何でそんなことするのかな、いや仲良くやりたいからだってのは分かるけど。
「我が国にも、アキラやミカのように人間も住んでいるからな。俺たち魔族とじゃ習慣も違うし、ロンカ姫にはそこらへんのフォローも頼みたいんだ」
「人間のアドバイザーがいたほうがあ、ミカちゃんやアキラちゃんたちも住みやすくなるかなあって」
おおなるほど、そういうことなのか。あれ、でもそんなに人いるか?
「というか。私、この国の様子ってあんまり知らないんだけど人間、多いの?」
「率としては少なめだけど、あちこちの国から来てるぞ。シロガネからの移民もいるし、そもそもイコンは過激派も穏健派もほぼ人間だ」
「はあ」
あ、そうなんだ。
イコンの人ってみんなグレーのフードとかかぶってるから、ぱっと見じゃいまいちどういう種族かわからないんだよねえ。そうか、あの人たち人間かあ。
ミカさんは人間で、ロンカ姫も人間で、クロさんは猫。本人は虎と主張してるけど、どう見ても猫。ま、そこらへんはいいとする。もふもふできれば、猫でも虎でもどっちでもかまわないし。
「逆に、四足歩行の種族もそんなにいませんよねえ」
「見かけたの、ハナコさんくらいだもんねえ」
ロンカ姫の言葉に、私も頷く。極稀に、使用人らしい羊さんとかとすれ違ったりするんだけど。
「ハナコの一族は、ほとんど故郷から出てこないしなあ。成長しすぎて出てこられないデカブツもいるけど」
そういったクロさんの目が、何ていうかすっごく遠くを見る目になった。成長しすぎてって、サンショウウオかなんかでそういうのがいなかったっけ。教科書で読んだ話だったかな?
「ハナコさんの種族って、どのくらい大きくなるんですか」
「んー……そうだなあ」
ミカさんもそういうのは知らなかったっぽくて、クロさんに尋ねてきた。まだ遠い目をしたままのクロさん、ひげがふくふくと動いた後に答えを出してくれる。
「俺の思い当たる節なら、もう亡くなった長老の甲羅が山になってるぞ」
あの山、といって窓の外をクロさんが指差した。え、山脈の中に一つ、ひどくドームっぽい山があるんですけど。
「あれ、ですかあ?」
「間違いない。ワイたろーに乗って、確認しに行ったからな。リューミと一緒に」
見に行ったんかい。ああ、でも城から見えるところにいきなり山が一つ増えたら見に行くか。一体何事か、とか言って。
「他の配下たちには危ないだろって怒られたけどなあ。でも、リューミがあれは亀の長老の甲羅だっつーて納得させてくれたぜ」
「亡くなられた亀さんの甲羅じゃなくて生きてる亀さんで、さらに敵だったらどうするつもりだったのよ……」
「そりゃもちろん、亡くなられた亀さんの甲羅にするだけだが」
一応不安を表明してみせたんだけど、それに対するクロさんの答えはものすごくわかりやすいものだった。敵は殺るべし、だよな。
……そうね、そういう世界なんだよね。改めて考えるとさ。




