102号室の住人。2
仕事で確認は大事。
そしてよくわからない食べ物の確認も大事。
あれから白米は食べられると聞いて、大盛りに盛ったご飯をナキルさんに渡してからアシェルさんから貰ったお肉について説明を受けた。
「ケルガガは、どこでも採れるこちらの世界でいえば大蛇の肉だな。早めに処理して調理すると美味しい。豚肉のような味だとタキは言ってた。ゲランは魔物の牛で、木の実をよく食べるのでその分味が濃くて美味しい。牛肉と同じだと言ってたな。サラマンダーは火山地帯に住んでいて珍しいやつだ。味は鳥肉と同じだそうだ」
「詳細な説明ありがとうございます!!!」
アシェルさんにホイッと手渡されたけれど、私はおばあちゃんのように聖女でもなんでもない正真正銘只の人間。なんの力もないから、万が一異世界の物を食べてお腹を壊しては困る‥。
おばあちゃんはよく好んで食べていたというナキルさんの言葉を信じて、私はそっと温めたアシェルさんのいうケルガガのお肉に箸を伸ばす。見てくれは完全に骨つき肉なんだけど味はどんな感じなんだろう。
はくっと食べる私をじっとナキルさんが見つめるのでちょっと緊張する‥。
と、じわっと脂が口の中に広がって、ちょっとスパイシーな味が広がる。
ああ、これあれだ!スペアリブみたいな味だ!
「美味しい!これ美味しいです!」
私が食べつつナキルさんに訴えると、安心したように微笑んだ。
ナキルさんもケルガガのお肉を上手に口に運ぶと、美味しそうにお肉を噛み締めていた。美味しそうに食べる魔王様‥可愛いな。
「これは明日アシェルさんに必ずお礼を言わねば‥。うーん、お礼の物はなにを渡そうかな」
「お礼をされて、またお礼をするのか?」
不思議そうに尋ねるナキルさんに、それは確かに‥と思いつつ、ブラック企業で誰かと関わろうものなら基本怒鳴られるか、無視されるか‥だったので、私はこの暖かい交流を続けたいと思ってしまうのだ。
「そんな事を言うならナキルさんだってお礼をしてくれたじゃないですか。同じですよ」
にこーっと笑うと、ナキルさんは「同じ‥」と呟くと、
「じゃあ俺もまた何か考えておく」
「それこそ終わらないじゃないですか」
「お互い様だ」
ふっと可笑しそうに笑ったナキルさんに、私も笑い返す。
まぁ、天ぷら蕎麦を届けさせられた縁もありますし?そういう事にしておきましょう。
二人で食後にナキルさんから頂いたお茶を飲んだけれど、美味しかった。非常に美味しかったけど、黒キノコが頭の片隅をチラついたけど‥。
そうして翌朝。
いつもより少し早めに起きて身支度をして、いつでも異世界からの宅配物が受け取れるように準備をする。黒いドアの前で箒を持ってスタンバイ!‥って、張り切りすぎだな。
ひとまずいつもの仕事をしようと、箒でドアの前を掃いていると、黒い土の中にキラキラ光る小さな石や、赤と白の土が落ちている。いつか他の住人さんにも会えるとのかなぁと思いつつ掃いていると、リンゴーンと鐘が二回鳴った。
「業者さんだ!」
ドキドキしながら黒いドアを開けると、ドアギリギリにこれでもか!!といった大きな木箱が出てきた。そうして最後に仕上げとばかりに木箱があちらから蹴り飛ばされるようにこっちへ押し出されると、黒いドアが自動的に閉まった。
お届けの時はこんな感じなんだ‥。
おばあちゃんから全く説明のなかった私は、毎回驚くことばかりだ。
ズルズルと大きな茶色の木箱に括り付けられたロープをギュッと引っ張って、宅配置場に持って行こうとするけれど‥、
「お、重い‥!!!どれだけ肉を食べるつもりなんだ‥」
最早木箱だから重いのか、中身が重いのかわからない。
「どうしよう。お肉このままだと腐っちゃうよね。アシェルさんいるなら呼んでくるか」
まだ人が出入りした感じはなかったし、きっといるだろう。
102号室まで歩いていこうと、そちらへ足を向けた途端、後ろの木箱からガタン!!と音がした。
「ん?」
何か落ちたのかな?
そう思って後ろを振り返ると、木箱の中から緑色の体に黒い縞模様が入っている大きな蛇が蓋をこじ開けて、ズルズルと出てきていて‥思わず体が固まった。
そうして、どこかつぶらな‥一時期流行ったサカバンなんとかに似た顔の蛇と目が合った。しかも二匹。
「わ、わぁああああああ!!!??」
まずい!!木箱から逃げてる!!
しかも二匹!大きな蛇!!私の叫び声を聞いて、サカバンなんとかに似たその蛇は大慌てでシュルシュルと体を動かして二手に別れて逃げ出してしまった!
「ちょ、ご町内に行っちゃダメぇえええ!!!!」
私の叫び虚しく蛇達はあっという間にうちのアパートの敷地から出て行ってしまって、倒れそうに‥いや、倒れちゃダメだぁあ!!急いでアシェルさんの家の呼び鈴を殴打した。
サカバンなんとかの顔って可愛いですよねぇ。