気づいた心
私は今アリスの部屋で魔術の講義をしている。
昨日お兄さんに貰った初心者用の魔法書を早速アリスに渡して使っています。実際に魔術を使う練習はまだしません。きちんと知識を持ってないと危ないですからね。特に基礎は重要ですから教える私の言葉にも熱が入ります。
「アリス、魔法を使う上で重要な事は何か分かりますか?」
「えっと…魔力と術式…かしら?」
アリスが自信なさげに答える。
「それは魔術の使用に必要な事ですね。…もっと…こう、魔術に限らず魔法を使う上で気をつけるべき点は何かって事です。」
「………う~…集中力とか?」
「そうですね。それじゃあ何故集中力が必要なのでしょう。」
「…魔法を発動するため…。」
「発動したらもう集中力は必要ないのですか?身体強化や障壁のように維持が必要な魔術もありますよ。」
「…う~…なんかリズが意地悪だ………魔法の発動と維持のため。」
意地悪をしているつもりはないのですがこの辺にしておいた方がよさそうですね。
「はい、集中力を欠くと魔法が発動できなかったり維持できず魔法が解けたりするだけでなく場合によっては暴走します。そうならないように魔法を制御するのに集中力が必要なのです。…アリス魔法を使う時に重要なのは、使おうとしている魔法は自分が制御できる物でなければいけないという事ですよ。」
これが出来ないと自分や周りの人を傷つけることになるかもしれない。私が言っている事は当たり前の事なのだがこれが難しい。私自身これができてない事が多々あるのだから。というかこれを100%実行するのはほぼ不可能だろう。新しい魔術の開発や魔術の練習などで失敗するなと言っているようなものである。しかし、だからといって無視できない…忘れてはいけない重要な事なのだ。
「それではどうなったら魔法を制御できていると言えるでしょう。」
「…魔法を自由に使えるようになったらかしら?」
「ええ、魔法を自由に扱える事。でもそれだけでは不足ですね。もう一つ、その魔法の対処をできる事です。」
「…対処?」
「はい、対抗手段ですね。魔法が自分の手から離れてもそれを打ち消せる方法を持つことです。これは特に攻撃で使われる魔法に言える事ですね。…魔法を習得するというのは、魔法とそれの対抗手段の二つをセットで憶える事だと思ってください。」
アリスは私の言ったことを一語一句逃さないように真剣に聞いている。
「対処法を持つためにも単に術式を丸暗記するというのは駄目です。その魔術に対して深く理解することが必要なのですから。術式の確かな知識を持っていれば初見の魔術に対しても対抗方法を持つことが出来るようになりますよ。」
こんな感じに魔術の講義を進めている。まだ始めたばかりなので術式などを教える前の段階だ。
「…リズ…その…大事な話があるの…。」
魔術の講義を終えるとアリスが真剣な顔をしながら話かけてきた。
「はい、なんですか?」
「もうすぐわたしとリズが会ってから一週間よね…。」
「そうですね。」
まだアリスと会って一週間しか経ってないのか…。もっと長く一緒にいた気がしていました。そういえば最初の滞在予定期間は一週間でしたね。………旅、か…。なんか最近旅の事を考えるともやもやする。何故?
アリスはその後、言葉を続けずそわそわとしながら何か言いずらそうにしている。魔術を教える時もかなり熱心に私の話を聞いていたが時折今のようにそわそわしていたように思う。そういえば今日私が部屋に来た時のあいさつも何か硬かったような気がする。
「…リズ…あのっ…。」
それだけ重要な事なのだろうと特に急かすような事をせずに待っているとついにアリスが意を決したように口を開いた。
「…わたしもリズの旅に一緒に行かせて!」
思いがけないアリスの申し出に私はすぐに反応を返せなかった。
正直嬉しい。…凄く嬉しい。
ふいにこみ上げてくる大きな気持ちに困惑する。ここまで嬉しく思ったことに自分でもびっくりしてしまう。ちょっと混乱気味なので気持ちを整理しよう。
私はこの街を離れる事をどう思っていたのだろうと思い返してみる。
私はずっとこの街にはいる訳じゃない。いつかはこの街を離れる。とは思っていたがその時が来る事をどう思っていたのだろう?
私はやりたい事を見つけたから…決めてしまったから…この世界をもっとみたい…もっと知りたいという衝動を私は抑えきれない。抑えるつもりもない。だからこの街に留まり続ける事はできない。その事を私は理解していたから滞在期間を長く予定していなかった。
しかし、私はアリスに魔術を教えるという名目で滞在期間を延ばそうとした。すぐに他の場所に飛んで行きそうな自分の心をなんとか誤魔化してこの街にいる理由にした。もちろん約束をした時にそこまで考えていた訳ではない。約束も破るつもりはない。
…ただ私は重要な事を考えないようにしていた。…アリスにどこまで魔術を教えるのか…どこを一区切りとするのか。
区切りがつきそうになるたびに私はまだ不十分だと期間を延ばそうとしていたのではないかと思ってしまう。
何故私は無自覚にそんな事をしようとしていたのだろうか?疑問を解消するために自問自答していく。
私は怖かったのだろうと思った。…何が?…アリスと別れる事が。仲良くなった人と別れるのが。
お兄さん達が街を出ると聞いた時も思っていた以上に衝撃だった。最初から分かっていた事なのに。それでも知り合いとしばらく会えなくなるのが辛いと思った。
私は寂しかったのだろう。…アリスに会ったのはマスターが亡くなった翌日だった。…会ったばかりのアリスに友達になろうと言われて嬉しかったのはそういう事なのだろう。こうして思い返すとアリスにはとても悪いがあの時はアリスでなくても私は嬉しく思っていただろう。アリスである必要はなかった。…でもそんなもしもを考えても仕方ない。あの時会ったのはアリスだ。…友達になろうと言ってくれたのはアリスなのだから。私の中でアリスはもう特別になってしまっていた。
お兄さん達は辛かったがなんとか送り出せた。…でもアリスは…?…だから私は無自覚に怖がっていたのだろう。どうやら私はかなりの寂しがり屋らしい。
外に出て…旅に出てよかった…。私は世界どころか自分の事さえよく分かっていなかった。旅に出てなかったら自分が寂しがっている事にさえ気づかなかっただろう。外に出たことでアリスに会えた。そして気づいた事で自分がどれだけアリスを大切に想っていたか自覚できた。
私も一緒にいたいのだからアリスの申し出に嬉しく思わない訳が無い。ようやく私は自分の中に湧き上がった特大の嬉しいという気持ちに納得がいった。
今まで無自覚だったのでアリスを連れていく事を考えてはいなかったが気づいた以上アリスに言われなくても連れていきたい。というか連れて行く!
「…やっぱり…駄目…かな…。」
アリスの力の無い声を聞いてはっとする。見るとアリスは悲しそうに俯いてしまっていた。
しまった!考え事をしていたせいで私まだなんの反応も返してない!
「いえいえ、違います。あまりに嬉しくて固まってしまっていただけです。」
「…えっと…それじゃあ…!」
アリスの顔が徐々にキラキラと輝いていきます。アリスの金色の髪と合わさって眩しく感じて少し目を逸らします。それでももう一度アリスの顔を見て答える。
「アリス一緒にいきましょう!」
「ええ!」
「ところでアリス…。」
そこでふと疑問…というか問題に気づく。
「アリスの方はいいのですか?…この孤児院…マザーにも言わないと…。」
「マザーにはもう話したわ。」
いつの間に!
「それで…マザーは何と?」
「断られたわ!」
「駄目じゃないですか!」
多少時間がかかってもちゃんと説得しなくてはいけないだろう。
「最初は、よ。何度も話てね…リズが同意したら…って所まで持っていったわ。」
「凄いじゃないですか!それじゃあ今からマザーに話しにいきましょう。」
アリスがそこまで懸命になってくれていた事を嬉しく思いながらもアリスがここまでしてくれた以上、私からも真剣にマザーに話して頼まなければいけないと気を引き締めながらマザーの元へ向かうのだった。
アリスの部屋に入った時の挨拶時
「アリス早速昨日私がプレゼントしたペンダントつけてくれたんですね。やっぱり似合ってます。アリスとってもかわいいですよ。」
「…!!…そ、そう…ありがとう。」
「(あれっ。昨日渡した時はもっと喜んでいたのですが今日は顔も真っ赤になって反応も硬いですね…。)」
※次回は閑話、アリスorマザー視点(アリスは書くけどマザーは書くかは未定)更新は一週間以内を目指します。




