100.副官は語る
さて、その後の話となる。
「まあ、そんなわけでアキラを俺の妃とすることにした」
「王妃様になることになったのでごしどー、ごべんたつのほどをよろしくおねがいします」
「は、はあ」
魔法部隊の捕虜を無事近くの砦に収容した、という報告をしに行った魔王様の執務室で、いきなりそんなことを言われてこの大変なときに何やってんだあんたらー、と叫ばなかった私を誰か称賛してほしい。いやまあ、人間が言うところの吊り橋効果とやらなのかなーとは思うわけだが。
「好意と打算による求婚であることははっきり言った」
「私もそのうえで、受けたんだよね」
双方口を揃えて、色恋沙汰のみでくっつくことになったとは言わなかった。まあ、王族の婚姻がそういうものだと魔王様が説明し、アキラ殿が頷いたのであれば。
「ご両人がそうおっしゃるのであれば、私からは何も申し上げることはございません」
魔王様の配下である私が、何の文句を言えようか。せめて悪女なりハニトラの結果だったりするなら、反論もできようが。
このアキラ殿は魔王様が拾ってきて、王城の中でごく普通に生活できてカサイの当主のお気に入りでもあるし。
「一応、モイチノ及びシロガネ反乱軍の連合軍ともカタがつきましたし」
……実はそうなのだ。これは、魔王様の執務室に到着する寸前に入ってきた最新情報である。
何でも、魔王様が居城の被害と共にアキラ殿の無事を確かめに急ぎ帰還されたのを見送った軍隊、及びカサイ・カレン殿がやたら奮起した、ということだそうな。
要は、やっと王妃様迎えられそうな魔王様のために勝つぞー、おー、というわけだ。さすがは我が国の部隊、魔王様が慕われていて何よりである。
「あ、そういうことになったんだ。第二王妃」
「シロガネ反乱軍、の棟梁という扱いにされております」
アキラ殿が、細かいところに気づいてくれた。そうそう、シロガネ国からは第二王妃と彼女に付き従った部隊は反乱軍扱いとする、と連絡が来たそうだ。兵士については、投降すればその後の身柄については考慮してくれるようだがな。
「国を出るときに軍の一部持っていって、別の国と組んで元の国の同盟国に対して蜂起した。何の間違いもないな」
「なるほど、そっかあ」
そうして魔王様の方は、その扱いに至った経緯を分析される。まあ、そういうことだ。一応我がラーナン魔王国は、シロガネ国とは同盟関係だからな。というより、モイチノ王国だけがある意味孤立状態なわけだが。
「そういや第二王妃、どうすんだ」
「もちろん、シロガネの国内が落ち着いたところであちらに引き取っていただきますよ。あとはあちらの思うがままに」
「だなー」
「こっちでなんやかんやすることじゃないもんね。ロンカ姫もあんまり見たくない相手だろうし」
……既に王妃、という扱いではないな。いや、ただの反逆者なのだから王妃の位も吹き飛んでいるだろうけれど。国に残っているらしい子どもたち、今後どうなるのだろうな。
そうそう、引き渡す前にやりたいこともあるだろうな。それならば。
「ああ。引き取って貰う前にぶん殴る機会は設けますので、殺さない程度にどうぞ」
「やった」
「俺は威嚇する程度にしておくぞ。手加減できるかどうかわからん」
「でしたら、魔王様にはモイチノ部隊の司令官のお相手をお願いいたします。あの国の中でもごりっごりの魔族嫌悪だそうで」
「よし、任せろ」
ははは、あははと大変に明るく笑う二人。
……この二人が国王夫妻になるということは、まあ、この国は安泰だろう。
「あらあら。魔王様が人間の王妃迎えるなんて、今回が初めてでもないでしょう?」
「確かに、そうですな。此度と同じく、種族間抗争を抑えるためでしたが」
モイチノ・シロガネ反乱連合軍を綺麗さっぱり叩き潰してきたカレン殿に報告すると、にっこり笑って当たり前のことを言われた。
「ならいいのよ。国王夫妻が仲良くしてくれれば、よそはどうか知らないけどこの国は安泰でしょうし」
伝書蛇たちの手入れを終えた彼女は、大変に上機嫌である。戦争という名目で、普段は使えないでいる大規模魔法を遠慮なく放ちまくることができたから、だろうな。
だから、どこの国も彼女を敵に回したくはないのだ。カサイの当主のストレス発散相手にされて、一つ間違えば国が消し飛ぶ羽目に陥るのだから。さて、今回の結果は何年保つだろうな。脅しに。
「んま、あのお二人に何かあったらあたしらが黙っちゃいないけどねえ」
我々の腰の位置から、ハナコ殿がそう口を挟んでくる。カレン殿に加えて彼女まで登場すれば、それこそ国が国土ごと消え去ってもおかしくはない……らしい。幸い、私はそう言った現場を見たことはないが。
「カサイのご当主とゲンブ様の末裔たるハナコ殿の後ろ盾がありますれば、皆黙りますよ」
「モイチノを除いてだけどねえ」
はあ、とハナコ殿が深い深いため息をつく。
シロガネ国と我が国、そうして周辺国の間でかわされた交渉で、我が国に喧嘩を売って負けたモイチノ王国はその存在を一応は許されることとなった。もちろん王は交代し、大臣たちも総入れ替えとなったらしいが……もっとも、国の本質が変わるわけではない。
「国を潰すと、魔族排斥主義者があちこちに散らばってしまいますからねー。そこだけは我慢して」
カレン殿のおっしゃることが、全てだろう。
この世界に魔族は存在し、未来にまで存在し続ける。その我らを排除したがる者たちを一つの国に集めておくことで、こちらの警戒は容易になるからな。
「ま、なによりクロ様とアキラちゃんの平和さえ邪魔しなければ、こっちも手出しはしませんけどね」
「結婚式の警戒、面倒そうねえ」
「あたしが結界張りますわさ」
もっとも彼女たちにとって見れば、そんなことは大したことではないのだろう。無論、私にとっても。
魔族排斥主義者との戦いなど、この国が生まれる前から連綿と続いているものだからだ。
「ラーナン・クロ。あなたはトモドー・アキラを妻とし、その寿命が果てるまで寄り添うことを誓うか?」
「無論だ。太陽神、黒の神、その全てに誓おう」
「ではトモドー・アキラ。あなたはラーナン・クロを夫とし、その寿命が果てるまで寄り添うことを誓うか?」
「誓います。この人の面倒は、私がちゃんと見て差し上げないと」
カサイの当主が、ゲンブ様の末裔が、スザク様の末裔やこの私、セイリュウ様の末裔が見守るなかで婚姻は誓われる。
我が国はこの後も、繁栄を続けるに違いない。少なくとも。
「クロさんのお腹もふもふは、私の専売特許とするからね」
このような勇者を王妃とされた魔王様が、この国に君臨する間は。




