29頁
ブルクハルトさんの言葉を聞いて、何で彼が俺にそんな事を言ってきたのか分からない。
帝都?を襲った魔族が捕まって、奴隷になると思うからその魔族の主人になって欲しいって、何で俺なんだ?
俺がそう思って首を傾げると、
「ッ!申し訳ございません、ビステル様。しっかりと理由があるのですよ!」
ブルクハルトさんが慌てた様子で俺にそう言ってくる。
…とりあえず、最後まで話を聞くか。
俺がそう思って黙っていると、
「簡単な話なのですが、今回捕まった魔族は人族の長である皇帝陛下がいらっしゃる街の壁を破壊したのですよ。その辺の冒険者では太刀打ち出来ないほどです。幸い、帝都には超越者の帝国騎士団長が戦い捕らえる事が出来ましたが、それも奴隷となれば話が違います。私がその魔族をうちで売買できるとしても、私の信条で奴隷の感情はそのまま契約します。その際に、その魔族が主人に反抗したら手も足も出ない可能性があります。それがただの冒険者でしたら。ですが、ビステル様ならもしや…と」
ブルクハルトさんが俺にそう説明してくれる。
…金銭的な意味では苦しいが、それ以上は俺のデメリットがない。
その魔族も、どんな人か見てみたいしな。
それに、彼は良い情報や常識を知っている。
旅の間にこの世界のことを根掘り葉掘り聞いて、彼との関係も良くする事は良い事だと判断できる。
それに、さっきの説明で出てきた超越者という単語も気になる。
「UFO」では聞いた事がない単語だ。
正確には、それと似ている言葉はあるのだが…。
俺がそう考えていると、
「もちろん、お代は後日で構いません!そんなすぐに奴隷を買えるほど資金を手に入れられる訳ではないと思います」
ブルクハルトさんが俺の唯一心配している事を、そう言ってフォローしてくる。
これで、俺が彼の話を断る理由はなくなった。
…もうひと押し何か情報が欲しいな。
俺はそう思い、ここに来る前に寄ったアイテム屋での話を思い出し、
「魔法学院って、どこにありますか?」
俺はブルクハルトさんにそう質問する。
貴族しか通わない学校、ここより栄えている所に建っているのは絶対だろう。
なら、その帝都が一番怪しいと思うのだが。
俺がそう思っていると、
「魔法学院でしょうか?それなら帝都から少し離れたレベルデン王国にありますが?」
ブルクハルトさんが俺の質問に答えてくれる。
帝都ではなかったが、口ぶりからしてここからそのレベルデン王国に行くより、帝都からその王国に行った方が近いのだろう。
なら、先に行ってしまった方が良いかもしれない。
より効率よく動かないと、俺はこの世界では何も分からない子供と一緒だ。
もっといろいろと勉強をしないといけない。
…勉強は嫌いだったが、こういう状況ならむしろ勉強していきたいと思う。
俺はそんな事を考えながら、
「分かりました。同行します」
俺がそう答えると、ブルクハルトさんが緊張した顔から安堵の表情に変化して、
「いやぁ~良かった!これでその魔族の安全は確保されましたな!すぐに準備をしますので、お待ち下さい!」
ブルクハルトさんが部屋から慌てる様に飛び出して行った。
…もしかして、これからすぐに出発なのか?
俺がそう思っていると、部屋の外から荷馬車の準備を始めろとか、もっと動きやすい格好でないとダメだ!とか様々な声が聞こえてくる。
安請け合いしてしまったが、その城壁を破壊した魔族ってどんな人なのかな?
魔族のイメージも種族毎に違うからな~。
出来れば角生えていたら嬉しい、土下座してでも触らせてもらいたい。
鋭い爪も良いな、優しく研いであげたい。
尻尾は柔らかい毛が生えているタイプより、外殻とか甲皮みたいな硬くて光沢があるタイプが良いな。
磨き倒したい…。
男だろうが女だろうが、最低それくらいさせて欲しいな。
そんな感じで、1人妄想を楽しんでいると、
「お待たせしましたビステル様。馬車の準備が…大丈夫ですか?」
ブルクハルトさんが準備を終えて俺に教えに来てくれたのだが、俺の様子を見て心配されてしまった…。
「だ、大丈夫です。お恥ずかしい所をお見せしてしまってすみません」
俺が恥ずかしい気持ちを出さない様に謝罪をすると、
「いえ、どこか体の具合が悪いのでしたらお言いになって下さい。ポーションも持って行きますので飲んで下さい」
ブルクハルトさんが俺にそう言ってくる…。
本当に心配してくれるブルクハルトさんを見て、妄想で変な挙動をしていた事に申し訳なさと恥ずかしさで今すぐに塔の自室に帰りたくなる。
だが、そんな事を考えている内にブルクハルトさんに案内されて馬車に乗り込むと、奴隷館を出発して街の門から出る。
道が舗装されていない所為で、馬車は結構揺れて落ち着かない。
痛みとか馬車酔いとかのステータス的な異常は特に無いのだが、グラグラ揺れて視界が安定しないのは少し辛いな。
俺はそう思って馬車の外を見ると、どこまでも続く草原とその草原に存在する森、そして奥に見える山。
どれも美しい景色ではあるのだが、それを楽しめる世界では無い。
なぜなら…。
「…うっぷ…」
ブルクハルトさんが顔を白くさせて口に手を置いている姿を見て、誰か場所を交換してくれないかと心の中で懇願する。
俺の事を心配していないで、自身の事を心配して欲しいと思いながら、
「大丈夫ですかブルクハルトさん?こういう時は遠い景色を見ると良いらしいですよ」
ブルクハルトさんにそう言うのだが、彼は馬車の床を見つめたまま首を振るう。
仕方ない、ここで吐かれるのも嫌だ。
俺はそう思って本の中の世界からステータス異常を回復する回復薬…ポーションを取り出して、
「これ、もしかしたら効くかもしれないので飲んで下さい。御者さんに一度馬車を停める様に言いますから」
ブルクハルトさんの空いている手にポーションの瓶を握らせて、立ち上がって御者さんに近づいて一度馬車を停めて貰う。
その間にブルクハルトさんがポーションをぐいッとポーションを呷ると、顔色が良くなる。
すると、顔色が良くなった瞬間、
「な、何だこれはァァッ!?!?」
ブルクハルトさんが大声でそう叫んだ…。
と、とりあえず元気にはなった様だ。
読んで下さった皆様、ありがとうございます!
ブックマークして下さった方、ありがとうございます!
評価や感想、ブックマークをして下さると嬉しいです。
誤字脱字がありましたら、感想などで報告して下さると嬉しいです。
よろしくお願いします。




