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街への帰還

 この周辺が更地になっているのはやっぱりソニックバードの仕業なのだろう。

 幸いお兄さんが継続して認識阻害魔術を使ってくれているおかげで気づかれてはいない。ソニックバードが冷静だったならば私達に気づかなくても地下遺跡の出入り口が開閉した事には気づけたと思うが。


「お兄さん。あのソニックバードをこのまま放っておくのはまずいと思うのですが…。」


 ソニックバードの行動範囲は広い。この遺跡に来た時にお兄さんがソニックバードを一羽倒したのも近くの街や村、街道が行動範囲に入ることを恐れたからだろう。今のように我を忘れて暴れている状態なら尚更…移動されると非常に危険だと思うのだ。


「そうなんだが…空を飛ばれるてしまうと俺では手の出しようがない。」

「…私が魔術で撃ち落とします。」

「ソニックバードは高速で飛行する事もできる。中途半端な攻撃だと避けられるぞ。」


 お兄さんの言うとおり飛行中のソニックバードに攻撃を当てるのは困難です。避けられない位の飽和攻撃をするか大火力で面を吹き飛ばすぐらいはしないと当たらないでしょう。


「一撃で決めます!」


 飽和攻撃だと攻撃を当てる事ができても倒すのに時間がかかれば反撃されてしまうかもしれない。土地を更地にできるほどの強さを持った魔物の反撃を受けるなんて考えただけでぞっとする。なので大火力の魔術で反撃の隙を与えることなく倒すことにした。

 で、でも…そういう魔術はまだ使ったことがないからどの位威力が出るのかよく分からない…避けられないように攻撃指定範囲を広く取るからその分威力が分散して火力不足なんて事にならないか不安だ…。そういえばさっき地下遺跡で見つけた本の中に魔術の効果を高める研究の事が書かれてあった。あの術式の一部を少し流用して組み込めばちょっとは火力の足しになるかな。


 時折、ソニックバードが私達とは関係ない場所に魔術を撃ち込む。


「完全に暴走してるな。」


 魔物はあまり繁殖しないため番になっているを見るのは滅多にないことだろう。片方が死ぬとこんなに怒り狂うのか…。そりゃそんだけ魔術を撃ちまくれば一面更地になるわけだ。


 こっちに攻撃が飛んで来ないように祈りながら魔術を構築していく。…よし…準備完了。………念のため…念のために結界と障壁を張っておこう。…外すなんて思ってませんよ。念のためです。


「いきます…。」

「頼むぞ、リズ。」


 構築した術に全力で魔力を込め始める。………あれっ…まだ発動しないの?…もう相当魔力を込めたはずなのに…。発動に必要な魔力量に達していないのか、なかなか発動してくれない。


 …早く…発動して…。…ぎゃー…ソニックバードがこっち見た…気づかれた…!


 膨大な魔力を隠蔽しきれず、本能で危険を察知したソニックバードがこちらに魔術で攻撃を加えようとしているのが見える。


 焦るがここでパニックにはなってはいけない。失敗する訳にはいかないのだ。これ以上余計な事を考えないように魔力を込める事に集中する。


 ………………………。


 そしてついに魔術が発動する手ごたえを感じた。………燃費悪すぎでしょう…。こんなに魔力を使うとは思わなかった。…原因は思いつきで組み込んだ本から流用した術式でしょう。まさかこんなに魔力を食う術式だったとは…。


 私は目の前が真っ白になるのを感じ気を失った。




 眩しさを感じて目を開ける。


「ふぁ~~。」


 ベッドから上半身を起こして欠伸をしながら体を伸ばす。窓から光が入ってきている。いつもより遅い時間に起きてしまったようだ。

 ………私いつベッドで寝たのだろうか?


「気がついたみたね。おはよう。」

「おはようリズちゃん。どこか体に異常を感じる所はない?」


「………おはよう…ございます?…えっと…大丈夫…です。」


 えっ………誰…?

 いきなり知らない女性二人に話しかけられ困惑する。一人は十代後半くらいで明るい栗色の髪を後ろで一纏めにしており部屋にあるテーブルの席について大きなオレンジ色の瞳でこちらをみている。もう一人は私より少し上の十代半ば位。群青色の髪をストレートでおろしていてあやめ色の瞳を輝かせながら隣のベッドに腰掛けており彼女には狼のような耳と尻尾が生えている。獣人族なのだろう。ベッドの上で尻尾が凄い勢いで振られている。

 コンコンッというノック音の後に部屋にもう一人入ってくる。


「おはよう…。おっ…リズ気がついたのか。もう大丈夫なのか?」

「…おはようございます。…お兄…さん…??…その顔はどうしたのですか?」


 お兄さんの顔は誰かに殴られたかのように腫れ上がっており別人かと思った。声でなんとか判別をつけたが…。


「これは…不幸な行き違いでね…。」


 お兄さんがどこか遠い目をしながら答える。


「イリーが紛らわしい事をしてるからよ。」


 栗色の髪の女性が少し不機嫌そうに答える。

 イリー?ああそういえばお兄さんはイリオンという名前でしたね。…結局顔が腫れている理由はよく分からなかったが後で治癒魔法を使って治してあげよう。


「お兄さん、ここはどこですかそれとこのお二人はいったい…後ソニックバードはどうなりました。」


 記憶にある最後の場面を思い返す。魔術も発動しましたし無事にここにいるという事は倒す事ができたのだとは思うが言葉にしてきちんと聞いておきたかった。


「安心しろ。リズの魔術でちゃんと倒せたよ。けどその後、お前は魔力切れで気絶しちゃたからチャドゥの街まで戻って俺達が取ってた宿で休んでもらってたんだ。そしてこの二人は俺のパーティーメンバーだ。紹介するよ。ベルとマノンだ。」


 栗色の髪のお姉さんがベル、獣人のお姉さんがマノンという名前らしい。


「はじめまして、ベルよ。よろしくね。」

「よろしくリズちゃん。わたしはマノンです。」

「…リズです。ベルさん、マノンさんよろしくお願いします。」


 するとマノンさん近づいてきてガッと両肩をつかんできました。


「リズちゃん!」

「はい?」

「わたしのことはお姉ちゃんと呼んで欲しいです!」

「えっ?」

「お・ね・え・ちゃ・ん・!」

「…マノン…お姉ちゃん。」


 マノンさんは一瞬だけフリーズして。


「…か…かわいいです!わたしこんな妹が欲しかったんです!」


 私の両肩を前後に揺すってきた。


「こら、マノン。そこらへんにしときなさい。」


 ベルさんに窘められマノンさんは私を解放してくれた。


「リズ。これから朝食を取ろうと思うんだが…俺達と一緒にどうだ。」

「あっ。わかりました。私も行きます。」


 私達は食堂に移動して食事をとる。私の隣にマノンさん、前にベルさん、斜め前にお兄さんが座った。


「昨日はなんかイリーが危ない目に遭わせたみたいでごめんなさいね。」


 ベルさんが私に謝ってきた。


「いえ、私が無理やり頼んで連れて行ってもらったんです。お兄さんのおかげで貴重な経験をすることができましたので感謝しているぐらいですよ。」

「俺もリズがいてくれてずいぶん助かったと思ってるよ。」


「リズちゃんが優秀な魔法使いとは聞いたけど魔力切れを起こさせるなんて…。お兄ちゃんはちょっとリズちゃんに頼りすぎだったんじゃないですか?」


 マノンさんが私の肩を抱き寄せながら言う。…非常に食べにくい。それにしてもお兄ちゃん?まあ、私もお兄さんと呼んでますし人の事言えませんね。後、魔力切れを起こしたのは私の未熟が招いた結果なのでとても恥ずかしいのですが…。


「いえ、そんな事ないですよ。お兄さんにはいろいろ助けてもらいましたから。…そういえば古代文字の解読を頼まれましたがお兄さん達はこの街にはいつごろまで滞在するのですか?」


 冒険者といっていたしいつまでもこの街に滞在する訳ではないだろう。


「そんなに長く居ないと思うが焦らなくてもいいぞ。各街のギルド同士で繋がりがあるからそっちを通してもらえれば俺達の所まで連絡が届くはずだ。取り次ぎの費用はこっちが持つよ。」


 そうだったんですか。でもお兄さんから私への連絡手段がないですね。私もずっとこの街にいるわけではないですし。私は異界空間から石ころを取り出してお兄さんに渡す。


「これは?」

「それには私が術式を刻んでいます。これも何かの縁ですし私で力になれそうな事があればそれで呼んで下さい。」


 言ってはいないが今回のお礼も兼ねている。それに持っててもらえれば私もお兄さんを探しやすい。急ぎの用事でもあったらギルドを通すよりも直接行ったほうが早いと思うし。…あまり呼び出しを乱用されると私も困るがお兄さんはそういう事はしないでしょう。


「おお~。これを使えばいつでもリズちゃんが来てくれるですね!」


 マノンさん…乱用しないでね…。


「呼び出しって…リズは普段何をしてるんだ?」

「旅ですよ。」

「それなら私達と一緒に来ない。依頼でいろんな所に行くし。リズちゃんなら大歓迎ですよ!」

「…すみません。気持ちは嬉しいのですが友達と約束していることがあるのでしばらくこの街に滞在する事になると思うのです。それに依頼の有無にかかわらずいろんな所に行きたいと思うので…。」

「それなら仕方ないな。…まっ何か困った事があったら遠慮なく呼ばせてもらうよ。」


 食事も終わり宿屋を出る事にする。


「本当にお世話になりました。」

「あと数日はこの宿屋に居ると思うからその間ならいつでも来ていいわよ。」

「というかリズちゃん私の部屋に泊まりませんか?それなら滞在中少しでも長く一緒にいれます。」

「マノンあまり無理を言うな。…じゃあリズ元気でな。あまり危ない事に首をつっこむなよ。」


 マノンさんが抱きついてなかなか放してくれなかったがこうして私達は別れた。


 ちょっと早いがアリスの所に行って昨日あった事を話してこよう。

 私は孤児院に向かって歩きだした。

「ア~リ~ス~。」

アリスの部屋の窓から頭を出してアリスを呼ぶ。

「リズ!危ないって言ってるでしょう。何で毎回窓から来るのよ。」


※次回の更新は一週間以内を目指します。

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