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探偵アケチの黙視録  作者: 弐乃
落ちる警官
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フミヨの御伽噺8 姉は弟の背を優しく押す

 姉のセーラー服を着て熱く昂ぶるロクロウ。ロクロウは性倒錯者なのでしょうか。

 ロクロウ自身はそれは少し違うと感じています。ロクロウ少年はあくまでも少年です。自分のことを女だと思ったことも、間違えて男に生まれてしまった女だと感じたこともありません。

 ロクロウにとってセーラー服を着ること、それは変身です。改造人間や宇宙刑事が変身するように、自分も変身しているにすぎないのです。

 自分が憧れ、渇望するものにほんのひと時変身しているだけなのです。ウルトラマンは地球上でウルトラマン形態でいられるのは3分間だけです。

 それよりも時間は長いですが、ロクロウがセーラー服姿になるのも同じこと。限られた短い間だけ、スーパーヒーローならぬスーパーヒロイン、セーラーアイドルに変身しているだけなのです。

 ロクロウはまだ性的な興奮を味わったことはありませんが、このセーラー服変身はロクロウを、未だ知らぬ妖しく淫靡な世界へ誘うことになるのです。

 すでにロクロウは、セーラー服を着たときに感じる何か特別な昂ぶりに気づいています。

 そして、ロクロウにとって幸運なのか不幸なのかわかりませんが、姉もそのことに気づいているようです。

 暗い夜道を歩いてコンビニへ向かいます。途中、犬の散歩をしている人や仕事帰りらしい人とすれ違います。

 自分が女装した男だと見咎められるのではないか、自分が変態少年だと世間にバレてしまうのではないかと、ロクロウ少年の心はギュッと締め付けられます。

 それと同時に、綺麗に変身した自分を見て欲しい。まじまじと目を見開いて自分の姿を見て欲しいという気持ちが膨れ上がってくるのです。

 見られてはいけないという気持ち。穴の開くほど見つめて欲しいという気持ち。膨れ上がる期待と欲望。激しい禁忌と羞恥。自分が禁断の果実を口にしているという背徳感。

 ロクロウ少年は今、自分の中で何かが猛烈に膨れ上がり、それを抑えようとすればするほど、また別の何かが湧き上がってくるのを感じていたからです。

 自分の中の何かが崩れかかっている、壊れかかっているのをロクロウ少年は感じています。

 崩れようとしているのはロクロウ少年の倫理観でしょうか。それともロクロウ少年を縛りつけている道徳心でしょうか。それともみんなと同じように考え、みんなと同じように感じる人間の心そのものでしょうか。

 ロクロウ少年は激しい恐れと期待感に押し潰されそうになりながら、ハァハァと息を荒くし、もはや自分ではどうしようもない高揚感に激しく揺さぶられ翻弄されているのです。

 横に並んで歩いている姉は、ロクロウ少年を冷徹に観察していましたが、コンビニエンスストアの前まで来るとロクロウ少年に言いました。

「フタバちゃん、あたしもっちりクレープとプリンケーキ。それとキャラメルラテ」

 姉の声は自宅では聞いたことがないほど華やいだもので、まるで小鳥がさえずっているようです。ただその目は磨き上げたステンレスのように冷たく光っています。

「えー もっちり‥?」

 姉は優しく、それでいてカミソリの刃を忍ばせるように言葉を紡ぎます。

「もっちりクレープ、プリンケーキ、キャラメルラテ」

 ロクロウ少年は姉が差し出すペンでもって手のひらに姉の注文を書き留めました。

「お財布見ぃせて、フタバちゃん」

 姉はロクロウ少年の財布の中身を確認します。

「わぁ、フタバちゃんリッチじゃん。じゃ、よろしくねっ」

「えっー あたしひとりー?」

 ロクロウ少年は思わず尋ね返します。

「そうよぉ。あたしはここで見ててあげる。可愛い可愛いフタバがお買い物してるとこ」

 ロクロウ少年の視線は姉とコンビニの入り口の間で激しく揺れます。コンビニの中には何人かお客さんの人影が見えます。

「さぁフタバ、お買い物、ガンバッて」

 姉は両頬に手を当ててとろけるような笑顔を浮かべながらそう言うと、ロクロウ少年の背を勢いよくドンと押すのでした。

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