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20話 ケルベロス(やばい子)2

「フロッガー」


 アコナイトは、フロッガーに近づき、頭に軽くチョップをお見舞いした。

 

 そのまま頭を撫でて貰えるものと思っていたフロッガーは、泣きそうな顔になって抗議した。

 

「アコ太郎! 何で叩くんだよぉ! アタシは頑張ってやったのに! 」


「頑張り方が方向音痴なんですよ。私は敵と遭遇したら、交戦せずに後退せよと命令した筈ですが……」


「だって、つい本能的に破壊衝動が湧きあがっちゃって……。少しだけなら良いかなって……」


「少しだけ? このミンチの山がですか? 」


 アコナイトが目を向けた先に転がるオークの死体は、どれも著しく損壊していて、辺りは血の海と化している。ピンギキュラとドロセラは馬車から降りて、ナイフで死体を突き刺して死亡確認をしていた。


 「いやー、始めは噛みつきと魔法で仕留めてたんだけど……。殺してるうちに楽しくなっちゃって……。 でも、アコ太郎は喜んでくれるよね! 」

 

 アコナイトは、先程よりやや強いチョップを放った。


 この様に可愛らしい人間態の容姿と裏腹に、フロッガーの思考は極めて残虐なものを抱えている。

 

 一言で言うなら、『幼児特有の残虐な思考』というやつで、他人を傷つけ、いたぶる事に、一切の躊躇が無い。幼いゆえの極めて野蛮な精神を持っている。


 今回などは最たるもので、子供が同年代の子供を殴ったり、蛙を踏み潰す様な感覚で、オークを『いじめ』た。


 自分の力を把握していない故、『いじめ』は殺戮に変わり、子供がアリを潰す様な感覚で、夢中で命の破壊に熱中した。 


 高い戦闘能力を持つ上に、それを振るう事に一切の悪気と良心が無いというのは、ある意味において彼女の最大の武器になっている。


 「フロッガー。貴女の蛮族思考は、冒険者の支援を行う契約獣として見るならば、確かに有用なものです。しかし、時と場合を選ばなければなりません。私は、敵と遭遇した時には退却する様に言いました。しかし、貴女はそれを無視し、勝手に戦端を開いた。もし軍隊なら軍法会議ものです」


 「そんな……! アタシはアコ太郎の為にやったのに……!」


 瞳の光を失ったまま、表情を曇らせるフロッガー。


 一応、こんなのでも、アコナイトに対し親愛の情はあるのだ。だからこそ、そのアピール方法がズレにズレている事が問題だった。


 「アコ太郎は私の事嫌いになっちゃった……? 捨てるの……?」


 どうも、ヤンデレ達の周りに常にいるせいか、彼女の思考も危険な方へ行っている気もする……と、思いつつ、アコナイトは判決を下す。


「別に嫌いにはなっていませんよ……。それに、ペットは飼ったら最後まで面倒を見るのがルールです。しかし、私はこのパーティーのリーダーであり、信賞必罰はしっかり行わなければなりません。……そうですね、1週間、おやつもジャーキーもお預けです。勿論、蜂蜜ケーキもです」


 アコナイトの下した罰則に、フロッガーはこの世の終わりの様な顔をした。


 「そんな……! 捨てられなかったのは良いとして、あまりにも殺生な……! 」


 「ご飯と散歩抜きにされなかっただけ、ありがたいと思いなさい! 」


 そんな判決を、アコナイトがフロッガーへ下した所で、死体の確認が済んだ姉妹2人が、アコナイトへ状況を報告した。


「……主従漫才中、失礼するね。オークは全員死亡。死因は、魔法攻撃と急所への噛みつき攻撃による出血多量、及び首の骨が折れた事による即死。下手人については……省略する」


「全員、うちの駄犬の暴走の哀れな被害者。という認識で良いんだけど、少し気になる所が」


挿絵(By みてみん)


「気になる所? 」


 ドロセラの言葉に、アコナイトは興味を持った。


 「このオーク、純粋なオーク属オーク科のやつじゃなくて、種族的には亜種にあたるデザートオーク科のサンドマン・オークって種で、その名の通り、砂漠地帯に生息するオークなんだよね。そもそも、帝国領に生息しない種族なんだよ。それに、オークってサンドマン・オークに限らず、基本的に人里近くまで接近する事って稀で、第8号線で遭遇するって事自体がそもそもおかしい。これがゴブリンなら、まだ分かるんだけど」


 「野生のモンスターでは無い、と? 」


 「恐らく、そこの駄犬と同じく、召喚獣だよ、これ。召喚獣なら死んで、というより、肉体が壊されて、しばらくしたら……ほら」


 ドロセラがそう言うと同時に、オーク達の死体は崩壊を始めた。色が薄くなったと思うと、肉体は灰になって崩れ始める。


「ほほう……」


 アコナイトはその光景を、感心半分、恐ろしさ半分で眺める。アコナイトの場合、フロッガーを死なせるまで使う事は無い。目的を果たした時点で、霊に戻してしまう為、契約獣が死ぬ、正確に言えば、壊れる瞬間を見るのは初めてだった。


「これ程多くの召喚獣を使役するとは、中々の使い手と見えますね。魔力汚染対策もどうやっているのか……」


「……優秀な魔術師を投入してくるとは、目的の為になりふり構わず、といった感じだね」


 アコナイトは、ピンギキュラの言葉に頷いた。どうやら、相当厄介な相手を敵に回している様だ。


「本命の尾行がまかれた時用に、通りそうなルートに見張りを置いていた、といった所でしょうか。召喚獣は原則として、やられても魂は浄化されず、霊として術者の所へ戻ります。恐らく、通報されたと見て間違いないでしょう。早く、ブルー・シーの街へ入りましょう」



アコナイト「いよいよ強敵出現の予感がしてきましたね」

フロッガー「うぅ……蜂蜜ケーキ」

アコナイト「果たして捕食毒華は無事にマリー様を帝都まで送り届ける事が出来るのか?!」

フロッガー「楽しみにしてたのに……! 私の、私の蜂蜜ケーキ……」

アコナイト「こうご期待! 」

フロッガー「はーちーみーつーけーきー! 」

アコナイト「食い意地張り過ぎですよ……」

フロッガー「ブックマーク! 評価! 蜂蜜ケーキ! よろしくおねがいします!」

アコナイト「宣伝くらいまじめにやってください」

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