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悪役はデッドエンドを望んでいる  作者: さやか
第1部/ゲーム開始/カザン、エンリ・ハウル同時攻略
72/210

エンリ攻略完了

委員会掃除後、私はエンリに言われた通り裏庭にある温室に来ていた。

ここはゲームのエンリルートだと主人公が最初に出会う場所にあたる。

ゲームだと通年薔薇が咲いてる不思議な温室だったが、さすがに現実は違うらしく今の季節は洋蘭が咲いていた。

まだエンリは来ていないようだった。

私は手持ち無沙汰で洋蘭を弄る。

一体、なんの用か。

一瞬愛の告白かと思ったがいくらなんでも違うだろう。

だって私はエンリにとって父親の仇の娘であり敵対勢力の娘なのだから。

「綺麗だな。」

ふと後ろから低い声がした。

振り向けば、腕を組み金の瞳でこちらを見るエンリがいた。

何故か制服ではなく、公爵の正装である深紫のロングジャケットにブーツを身につけていた。

背の高いエンリに似合いすぎて思わず見惚れてしまう。

「…確かに、華やかで綺麗ですね。」

洋蘭から手を離し言葉を紡ぐ。

綺麗なのは花かそれともエンリか。

「花ではない、お前が綺麗なのだ。」

不覚にも頬が赤くなる。

な、な、な…!?

目を見開いて驚く私に対してくつくつと余裕ある笑い声を上げるエンリ。

「お前がそのような顔を見せるなど珍しいな。」

「…!エンリ様、本日はどのような御用件で?」

エンリのペースに乗るわけにはいかないので私は用件を聞く。

「サナ、お前に協力を要請したい事がある。」

「協力?」

私は眉間に皺を寄せる

「我が父上の死の真相を知りたい。」

「!」

「事故死として処理されてはいるが、裏でどのように言われているかは知っているだろう?」

「私のお父様による暗殺…ですわね?」

私の言葉に頷くエンリ。

「俺なりに調べたがその噂が嘘か真かは結局分からず仕舞いのまま学園に来てしまった。

俺はどうしても父上の死の真相を知りたいのだ。」

「しかし、調べた結果私のお父様による犯行と断定できた場合どうなさるのです。」

「正義に乗っ取らない貴族など潰れるべきだ。

たとえフェルゼン家といえども。」

「では私がエンリ様に協力した場合フェルゼン家が取り潰される可能性もあるという事。

でしたら、フェルゼン家の人間としてエンリ様を手伝う事は出来かねます。」

「協力せずにフェルゼン家による暗殺が表沙汰になった場合、俺は王家にフェルゼン公爵の処刑を申し出るつもりだ。」

「!」

私は言葉をなくす。

恐らくその申し出は通る。

そして、通れば普通連座で私も処刑される。

但し私は吉兆故に処刑は免れると思う。

精々生涯幽閉だ。

だけど、それだと命は助かるけれど逆ハーもできない。

私は今、自分の父親を人質に取られゲームオーバーの可能性を見せられている。

「だが、俺に協力すれば、宰相の職を辞し領地に生涯幽閉で済ましてやる。」

ゲームと同じ父親の末路が提示される。

「…私はどうなるのでしょう?

お父様について学園より去れば宜しいのでしょうか。」

「いや、違う。」

エンリはゆっくりとこちらに近づく。

私の目の前でその動きを止める。

ひたりと私の瞳を見つめる。

「と、いうより、こちらがメインの願いかもしれない。」

そう言っておもむろに跪く!

「サナ・フェルゼン嬢、貴方に求婚を申し出る。」

「はい!?」

「フェルゼン家が取り潰された暁には我が妻としてハウル家に入って欲しい。

貴方がハウル家に入ればフェルゼン家に与する貴族達を一気に掌握できるという政略的な理由と…」

私の右手の甲に唇を落とす。

「一人の男として貴方という女性を愛してしまったから。」

痺れるような快楽が体を駆け抜けた。

「貴方には婚約者がいて、かの者を愛しているのかもしれない。

しかし、俺の目から見てあの男は貴方には不釣り合いすぎる。

貴方の伴侶として到底認められない。

あの者より俺の方が貴方に愛も幸せも与える事ができる。

どうか、この求婚を受け入れて頂きたい」

右手の甲に額をつけて熱烈に愛を告げてくる。

なんて甘美な瞬間だろう。

私は表情が緩むのを必死で押しとどめる。

「私のお父様が無実だった場合はどうなさるのですか?」

「必要とあらばゼウス・オーラスに決闘を申し込み見事貴方を奪って見せましょう。」

お父様が有罪の場合、私はお父様を処刑から助ける事ができる。

エンリも私を嫁に迎えればハウル家敵対勢力を一気に掌握できる。

政略的にウィンウィンの関係だ。

しかも、無罪の場合でも私をゼウスから奪うと言っているのだ。

彼の愛に嘘偽りはない。

父親の仇の娘である私を受け入れる覚悟を彼はしたのだ。

逆ハーに一歩近づいた。

私は内心ほくそ笑む。

「…わかりました。

エンリ様の求婚を受け入れましょう。」

「本当か!?」

「はい。私に残された道はそれしかありません。」

いかにも父親を人質に取られた故に求婚を受け入れた風を装う。

「ゼウス様との婚約は私のお父様の事がはっきりしてから解消ということでよろしいでしょうか」

「何故か?」

「ゼウス様の学費は全額我が公爵家が持っております。

それだけではなく、オーラス家の生活費も全て我が家で見ている状態です。

いきなり相手側になんの落ち度もなく破棄すればオーラス家が露頭に迷う事になりますので時間の猶予が必要になります。」

「あの男の浮名だけでも十分破棄の理由になると思うが。」

「あの方の浮名は婚約当時からの物ですので、今更それを理由には出来かねます。」

「ちっ!忌々しい!」

ゆっくりとエンリは立ち上がる。

「仕方ない、将来的には破棄される婚約だ。

今は我慢しよう。」

エンリが私との距離をまた少し縮める。

「しかし、タダという訳にはいかない。

前払いで我慢料を支払って貰う。」

「我慢料とは?」

「…」

「…」

私達は見つめ合う。

風の音も聞こえない二人だけの世界が温室の中にあった。

「口付けを許して貰えるだろうか。」

言われて頬が赤くなる。

「サナ…」

エンリの右手が優しく頬に触れる。

「赤くなってる…可愛すぎる」

「エンリ様…揶揄うのはおよしください。」

「からかってなどいない。俺は本気だ。

…サナ、ダメか?

その唇に触れる許可を…」

私は小さく頷く。

途端、エンリの右手が私の顎にかかり上を向けられる。

視線がかち合う。

エンリだって顔があかい。

目には情欲の色がある。

ゆっくりとエンリの顔が近づいてくる。

どちらからともなく目を閉じた。

二人の距離がゼロになるまで、後3、2、1…



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