048.困ったお姫様
「後は頼むぞ、ミカ」と会議が待ってる割に楽しそうに部屋を出ていったクロさんと入れ替わりに、ミカさんがやってきた。
部屋に入ってきた途端。
「……いらっしゃい、ロンカ」
「ミカちゃあああん」
「国の外でまでそれはやめなさい。あんた王女なんだから」
「だってえ、お兄ちゃんたちがあ」
びえええと漫画みたいに泣き出したロンカ姫が、ミカさんにがっしりとしがみつく。ミカさんの顔が、一瞬にして死んでる。
「……ミカさんが頭抱えてた理由、分かった気がする」
「甘やかされお姫様、ってことだねえ」
思わず、ハナコさんと顔を見合わせる。というか、こんなお姫様を十日もお預かりするのかよ。昼間だけで良かったよ、ほんと。
「そうなんですよ。養育係の乳母やメイドたちが甘やかして甘やかして」
「普通はしっかり教育するもんじゃないかね? 王女なら、婿のなり手や輿入れ先なんて山ほどあるんだから」
「そうなんですけどね。よく分かりませんよ、さすがに当人たちに理由聞いたことないですし」
ハナコさんは軽く首をすくめて、ミカさんと言葉をかわす。私はお姫様とかそういうのってよく分かんないけど、クロさんを見てるとちゃんとした勉強は必要だと思う。少なくとも書類読んで、その中身わからなくちゃサインなんてできないもんね。
そこを考えると……ロンカ姫、どうなんだろ。
「じゃあ、とりあえず当事者から話聞きましょうかね。ロンカ姫、あなたはお勉強とかしっかりしてましたか?」
「えー……一応、共通語と魔族語と古代語の読み書きと計算、あとは身だしなみとかお作法は勉強しましたけど……」
「基礎はできてるようですね」
……何かいろいろ言葉があるらしい。私は全部日本語に聞こえるんだけど、翻訳魔法とかかかってるんだろうなあ。文字は……あれ、変な文字だけど読めるんだよね。書くのが下手くそなんで、ちょこちょこ練習してるけど。
多分共通語、というやつなんだろうな。何の根拠もないけど、多分。
「でもあんた、読み書き計算作法以外ってお茶のいれ方だのお菓子の選び方だのばっかり知ってるじゃない?」
「だって、オロシもノグロも私のこと可愛いって言ってくれてたもん。可愛いままでいれば、いいお婿さんのところにいけますよって」
お茶のいれ方、お菓子の選び方。
あー分かった、表に出ずにお友達とかと交流する方に特化してるっぽい。難しいことは旦那様にお任せして、どうせお姫様なんだから家事その他もメイドさんとかがやるんだろうし。
「これは教育係の方針のせい、だね。ただ、泣き虫なのは性格だろ?」
「昔からこうだったので、多分」
「まあ、そういうところがいいって人もいるだろうけど……正直めんどくさい」
「へ?」
ごめん、つい本音が出た。何かあると抱きついてみかちゃーんびええええ、なんて人、誰が友達付き合いしたいなんて思うよ。
「まさかとは思うけど、教育係の人たち本気で、今のロンカ姫ならどこにお嫁に行っても大丈夫とかそう考えてた?」
「まあ、お飾りの奥方には最適かもしれませんけど……」
「えー。お茶とお菓子、ちゃんと出せたらすごいと思いますよ?」
自分で言うなロンカ姫、あといい加減ミカさん放してやったほうがいいんじゃないか?
にしても、これは教育係軍団、本気でそう考えてたな。
もしくは、賢くしないことで王様になれないようにしちゃったか。こういう子に後継がせたいなんて、今の王様とか思わないでしょうし。
「……よし、分かった」
少し考えて、ハナコさんが重々しく頷いた。どん、と床を踏みしめてから、ロンカ姫に目を向ける。
「十日もあたしたちに預ける理由だよ。少しはこれを改善しろ、ってこった」
「えー」
「改善?」
「できるんですかね、これ」
ミカさん、親戚とはいえこれ、はやめたほうがいいと思う。えー、と首を傾げるお姫様だから、これ呼ばわりしたい気持ちは何となく分かるけどさ。
でも、改善ってどうするのさ。性格改善なんて、十日でできるわけないじゃないの。甘ったるい言葉遣いとか?
「この際言葉遣いは考えないものとする。一応、クロ様にはきちんと敬語使ってるからね。そこらへんはアキラより優秀だ」
「あう」
はっ、変なところでこちらに矛先向けられた。いやまあ、たしかに私、クロさん相手にタメ口ぶっこいてるけど。
「ま、今更言葉遣いを変えろとは言わないさ。クロ様にタメ口聞くようなやつは敵以外にほとんどいなかったからね、あんたの言葉遣いは新鮮だろ」
「いいのかな?」
「今まで怒られてないんですから、いいんじゃないですか?」
確かに、ハナコさんの言う通り私はタメ口とかで怒られたことはない。クロさんだけでなく、リューミさんにもだ。怒るなら、彼のほうが確実に先だろうに。
怒られてないのなら、あまり気にしなくてもいいのかもしれないな。あ、でも一応、後で聞いとくか。
「魔王様にも、今の言葉遣いなんですかあ? ええと、アキラちゃん」
「そうだよー」
何かお姫様に馴れ馴れしく呼ばれたけど、これはこれでこっちが慣れなきゃいけない気がする。うん。




