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クズの槍使いが自由に生きて英雄になる方法~手配No.1072 ソード=マスター~  作者: 木庭 秋水


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第1話 王様の悪口はデンジャラス

次回の投稿は、このまま5話まで連続投稿します。




「……もう一度言ってもらえるか?」


 また、これか。


 相手が悪いわけではない。むろん、俺が悪いわけでもない。悪いのは、どこで何をやっているのかもわからんクソ親どもだ。


 なぜ、こんな名前をつけたのか。


「ソード=マスター。槍使いだ」


「ベテランの冒険者……」


「三日前にギルド登録を済ませたばかりだ。だが、安心してほしい。俺は強い」


 ガニ又の半島にあるガザ王国首都グリニア──その王城で、力強く宣言してやった。


 事実だ。俺は強い。


 女とどこかへ消えたクソ親父。神の声を聴いたと書き置き、蒸発したクソババア。


 そのせいで、毎日ずっと食うか食われるかだった。


 十二歳から七年ほど、ずっとだ。


 モンスターどもと、どっちがどっちの飯になるかを争う日々。


 強くなるに決まっている。


 なれていなかったら、ここで息をしていねぇ。


 とっくにモンスターのKUSO。森の木々の肥やしだ。


 だから、誰が死んでも俺は生き残る。自信がある。


 だが、冒険者としてベテランかと言われれば……。


 冒険者カードを作れば、必ずレベル1から。


 歩くだけで経験値がたまる万歩計のようなカードだが、三日前に作った俺のカードはぴっかっぴかのド新品。当然、レベルは1。


「…………」


 謁見の間の沈黙が重い。


「俺は強いぞ」


 もう一度念を押す。


 しかし、空気は変わらない。むしろ、更に重くなる。


「……大臣」


 小太りのガザ王・カイメルスは、皺の深まった顔を赤くし、青虫のような血管をこめかみで蠢かせている。精いっぱい落ち着こうと頑張っているようだが、どう見ても失敗していた。


 なんかもう……この後の展開は読めてきたなあ。


「……はっ」


 王の横で気まずそうな顔で立つ大臣。出来ればこのまま逃げ去りたい──そう考えているのがありありと伝わってくる。


「ベテランの腕利き冒険者がやってきたのではなかったか?」


「ソードマスターとのことでしたので、当然そうであるかと……」


 まあ、わかる。だが、恨むなら行方知れずのクソ親どもを恨め。俺のせいではない。


「槍使いだと申しておるぞ? しかも、レベル1の」


「その様で……」


 繰り返すが、俺のクソ親どもに言え。


 あと、レベル1で悪いか。同情はするが、確認をしなかったのはお前らの落ち度。俺は悪くない。


 心の中で反論を続けていると、とうとうガザ王がブチ切れた。こめかみの青虫を元気に躍らせ、城中に轟かんばかりの怒声をあげる。


「その様で……ではないわ!! こんなド素人がどうやってファイアードラゴンを倒すのだ! すでに町ひとつに村ふたつが焼かれているのだぞ!!」


 風切音が聞こえそうな勢いで腕を振り、俺を指さす。


 だが、そんなことはどうでもいい。いつの間にそんなものが生えていたんだ?


 ファイアードラゴンって言ったら、結構な上位種。


 そこそこのお宝を持っている可能性が……。いや。でもこれ、多分最近どっかから来たんだよな?


 聞いたことなかったし。


 となると……、ちょっと賭けになるな。


 てことは、ここは譲れねぇ。


「いや、やってこいと言うならやってきてもいいが……いくら出せる?」


 ただ働きは御免だ。


 ……昨日バカ騒ぎしたし。


 やるしかねぇ。折角の情報だ。


 すべては、財布の軽さのせいだ。


 現金が入らないと、バカ馬としばらく飼葉桶を挟んで睨みあいになる。


 あの野郎、桶一杯にあるんだから、ちょっとくらい分けてくれたっていいのによお……。心が狭いったらありゃしねぇ。宿屋の親父とそっくりだぜ。やっぱ、飼い主に似るんだな。


 ため息を吐いていると、ガザ王は真摯な俺の質問に罵声で応じた。大臣を叱責した勢いのまま吠えたててくる。


「この痴れ者がっっ! お前のようなど素人がファイアードラゴンを? どうやって? 寝言を言うのも大概にしろっ!」


 デコに浮き出た血管を事故を起こしそうな勢いで跳ねさせ、ツバを飛ばす。


 ……ゆでダコみたいな顔しやがって。


 王とか貴族ってのはこれだから。呼ばれたから来てやった客だぞ、俺は。なんで怒られにゃならんのだ。


 俺のこめかみでも、青虫が柔軟体操を始め出した。


「玄人だろうが素人だろうが、要はそのファイアードラゴンを退治できれば問題なかろうが?」


 盗賊のアジトを襲ったり、モンスターの巣をあさって生きてきた俺を舐めんなよ? さすがにファイアードラゴンに会ったことはないが、レッサー種の巣になら入ったこともあるぞ。


 だが、まっとうな俺の意見を鼻で笑うガザ王。


 思いっきり人を小馬鹿にした目で吐き捨てやがった。


「デカい口を叩くではないか。そんなに強いと言うなら、倒して報告に来るがいい。そうしたら信じてやろう」


 ……こいつは阿呆か。


 なんで俺が証明なぞせにゃならんのだ。お前に認めてほしいなんて、いつ言った。俺は、ファイアードラゴンを処理したらいくら出すかと聞いたんだ。


 仕方ない。もう一度言うか。


「で、いくら出せんの?」


 ただ、余所行きの態度をするにも限界がある。


 人間慣れないことはするものではない。口調も崩れてくる。


 しかし、ガザ王は我が道を行く。


 俺様のお気持ちなど、耳かき一杯ほども考慮する気はなさそうだ。白髪のてっぺん禿から王冠が落ちそうだが、気づいてさえいない。


「ふんっ。これだからレベル1は。そのうえ、金・金・金か。下種めが。他人のために働く勇者殿らを見習え。少しは崇高な志を持てぬのか」


 …………モゾリ。


 ざわつく心臓。逆立つ髪の毛。背中に走る何か。


 口の端がニヤァと持ち上がったのが、自分でも理解(わか)った。


 処していいかな?


 腰が落ちる。手足が動きそうになる。


 が、最後の理性が押しとどめる。それでも、口を抑えることには失敗した。


「民の生活を守るのは王の仕事だろうが。テメーの仕事をぶん投げてエラソーに。クソみてーな講釈たれてんじゃねーよ、このアンポンタンが。俺はね。酒と女と金! それ以外のために働く気なんか、毛頭ない!」


 一瞬呆然とした顔をするガザ国王・カイメルス。だが、次の瞬間────。


「なんたる無礼な……。この痴れ者を今すぐひっ捕えろ! 衛兵ども! 何をしておるか! はよう捕えるのだ!」


 癇癪を起こした。


 だが、遅い。


 とっくに俺は、ホールの出口に向かって猛ダッシュ。世の中、グズグズしている奴から死ぬんだよっと。


 扉の両脇に立つ衛兵のうち、右に狙いを定める。


 まだアタフタしているうちにと、迷いのない金的蹴りを見舞う。悶絶させた。


 玉蹴られて固まっている奴のハルバードを奪い、もう片方の衛兵の頭に振り下ろす。


 ブォッ。


 風を切るハルバードの斧。


 だが、さすがに衛兵なんぞやっているだけあって、不意を打ったというのに反応された。自身のハルバードで止めに来る。


 ……が。


 ガキッ──ボコン。


 動き出しの差が明暗を分けた。


 俺のハルバードが、衛兵のハルバード越しに兜を凹ませる。耐えきれず、こちらの衛兵も昏倒した。勢いは殺されたが、そこまでだった。


「ハハッ。クソ爺ィども。アデュー」


 玉座で喚き続ける王に向かって投げキッス。そのまま躊躇なく謁見の間を飛び出した。


 その直後、ガザ王の命令が城中に届けとばかりに木霊する。


「その男を捕えろ────ッ!!」

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