花の意味
次の日の午後
私は約束どおりアリスを街に連れ出した。
アリスには障壁を張る術式を込めた布切れを小さな袋に入れ紐を通した物をお守りと言って首にかけてもらっている。私が朝宿屋に戻った時に作った物だ。障壁で物理的に触る事が出来なければアリスの魔法も暴発しないだろうと考えたのだ。
私が魔力を込めて作ったので半日くらいなら大丈夫と言って出かける前にアリスに渡したのだ。この障壁がある限り私以外がアリスに触る事は出来ないだろう。
「アリス、あっちの方に行ってみましょう。」
アリスは通行人がすぐ横を通るたびにビクリと緊張して固まってしまう。大丈夫だと言う私を信じていないのではなく、頭でわかっていてもというやつだろう。なので私はアリスの手を引きながら歩いている。
本当はこのまま街を練り歩くつもりだったのだがアリスが借りてきた猫のような状態になってしまっている。人ごみは避けたほうがいいだろう。予定を変更して思いついた場所に向かって歩いて行く。
「リズどこへ向かっているの?」
「それは…あっ!ここからなら見えますね。あそこですよ。」
私は街の外を指差した。その先には昨日私が街に入る前に登った丘があった。
「ピキナ山に登るの?」
「あれ山なのですか!?」
思わずアリスに詰め寄ってしまった。
「え…その…街の人はそう呼んでるわ。」
ええ~。山と丘の明確な定義はないのだがあれを山と呼ぶのはなんか納得いかない。どうだったらいいのかと言われると困るのだが。昨日とあわせて私が持つ山のイメージを完全粉砕された。
まあ、あれが丘だろうが山だろうが登る事には変わらない。上からの景色は綺麗だったし街を一望できたので今日の外出の趣旨にもそうはず。
私達は山?目指して歩きだした。
「アリス。一旦この辺で休憩しましょう。」
山?の中腹あたりで一息つく事にした。私は休まなくても大丈夫なのだがアリスがしんどそうだったからだ。
「はぁ…はぁ…。ありがとう…。ほとんど外に出ないから…体力なくて…。」
魔法でアリスをサポートすれば良かったかなとも思うが多少苦労したほうが今日の事が印象に残りやすくていいだろう。
アリスが腰を下ろして休んでいる間私は周囲を少し歩いてみる。
「あっ綺麗な花!…えーと何て言う花でしたっけ?」
私は赤い鮮やかで大きな花を見つけた。今日の記念にアリスにプレゼントすれば部屋に飾ってもらえるかもしれない。そんなことを考えながら近づいて赤い綺麗な花に手を伸ばした。その時、どこからか虫が飛んできてその赤い花にとまった。
ぱくん
そしてその赤い花は虫を包み込むように閉じてしまった。
「………………………。」
「リズ。なにか見つけたの?」
見なかった事にしよう。ここには食虫植物なんてなかった。だから私はそれをアリスにプレゼントしようとなんてしていない。
「い、いえ。この辺に綺麗な花があったように見えたのですが気のせいだったようです。…あっ…でもほら!」
私は近くに青い小さな花を見つけ素早く摘み取った。
「可愛い花を見つけました。…良ければアリスにプレゼントしたいのですが貰ってくれますか?」
「本当!…えっ………でも…それ…。」
アリスは驚いて眼が私の手にある青い花と私の顔を何度も往復している。よく確認せずに手にとってしまったがなにか良くない花だったのだろうか?私は手の中にある青い花をよく確認する。確かこの花は別に毒を持っていないしさっきのような食虫植物でもない。ただの可愛い花である。ふと、私はこの花を受け取ると幸せになれるという謂れがある事を思い出す。とっさの事とはいえプレゼントとしても申し分ないはず。
「この花を貰った人は幸せになれるそうですよ。アリスに受け取って欲しいです。」
アリスの顔が一瞬で赤く染まった。
「でも…わたし…リズとは昨日出会ったばかりよ。」
ああ、アリスはこの花の謂れを知っていたのですね。そんな花を会ったばかりの人からプレゼントされれば驚きますよね。でも私は会ったばかりですが友達になれたのですからアリスとはもっと仲良くなりたいし、勿論幸せにもなって欲しいと思っています。
「会ったばかりですが私はアリスの事が好きですよ。」
「!!………。わ、わたし女よ。」
「??…。知ってますよ。」
もしかしてこの花女性が貰うと別の意味になったりしましたっけ?…いや、男女どちらが貰っても同じ意味のはずです。
アリスは赤い顔のまま口をパクパクと開閉したり難しい顔になったりと忙しそうにしているがなかなか花を受け取ってもらえない。アリス花嫌いだったのだろうか?もしそうなら悪い事をしてしまった。プレゼントを断るのは難しいだろうから。
私が青い花を持ったいる手を下ろそうとするとアリスが近寄ってきて私の手の中から青い花を抜き取りました。そしてクルリとこちらに背中を向けました。
「わたしは…まだよくわからないけどリズの気持ちは嬉しかったから…。」
花が嫌いだったのではなく、アリスは照れていただけだったのですね。良かったです。しかしこの青い花、小さいので部屋に飾る物としては少々寂しいかもしれない。この大きさなら他の。
「押し花とかにすると良いと思いますよ。」
アリスの肩がビクッと動く。
「充分休みましたしアリスが良ければそろそろ出発しましょう。」
「え、ええ。そうね。わたしはもう大丈夫よ。」
再び頂上目指して歩きだした。アリスは疲労からか先ほどの休憩の時から口数が減ってしまっている。しかしそれ以外は特に何事もなく頂上に着く事ができた。
「わぁ~凄くいい景色ね。これがわたしの育った街なのね。」
「ええ、二度目ですがやはりこの景色は綺麗です。」
しばらくその場に二人で並んで腰を下ろして風を感じながらまったりと過ごす。
するとアリスが口を開いた。
「リズはこの街にはどのくらい滞在するつもりなの?」
「そうですね…街と周囲の探索が終わるまでと思っていたのでだいたい一週間ほどを予定していたのですが…。」
しかしアリスには魔術を教えると約束してしまったので一週間ではとても足りないだろう。この予定は変更する必要がある。
「一週間…か。………リズ!わたし決めたわ。必ずそれまでにマザーを説得する!」
アリスががばりっとこちらに向いてから私にそう宣言した。マザーとは今朝私がアリスの部屋で起きた時に会った人でしょう。知らない人である私が部屋で寝ていた事には驚いていたが怒る事もなく穏やかで優しそうな人だった。そのマザーからなんの許可を得るつもりなのか聞きたかったがアリスのやる気に水を差してしまいそうだったのでやめた。今聞かなくても後でわかるだろう。
「そうですか。頑張って下さいアリス。」
「ええ、勿論!」
そう言ってアリスは今日一番の笑顔を見せてくれた。
「アリス、そろそろ街に戻りましょう。」
「またあの距離を歩かなきゃいけないのね。」
「歩けなくなったら私が背負ってあげますよ。」
「ちゃんと歩いて帰れるわよ!」
※投稿ペースが戻るのは次回以降です。
次回の更新はなるべく早く