街の散策
私は街を散策している。
昨日の約束通りお兄さんの宿屋に行ったら一緒に街を散策しようと誘われたのだ。アリスに魔術を教えるのは今日は午後からで時間も空いていたのでその提案を受けることにした。
よく考えたら私はまだこの街の探索をあまりしていない。本当なら数日前にアリスとするはずだったのだがあの時はすぐに街の外の山?に向かいましたからね。
この街は果物が特産品らしくそれを原料にしたお酒なども有名らしい。しかし、果物の収穫時期ではないためお店に特産の果物は並んでいません。残念。お酒の方は少し興味がありますが朝から飲む物ではないでしょう。樽ごと買って後で飲むのならありかな。
「リズはどこか行きたいお店はある?」
少し前を歩いていたベルさんがこちらに振り向きながら訊ねてくる。
「いいえ、特にはありません。…途中で興味の湧いたお店を見つけたら寄ってもいいですか?」
「もちろんいいですよ。………それよりリズちゃん、服を見に行きませんか?わたし可愛い服を着たリズちゃんを見てみたいです。」
隣を歩いていたマノンさんがこちらを覗き込むようにしながら提案してきた。
「服…ですか?上にローブを着ると見えなくなるのでどれを着ても変わらない気が…。」
「なんでローブ着ること前提!今もフードまで被って何で顔を隠しているのですか?」
「その…あまり人に顔を見られたくないので…。」
正確には目を見られたくない。魔法で目の色を変えているとはいえどんな理由でばれるか分からないので保険をかけておきたいのだ。ただ知り合いに顔を隠すのは不自然なのでベルさんやマノンさんと宿屋で会っていた時はフードを外していたが…。
「リズちゃんは随分恥ずかしがりやなんですね。」
違うのだが説明しにくいので特に否定はしないでおく。
「けどあんまり同じような服装だと昨日言っていたリズちゃんの友達にも飽きられてしまいますよ。」
ズガンッと頭のなかで雷が鳴ったかのような衝撃を受ける。…飽き…られる!…アリスに…嫌われる?
「こらっ!マノン。リズを服屋さんに誘いたいからって適当な事を言わないの。リズが真に受けてしまってるじゃない。」
話を聞いていたベルさんが注意する。
「い、今の嘘だったんですか?」
「あ~ごめん。今のは確かに言いすぎだったかも。あっでも、恥ずかしいのなら街中とかの不特定多数にとは言わないからせめてその友達の前でだけでもオシャレな服を着てみせてあげると喜ぶと思いますよ。少なくともわたしは嬉しいです。」
なんで私がオシャレな服を着るとマノンさんが喜ぶんですかね?原理がよく分からない。むしろ人によっては嫉妬するのでは?
「お兄さんはどう思いますか?」
私は会話に入れずに影が薄くなりつつあったお兄さんに話題を振ってあげる。
「何がだ?」
「お兄さんはベルさんやマノンお姉ちゃんがオシャレをすると嬉しく思うのですか?」
「何でそんな話題を俺に振るんだ!………あーえっと…まあ…俺のためにしてくれているなら悪い気はしない…かな。」
…ふむ…なるほど。誰かに見せるために着飾る…ですか…。私も少しはそういう努力をした方がいいのでしょうか?喜ぶかどうかは置いておいて、少なくともアリスに手を抜いていると思われたくはないですね。
「分かりました。服屋さんに行ってみましょう。」
「やった!…確かこっちの方によさそうなお店がありましたよ。」
ハイテンションなマノンさんの案内で服屋にやってきた。
「あの…私今まで気にした事がなかったのでどういった服がいいのか分からないのですが…。」
「心配しなくても今回はわたし達がリズに似合う服を見繕ってあげるわ。」
「そうですよ。…とりあえず試着してみましょう。」
いつの間にかベルさんも気合が入っているのですが…。
その後、ベルさんとマノンさんそして店員の人がかわるがわるいろんな服を持ってきて私は着せ替え人形のごとく試着し続けたのだった。
「お待たせしてすみません、お兄さん。」
店を出るときには結構時間が経っていた。私はずっと手持ち無沙汰だったお兄さんに声をかけた。
「ああ、もう慣れたから別にいいよ。…リズも結構楽しんでたな…。」
「…ベルさんやマノンお姉ちゃん達の反応が面白かったのでつい…。」
試着するたびに少しづつ違う反応が返ってきたのでちょっと楽しかった。
ベルさんとマノンさんもお店から出てくる。
「今度はどこに行きますか?」
「昼食…にはまだ早いわね。」
「それなら武器屋に寄っていいか?そろそろ頼んでた武器の加工が終わってる頃だと思うんだ。」
「分かりました。次は武器屋に行きましょう。」
武器屋に向かう道中。
「お兄さん武器の加工って何ですか?」
「んっ。武器の加工ってのは武器に任意の術式を刻んでもらう事だ。戦闘中に武器に魔力を流すことで武器が頑丈になったり切れ味が増したりするんだ。」
なるほど。…この前の地下遺跡でお兄さんの剣が壊れてしまいましたから新しい剣を買ってその加工を頼んでいたのでしょう。
武器屋に着いてお兄さんが店員から剣を受け取ってくる間私はお店に並んである商品を眺めていく。
「リズちゃんは武器にも興味あるの?」
「そうですね…。私は武器はあまり扱えませんがこうやっていろんな武器がそろっているのを見るのは楽しいですよ。」
「そうなんだ~。…リズちゃんは魔法使いだからあまり使う事はないと思うけど旅をするならナイフとか懐剣は持っておいた方がいいんじゃないかな?」
「ちゃんと持ってますよ………ほら…。」
私は異界空間からナイフを取り出した。ナイフに関わらずマスターの屋敷にあった物を片っ端から持ってきたから大抵の物はそろっていると思う。
「あれっ!どこから出したの?手品?」
「いえ、魔法ですよ。」
マノンさんに説明する。
「魔法ってそんな事まで出来るんですか…。凄く便利ですね。」
「よければ作りましょうか?」
「…作る?」
「はい…何か適当な袋に武器の加工みたいに術式を刻めば似たような効果のものができると思いますよ。」
「そんな事ができるの?」
「はい…たいした手間では無いのでやってみますね…。」
異界空間から鞄出した。本格的な異界空間の術式を刻むには面積が全然足りないのでかなり簡略化した術式を鞄の内側に魔法で焼き付ける。他にも鞄を丈夫にするものと術式が消えないように保護する効果のものを追加した。
「どうぞ。」
「本当にすぐだった………これ貰っていいの?」
「もちろんです。」
「ありがとうリズちゃん。」
お兄さんも新しい武器を受け取ったので武器屋をあとにする。マノンさんがお兄さんとベルさんに私があげた鞄の話をした。
「リズ…気持ちは嬉しいがあまりこういうのを人にホイホイあげないほうがいい。便利すぎるから厄介事に絡まれるかもしれないぞ。」
「親しい人以外に作る気はないのですが………以後気をつけます。」
ちょっとしょんぼり…。
「リズ…ほらっ…」
お兄さんが荷物の中から本を一冊差し出してきました。
「…これは?」
「こっちが貰ってばっかりなのはあれだからな。…これは俺が使ってた初心者用の魔法に関する本だ。リズには必要ないだろうがお友達に魔術を教える時にでも使ってくれ。」
「おお~ありがとうございます。」
マスターの持っていた本はどれも難しいものばかりでしたからどうしようかと悩んでたんですよね。これは助かります。
その後、途中にあった露天に寄らせてもらってそこでペンダントを買った。魔力操作ができるようになったアリスに記念としてプレゼントしようと思ったのだ。
なんやかんやしている内にお腹が空いてきたので昼食を取る事にした。
「リズ…俺達は明日この街を発とうと思う。」
食事が終わる頃にお兄さんがそう告げた。
「そうですか………寂しくなりますね…。」
「まあな…まあ何かあったら前言ったとおりギルド通して連絡してくれたらいいよ。………永遠に会えない訳ではないからそんな深刻そうな顔しなくていいぞ。」
その後、お兄さん達に改めてここ数日間のお礼を言って別れたのだった。
別れ際
「マノン…そろそろリズを放してあげなさい。」
「残念!今回はリズちゃんの方から抱きついてきているのですよ。………泣きそうになっているリズちゃん…このまま持って帰りたい。」
「止めなさい!」
※次回の更新は一週間以内を目指します。




