第1話 王様の悪口はデンジャラス
次回の投稿は、このまま5話まで連続投稿します。
「……もう一度言ってもらえるか?」
また、これか。
相手が悪いわけではない。むろん、俺が悪いわけでもない。悪いのは、どこで何をやっているのかもわからんクソ親どもだ。
なぜ、こんな名前をつけたのか。
「ソード=マスター。槍使いだ」
「ベテランの冒険者……」
「三日前にギルド登録を済ませたばかりだ。だが、安心してほしい。俺は強い」
ガニ又の半島にあるガザ王国首都グリニア──その王城で、力強く宣言してやった。
事実だ。俺は強い。
女とどこかへ消えたクソ親父。神の声を聴いたと書き置き、蒸発したクソババア。
そのせいで、毎日ずっと食うか食われるかだった。
十二歳から七年ほど、ずっとだ。
モンスターどもと、どっちがどっちの飯になるかを争う日々。
強くなるに決まっている。
なれていなかったら、ここで息をしていねぇ。
とっくにモンスターのKUSO。森の木々の肥やしだ。
だから、誰が死んでも俺は生き残る。自信がある。
だが、冒険者としてベテランかと言われれば……。
冒険者カードを作れば、必ずレベル1から。
歩くだけで経験値がたまる万歩計のようなカードだが、三日前に作った俺のカードはぴっかっぴかのド新品。当然、レベルは1。
「…………」
謁見の間の沈黙が重い。
「俺は強いぞ」
もう一度念を押す。
しかし、空気は変わらない。むしろ、更に重くなる。
「……大臣」
小太りのガザ王・カイメルスは、皺の深まった顔を赤くし、青虫のような血管をこめかみで蠢かせている。精いっぱい落ち着こうと頑張っているようだが、どう見ても失敗していた。
なんかもう……この後の展開は読めてきたなあ。
「……はっ」
王の横で気まずそうな顔で立つ大臣。出来ればこのまま逃げ去りたい──そう考えているのがありありと伝わってくる。
「ベテランの腕利き冒険者がやってきたのではなかったか?」
「ソードマスターとのことでしたので、当然そうであるかと……」
まあ、わかる。だが、恨むなら行方知れずのクソ親どもを恨め。俺のせいではない。
「槍使いだと申しておるぞ? しかも、レベル1の」
「その様で……」
繰り返すが、俺のクソ親どもに言え。
あと、レベル1で悪いか。同情はするが、確認をしなかったのはお前らの落ち度。俺は悪くない。
心の中で反論を続けていると、とうとうガザ王がブチ切れた。こめかみの青虫を元気に躍らせ、城中に轟かんばかりの怒声をあげる。
「その様で……ではないわ!! こんなド素人がどうやってファイアードラゴンを倒すのだ! すでに町ひとつに村ふたつが焼かれているのだぞ!!」
風切音が聞こえそうな勢いで腕を振り、俺を指さす。
だが、そんなことはどうでもいい。いつの間にそんなものが生えていたんだ?
ファイアードラゴンって言ったら、結構な上位種。
そこそこのお宝を持っている可能性が……。いや。でもこれ、多分最近どっかから来たんだよな?
聞いたことなかったし。
となると……、ちょっと賭けになるな。
てことは、ここは譲れねぇ。
「いや、やってこいと言うならやってきてもいいが……いくら出せる?」
ただ働きは御免だ。
……昨日バカ騒ぎしたし。
やるしかねぇ。折角の情報だ。
すべては、財布の軽さのせいだ。
現金が入らないと、バカ馬としばらく飼葉桶を挟んで睨みあいになる。
あの野郎、桶一杯にあるんだから、ちょっとくらい分けてくれたっていいのによお……。心が狭いったらありゃしねぇ。宿屋の親父とそっくりだぜ。やっぱ、飼い主に似るんだな。
ため息を吐いていると、ガザ王は真摯な俺の質問に罵声で応じた。大臣を叱責した勢いのまま吠えたててくる。
「この痴れ者がっっ! お前のようなど素人がファイアードラゴンを? どうやって? 寝言を言うのも大概にしろっ!」
デコに浮き出た血管を事故を起こしそうな勢いで跳ねさせ、ツバを飛ばす。
……ゆでダコみたいな顔しやがって。
王とか貴族ってのはこれだから。呼ばれたから来てやった客だぞ、俺は。なんで怒られにゃならんのだ。
俺のこめかみでも、青虫が柔軟体操を始め出した。
「玄人だろうが素人だろうが、要はそのファイアードラゴンを退治できれば問題なかろうが?」
盗賊のアジトを襲ったり、モンスターの巣をあさって生きてきた俺を舐めんなよ? さすがにファイアードラゴンに会ったことはないが、レッサー種の巣になら入ったこともあるぞ。
だが、まっとうな俺の意見を鼻で笑うガザ王。
思いっきり人を小馬鹿にした目で吐き捨てやがった。
「デカい口を叩くではないか。そんなに強いと言うなら、倒して報告に来るがいい。そうしたら信じてやろう」
……こいつは阿呆か。
なんで俺が証明なぞせにゃならんのだ。お前に認めてほしいなんて、いつ言った。俺は、ファイアードラゴンを処理したらいくら出すかと聞いたんだ。
仕方ない。もう一度言うか。
「で、いくら出せんの?」
ただ、余所行きの態度をするにも限界がある。
人間慣れないことはするものではない。口調も崩れてくる。
しかし、ガザ王は我が道を行く。
俺様のお気持ちなど、耳かき一杯ほども考慮する気はなさそうだ。白髪のてっぺん禿から王冠が落ちそうだが、気づいてさえいない。
「ふんっ。これだからレベル1は。そのうえ、金・金・金か。下種めが。他人のために働く勇者殿らを見習え。少しは崇高な志を持てぬのか」
…………モゾリ。
ざわつく心臓。逆立つ髪の毛。背中に走る何か。
口の端がニヤァと持ち上がったのが、自分でも理解った。
処していいかな?
腰が落ちる。手足が動きそうになる。
が、最後の理性が押しとどめる。それでも、口を抑えることには失敗した。
「民の生活を守るのは王の仕事だろうが。テメーの仕事をぶん投げてエラソーに。クソみてーな講釈たれてんじゃねーよ、このアンポンタンが。俺はね。酒と女と金! それ以外のために働く気なんか、毛頭ない!」
一瞬呆然とした顔をするガザ国王・カイメルス。だが、次の瞬間────。
「なんたる無礼な……。この痴れ者を今すぐひっ捕えろ! 衛兵ども! 何をしておるか! はよう捕えるのだ!」
癇癪を起こした。
だが、遅い。
とっくに俺は、ホールの出口に向かって猛ダッシュ。世の中、グズグズしている奴から死ぬんだよっと。
扉の両脇に立つ衛兵のうち、右に狙いを定める。
まだアタフタしているうちにと、迷いのない金的蹴りを見舞う。悶絶させた。
玉蹴られて固まっている奴のハルバードを奪い、もう片方の衛兵の頭に振り下ろす。
ブォッ。
風を切るハルバードの斧。
だが、さすがに衛兵なんぞやっているだけあって、不意を打ったというのに反応された。自身のハルバードで止めに来る。
……が。
ガキッ──ボコン。
動き出しの差が明暗を分けた。
俺のハルバードが、衛兵のハルバード越しに兜を凹ませる。耐えきれず、こちらの衛兵も昏倒した。勢いは殺されたが、そこまでだった。
「ハハッ。クソ爺ィども。アデュー」
玉座で喚き続ける王に向かって投げキッス。そのまま躊躇なく謁見の間を飛び出した。
その直後、ガザ王の命令が城中に届けとばかりに木霊する。
「その男を捕えろ────ッ!!」
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