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翌朝、俺は自分で目を覚ますことができた。
おそらく、今日は大切な用事があるから緊張とかしているのだろう。
まぁ感覚的にはあまりわからないのだが…。
俺がそう思いながら横を見ると、昨日寝た時から動いていないように見えるセシリアが寝ている。
俺が起きても目を開けないということは、まだ深く寝ているのだろう。
それにしても、やっぱりふかふかのベッドで眠ると体の休んだ感が凄いな。
俺はそう思いながら、欠伸をしてしまう…。
寝起きって、もう一度寝てしまいたくなるよね…。
俺はそう思いながらも、頑張ってベッドからゆっくりと降りる。
セシリアはもう少し寝ていて欲しい。
俺は物音を出さないように自室を出ると、塔の廊下の窓から外を見る。
外には浮島が塔の上部や下部など、様々な所に浮いている。
そこには、その浮島に合ったモンスターや亜人が生活をしている。
そう言えば、バルドゥと一緒に生活している人達はどうしているのだろうか?
俺はそう思い、首に提げていた小さいサイズになっている本の中の世界を元の大きさに戻して開く。
「えっと、仮契約欄は…」
俺はそう呟いてペラペラとページを捲っていく。
すると、仮契約している人達、名前はエリーゼか。
彼女の事が書かれている。
と言っても、仮契約だから詳しい事は書いていない。
ただ、今知りたい情報はしっかりと刻まれていた。
「状態、混乱と委縮…か。彼女達の受けた事を考えたら、当たり前か」
俺は1人でそう呟く。
バルドゥがいれば大丈夫かと思ったが、そんなにすぐには打ち解けられないか。
いや、打ち解けたが過去の事を突然思い出してパニックになっている可能性が高いかもな。
俺は更にページを捲って他の仮契約をした女性達の状態を見ると、最初のエリーゼという人と同じような状態だった。
もしくは、更に酷いくらいだ。
俺はそれを確認した後、本の中の世界を閉じて小さくして首に掛け直す。
少し様子を見に行った方が良いな。
俺はそう思うと、塔の階段を下り始めた。
そうして塔の外に出た俺は、草原島に辿り着いて歩いていた。
すると、
「…マジか」
そこには、いつ崩れてもおかしくない程ボロボロの家が建っていた…。
バルドゥも含めて、錬金術師の職業にしている者はこの草原島にはいない。
つまり、あの家は女性達とバルドゥが協力して建てたという事だろう。
そうなると、女性達が建てたと言っても過言ではないだろう。
バルドゥ達は支える程度の事は出来るだろうし。
俺がそう思いながら家に近づくと、
「すぅ…すぅ…」
「カァァ…クゥゥ…」
家の中で寝ている女性達と、家の傍で無造作に寝ているバルドゥがいる。
疲れているんだろうな。
俺はそう思い、下手に起こさない様に静かに離れて皆が起きるまで待つ。
それにしても、女性達でここまで家を建てる事が出来るなんて思わなかったな。
バルドゥは錬金術師では無いから、本当に重い荷物を運ぶとか単純な作業しか出来ないはずだ。
つまり、女性達の知識でここまで作る事が出来たという事だ。
そう考えると、ゲームの世界の俺達は決められた職業に属し、そのシステムに限られた行動する事しか出来ない。
例えば、俺がどんな職業に就いたとしてもそれに関わる行動以外は出来たとしても平均以下の腕前だろう。
そう考えると、この世界の人達は様々な事が出来るし、慣れたり訓練をすれば成長する事が出来る。
ならば、しっかりとした建築の知識や農業の知識を持っている人がいれば、俺達よりも色々な事が出来そうだな。
そうすれば、食糧問題も解決する可能性がある。
俺はそう思い、そうなるとやはりお金もいっぱい欲しいと感じてしまう。
日本にいた時はゲームの課金にお金を欲しがったが、今はちゃんとした生活などの事を考えてお金が欲しいと思っている。
こっちの世界に来たら、色々とまともになっているんじゃないか?
外だって必要な時以外は出なかったが、今は1日の大半が外だしな。
環境が人を変化させるって、本当なんだな~。
俺がそう思って一人で頷いていると、
「あ…」
1人の女性が薄いシーツを肩から掛けて歩いてきて、俺に気づいて声を出す。
家の方に背を向けている俺の視界に映るって事は、彼女は家とは違う方向からやって来たのはすぐに分かる。
どこへ行っていたのだろうか?
俺はそう思いながらも、
「おはよう、えっと…」
挨拶の言葉を発したのだが、女性の名前が分からずに気まずい空気になってしまう。
すると、
「イ、イルゼと申します」
女性が俺にそう教えてくれる。
「すまないイルゼ。俺は少し人の名前を覚えるのが苦手なんだ」
俺がそう謝罪をすると、イルゼさんは少しアワアワとしながらも、
「い、いえ。大丈夫です」
そう言ってくれる。
何故彼女はこんなにも怯えているのだろう?
俺はそう思いながら、
「寝れないのか?」
単刀直入に聞いてみる。
すると、
「も、申し訳ございません!こ、ここが合わないとかそういう訳では無いです!」
イルゼさんは俺にそう言って頭を下げる。
「いや、知らない場所に来てすぐに慣れろと言う方が無理がある」
俺も伯父さんと伯母さんの家に住み始めた時は、幼いながらも緊張や知らない場所で寝る事に不安を感じて寝れなかった記憶がある。
俺がそう思っていると、
「…暗い空間が、怖いと感じてしまって…」
イルゼさんが俺にそう教えてくれる。
「……俺にはイルゼ、お前の恐怖や体験した事を癒す事は言えない。むしろ何も知らない俺が言ったとしても、それは上辺だけの言葉に過ぎない」
俺が彼女にそう言うと、
「……物語に出てくる勇者様なら、優しい言葉を言って下さると思いますけど…」
俺にそう言ってくる。
…俺は勇者なんかじゃない。
俺は自分のしたい事や護りたい者のために、おそらく手段を選ばない様な人間だ。
全てを護って皆を癒す勇者なんか、俺には無理だ。
俺は、そこまで優しい人間にはなれない。
俺はそう思い、少し苦笑をしてしまった。
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