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22話 青薔薇の髪飾り

「では、一応、『ファントム様』にも協力を頼んでおきましょうか」


「……どちらにせよ、あのお方には、挨拶をしておかねばならないし、ついでに話をつけてこようよ」


「じゃあ、アコ兄様と姉様にお願いするね。私は、午後ずっと兄様と相席だったし、姉様も欲求不満でしょう? 私とフロッガーはここでマリー様の護衛を」


 最終的に何か決まった様で、代表してアコナイトがこうべを垂れて、マリーへ今後の予定を説明した。

 

「マリー様は、ここで自由におくつろぎください。夕食は19時頃を予定しております。この宿には浴場もあるので、汗を流したいというのでしたら、ドロセラとフロッガーに護衛をお頼みください。私とピンギキュラは、用事が出来てしまったので、しばしば席を外させていただきます。夕食までには戻りますので」


「用事? 」


 マリーの疑問に、アコナイトは大した事は無いと、かぶりを振った。

 

「この辺りに顔なじみの道具屋が多くいるのです。近くに来たので、顔を見せておこうと。物資の補給も行いたいですし」


 ピンギキュラは、アコナイトの言葉が終わると、マリーの前にあるものを差し出した。


「……もし、我々が外出中に、ドロセラちゃんや駄犬の手に負えない事態が発生した場合は、これをお使いください」


「これは? 」


 ピンギキュラが差し出したのは、細いネックレスであった。


「……私が発明した発信機能付きネックレスです。ある程度の力で引っ張ると、引きちぎれる様になっていて、引きちぎられると、私達の指輪に詳細な地点が発信される様になっています。信号を受信したら、緊急事態と判断し、すぐに駆けつけます」


 その後で、彼女は一呼吸置いて続ける。


「……アコちゃんの指輪についている探知魔法と、仕組みは同一なので、悪用は厳禁。という事で。終わったら回収します」


 マリーは、ピンギキュラの技術力の高さに感心する。


(本当に、性格がまともなら、3人共召し抱えたい位なのですが……)


*   *   *


 『オオトリ』から少し離れた位置にある市場。


 この貿易の都、ブルー・シーという街を象徴するかの様に、そこには様々な品物が所狭しと並べられている。


 アコナイトと共に市場に買い出しへ来たピンギキュラは、普段の寡黙さがどこ吹く風と、やや興奮気味に饒舌に話しかけてくる。


「アコちゃん、見て、この素材。ちょっと手を加えたら色々なものに使えるよ」


「この髪飾り、アコちゃんに似合うと思う」


「ねぇ、この技術の本、前々から探してたんだけど。買っても良いかな? 」


 よく表情を変える彼女を微笑ましく眺めながら、アコナイトは、彼女の腕をやや強引に組んだ。

 

「面白いものがあって興奮するのは分かりますが、はぐれない様にしてくださいね。この手の街には、変な輩も一定数居るのが相場です……はぐれて、ナンパなんてされたら私が発狂します」


「心配性だね。アコちゃん。私が、アコちゃんを裏切る訳ないよ。私が一生をかけてお仕えする相手なんだよ? 」


 光を失った、彼女の黒い瞳に映る自分の姿に満足したアコナイトは、ゆっくりとうなずく。


「それは頼もしい。私が死ぬまで傍にいてくださいね」


「もちろん。死後の世界までお供するよ! 」


 瞳に光の無い二人の、重たすぎる会話に、周囲の一般人は心なしか距離を取っている気もする。なんなら、変な輩も、この2人には絡まず去っていくだろう。


「こうしていると、昔、町まで遊びに行ったことを思い出しますね」


「そんな事もあったね……」


 アコナイトは、現在の様に姉妹と狂気の愛を囁き合う関係になる前、純粋だった頃を思い出した。


 思えば、あれが姉妹との初デートだった気がする。


「あの時は、そう、ピンギの母君と、ドロセラの母君がコミュニケーション(殺し合い)をするから、家人達と逃げてくれって養父殿(父上)から特別に外出許可……というか、命令が出たんでしたね……」


「……帰って来た時に、豪傑の父上が、疲労困憊で母上達を押さえつけ、屋根に大穴が開いていた時は、流石に困惑したけど」


 懐かしい思い出(帰って来た時の屋敷の惨状の衝撃で、初デートの記憶は殆ど吹き飛んだ)に浸る2人。色々とショッキングではあるが、大切な記憶には違いない。


「……我々の祖国を早く解放して、今度こそ、デートの思い出を残そうね」


「ええ。私とピンギと、ドロセラの3人で」


 静かに、しかし、固く2人は誓い合った。


「実は、あのデートの時、私、ピンギからプレゼントを貰ったんですが、覚えていますか」


「……何をあげたっけ? 」


「この髪飾りですよ。今でもお守りにしているんです」


 アコナイトは貴重品を入れている小袋から、青い薔薇を模した髪飾りを取り出した。


「そういえばそうだったね」


「青い薔薇です! 魔女様にあげます! って、変な興奮をしながらくれましたよ」


「今聞くと恥ずかしいね……当時は、2人の人格が別ものってことを知らずに、アコちゃんと魔女様を同一視してたからなぁ……」


 少し頬を赤く染めるピンギキュラ。そして、髪飾りを見たピンギキュラは興味深い事を言う。


「思い出した。その髪飾り、魔法効果付与の練習の為に、ちょっと細工がしてあるの」


「細工……? どんなのですか」


「髪につけると、一時的に魔法攻撃の威力が増すんだよ。とはいっても子供の頃作ったものだから、そこまで大きな効果は期待できないけど」


「それでは、今度モンスター狩りの依頼を受けた時には、つけて行ってみましょうか」


「今度、と言わず、今つけて? 」


「……仕方ないですね」


 アコナイトは、青色の薔薇をサイドの髪につけた。雰囲気がより妖艶になった感がある。


「流石アコちゃん! 似合ってる! 美少女! 美少女!」


「そうですか? 」


 アコナイトは、静かに微笑みを彼女へ向ける。その笑みは、この乳母姉の心に致命的なダメージを与えるのに十分だった。


挿絵(By みてみん)


「ああ、私のプレゼントをアコちゃんがしている。尊い、尊い……。天使様は実在した……。美しい……。ああああああああああ! 女神アグトク様、この世にアコちゃんを生んでいただきありがとうございます! ありがとうございますぅぅぅ! いけない、鼻血が……でも、興奮しないなんて無理……! アコちゃんアコちゃんアコちゃんアコちゃん好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」


 感極まって、自身が崇拝する女神に対し感謝の祈りを捧げるピンギキュラを、アコナイトは苦笑しながら眺める。


「そんな女神へ拝み始める程、興奮しなくとも……嬉しいですが」


 だが、これまでの軟禁と、戦争で、自身の存在価値について幾度も悩んで来たアコナイトにとっては、自分が生まれてきた事を祝福してくれる存在がいる、というだけで救われる思いがあるのは、ありがたい事だった。


 少し、オーバーすぎる事は否定できないが。


*   *   *


「ピンギ。では、そろそろ、『あの店』に行ってみましょう」


 買い出しと、いちゃつきと、興奮の後、アコナイトの言葉に、ピンギキュラは少し表情を硬くした。


「いよいよ行かなきゃ駄目かぁ……。正直、あの店の主(ファントム様)、苦手でね」


「しかし、ここまで来た手前、行かない訳には行かないでしょう。我々が、ブルー・シーに来たのに無視して行ってしまった、というのが彼女に伝わるのは、色々と不味いです」


「む……」


 正論を言われ、ピンギキュラは黙らざるをえない。


 これから彼らが会おうとしている相手は、それなりに厄介な人である。変に遺恨を残すと後が怖い。


 ピンギキュラの不安を象徴するかの様に、頭上を飛ぶカラスが、不気味な声で鳴いた。


「カラスが不気味な声で鳴くと、人が死ぬ、なんて迷信もありましたね」


「アコちゃん、変な事言わないでよ……」




ピンギキュラ「ふふ……ふへへ……ぐへへ」

アコナイト(ピンギが先程からずっと、いやらしい目で私を見つめてきます)

ピンギキュラ「デートだから火炎放射器を持ってこなくてよかったよ。今なら、思わず興奮して祝砲代わりに引き金引いちゃいそう」

アコナイト「街中で火炎放射器ぶっぱなすのは、普通に梟首ものです」

ピンギキュラ「あ、一応火炎放射器は置いてきてるのね。って思った読者の方は、評価・ブックマークよろしくね」



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