フミヨの御伽噺7 そして蛹は蝶になる
ロクロウ少年の頭の中は真っ白になり、ただポカンと口を半開きにして、姉の黒い感情の溢れ出した顔を見つめていました。
ただ、ドクンドクンと自分の心臓が脈打ち、自分の下半身がカクカクと震えているのを感じるばかりで、何一つ言葉が出てこなかったのです。
今、この場所が、交通量の多い道路の脇でも、高い渓谷に架かる橋の上でもないことに、ロクロウ少年は感謝すべきでした。
あまりのショックに心の窓が全てガラ空きになり、心が白濁したような状態です。
もしこの時姉がひとこと「飛び込め!」と言っていれば、ロクロウは反射的に車の流れに、或いは深い谷に飛び込んでいたでしょう。
ロクロウの心はショックによる麻痺状態で、あらゆる心の防御を完全に放棄していましたから。
しかし、幸運にもというべきか不幸にもというべきか、姉が言ったのは別の言葉でした。
姉は鞭打つような苛烈さで、
「着替えろ!」
と言い放ちました。ロクロウは「ヒッ」と小さく飛び上がると、涙をポロポロこぼしながらズボンのベルトに手をかけました。
姉は刺すように鋭く熱い目でロクロウを見つめながら、
「きったないパンツねぇ。ロクベェ、あんたお風呂でちゃんと体を洗ってるでしょうね?そのきったないチンコとか?どう?」
姉がこんなにも長く自分に話しかけるのは、この一年無かったことです。
「後でちゃんと洗濯してもらうからね?」
ロクロウは下半身を剥き出しにしたまま、姉のパンティを持ったまま体を震わせていました。
今、これを履いてしまったらー もう二度と元には戻れないー
子供心にもその思いがのしかかり、ロクロウは金縛りにあったように動けずにいました。
その様子を見た姉は悪魔的な狡智を発揮し、ロクロウに囁きかけました。
「ロクロウ、可愛いっ!」
えっー?
ロクロウは反射的に姉を見つめます。
「すごく似合うよ、ロクロウ。ううん、ロクロウじゃなくてフタバちゃんって感じ。あたしのクラスの女子にいてもおかしくないくらい、とってもキュートで可愛いよ」
ロクロウは下っ腹のあたりで何かがグツグツ煮えているような感覚を味わいながら、そっとその赤い水玉模様のふわふわの布切れに足を通しました。
「ワォ!キュート!フタバちゃんLOVE!ラブ!」
ロクロウはシャツを脱ぎ捨てるとブラジャーをつけました。
「フタバちゃんセクシー!あたしの彼氏盗らないでね?」
ロクロウ、いえ、フタバは腰をくねらせながらスカートを履きました。
「さぁ、可愛いスーパーアイドル、フタバちゃん!スカウト来ちゃうかもよ!?」
フタバは唇をすぼめながら姉に流し目を送り、セーラー服を身に着けました。
姉が差し出す口紅を受け取ります。ハァハァと息も絶え絶えになりながらピンク色の口紅を口に塗ります。
「じゃっ、出かけようか?お財布持ってきてね?甘い物買いに行こ?」
「うん、行く」
フタバはロクロウより1オクターブ高い声で返事をします。
父は居間のテーブルに突っ伏して大いびきをかいています。
姉とフタバちゃんはそっと家を出ると暗い夜道を並んで歩き始めました。
誰かに見られないだろうかー 知り合いに出会ったりしないだろうかー
心の片隅からもう一人のロクロウが不安気に顔を覗かせます。
それでも、これまで感じたことのない圧倒的な高揚感に包まれているフタバは自然と笑みが溢れスキップしてしまうのです。
フタバは体の中で熱いマグマが噴き上がるのを感じながら、
「お姉ちゃん、何食べるぅ?」
と少女言葉で尋ねるのでした。ロクロウという蛹は、ついに醜い殻を脱ぎ捨て美しい蝶になったのでした。




