ゲーム外イベント発生
それは授業が終わった直後に始まった。
「ゼウス・オーラス!」
教室中に響く声に皆の動きが止まる。
エンリが席を立ち、席に座っていたゼウスに指を突きつける。
「貴様は男か?」
「は?」
エンリの問いに間抜けな声をあげるゼウス。
「男なれば永遠の愛を誓った乙女に対し誠心誠意尽くすのが道理!
なれど、その不誠実な行いは目に余る!」
エンリは本気でゼウスに怒鳴りつける。
「貴様はサナ・フェルゼン公爵令嬢という将来を誓いし乙女がいるにも関わらず、他の女にうつつを抜かしている!
その行いにどれだけフェルゼン嬢を傷つける行為か考えた事はないのか!?」
そしてさらにくるりと振り向きララを睨みつける。
「そしてララ・サクアミ!」
今度はララに指を突きつける。
「貴様は恩知らずにも程がある!
フェルゼン家に保護され学園に通わせて貰い、さらには勉強まで特別に見てもらっているにも関わらず、フェルゼン嬢の婚約者に色目を使う!
それは犬畜生にも劣る行為だ!恥を知れ!!」
しーーーーーん
教室中が静まり返った。
恐らく、この教室で今二番目に頭が動いているのは私だろう。
ちなみに一番はエンリだ。
…まずは落ち着こう。
この場面は一体なんだろうか?
ゲームではこんなシーンなかった。
そりゃ、攻略対象が主人公を公開処刑よろしく戒告なんてするはずない。
しいて似たシーンをあげるなら、悪役令嬢サナ・フェルゼンが主人公に対して最初の警告をするシーンか。
でも、それだってこんな公開処刑じみた事はしてない。
数人でこっそり主人公を囲み『近づかないでくださる?』ってやるのだ。
さらにいえば、悪役令嬢は相手の男には何も言わない。
なのに、今回はゼウスメインで戒告している。
似ていると言えば似ているけど、やっぱり全然違う。
…。
もしや、これって私が逆ハーに動いているが為に起こったゲーム外イベント!?
だったら回収すべき?
うん、この状態を纏められるのって私だけだな。
イベント云々置いておくとしても、なんとかしなくては。
私はかたりと音を立てて立ち上がる。
その音で我に返ったと思われるゼウスとララ。
「エンリ様、私の為にありがとうございます」
まずは優雅に一礼。
「いや、サナの為という訳ではない。
そこの男の不誠実な行いに同じ男として腹が立っただけだ。」
頬を赤く染めて言っても説得力ゼロですよ。
さて、いかに私が悪役に回らず、さりとて二人に釘をさす方法。
欲を言えば攻略対象中最も好感度が低いゼウスの好感度を上げるようなセリフで纏めなければ。
「それでも嬉しく思います。」
そしてまずはゼウスに顔を向ける。
「ゼウス様。ゼウス様はララ様をお慕いしているのでしょうか?」
「え?そりゃ、好きだよ?」
「では、私は?」
「好きだよ?」
「私とララ様どちらをよりお慕いしてますか?」
「同じだよ?」
好きに違いがあるの?と言わんばかりの表情で言う。
それがエンリの怒りに油を注ぐ。
「貴様!」
「エンリ様。」
私はエンリの言葉を遮る。
「でしたら私はまだ終わってない…いえ、始まってすらないと言う事。
今まで、ゼウス様の行いに関しては目を逸らして来ましたが、それは婚約者として私の怠慢だったと猛省致します。
今後はゼウス様との仲を深める努力をしていきたいと思いますので、改めて宜しくお願いします。」
「ん?うん。よろしくね!」
続いてララを見る。
ララはゼウスよりは色恋沙汰に明るいのか、少し罰の悪そうな顔をしている。
「私はフェルゼン公爵令嬢としてララ様を保護している立場ですが、長い付き合いでララ様の性格は熟知しております。
本日、私の婚約者と手を繋ぎながらの登校は何も考えてなかった…男女の意図はなかったのですよね。
…寧ろ、誰かに何か言われての行いだったのではないかと推測しております。」
ちらりとジークハルトを見る。
なんともいえない表情をしていた。
「私はともかく、ゼウス様をお慕いしている女性は想像を遥かに超えて多くおります。
故にゼウス様と密接に関わりますとその女性の嫉妬に害される可能性があります。
昨日のアレはまだララ様の今後の頑張りで対処可能ですが、女の嫉妬は理屈ではありません。
一度点いた嫉妬の炎はそう簡単には鎮火しません事を覚えておき、今後は軽々しく他人の口車に乗らないよう注意申しあげます。」
「…はい…」
ララが小さく頷いた。
よし、あとは終焉の合図だ。
私は実は教室からで損ねていたカザンを見る。
「先生、私どもの問題でお時間をとり申し訳ありませんでした。
今後はこのような事がないよう致します」
一礼して詫びをいれる
「いや、大丈夫だ。
お前たち次の授業は音楽室だ。
そろそろ移動しないと授業に間に合わないぞ!」
カザンの言葉に教室の時間が動きだした。
ばらばらとクラスメイト達は移動を開始する。
私も教科書を片手に移動をはじめるが、エンリの隣にそっと動く。
「エンリ様。」
小声で話しかける。
肩が触れ合う程に近い。
彼の体温を感じる。
エンリは此方を見ない。
きっと見れないのだろう。
「本当にありがとうございます。
この借りは必ず返します。」
私はそれだけ言って去るつもりだった。
「まて、サナ。」
「はい?」
私は足を止める。
「借りを返すと言ったな?」
「はい。」
「ならば、今日、委員会掃除後、裏庭の温室で会おう。」
私がそれに答えるより早くエンリは足早に取り巻き達と音楽室へと移動していったのだった。




