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俺は門を潜り、街に入る。
緊張していた心は消え去り、今は奴隷として虐げられている人達を見て荒れる感情を落ち着かせようと努力する。
だが、
「さっさと働け!」
「…申し訳ありません」
「邪魔よ、獣は道の隅を歩きなさい!」
「はい。すみません」
亜人の老若男女関係なく罵倒され、亜人達も反論する事なく謝罪の言葉を口にする。
落ち着け俺、ここで暴れても意味はない。
「ハアァァ…スウゥゥ…」
俺は大きく深呼吸をして、街の道を歩き始める。
すると、今まで自分達の事にしか視線を送っていなかった街の人達が俺の事を見てくる。
この外見が、魔族に見えるからだろう。
俺がそう思って歩いていると、体格が良く背や腰に剣を差している見るからに戦闘する事を職にしているであろう男達4人がすれ違う様に俺の横を通り過ぎる。
すると、
「おいお前!」
何やら怒号に近い声が後ろから聞こえてくる。
揉め事か?
俺がそう思って振り返ると、そこには先程すれ違った男達の1人が怒った表情で俺の事を見てくる。
…え?まさか今の怒号の相手って、俺なのか?
俺がそう思って周りをキョロキョロ見ていると、
「そこのお前だ白髪の魔族野郎!」
男は更に怒った様子で俺の事を指差してくる。
「…何ですか?」
まさか今すれ違った赤の他人に怒られるとは思ってなかった。
俺がそう思っていると、
「魔族の分際で立って歩いてるんじゃねえ!這い蹲りながら移動しやがれ!」
何故かそんな変な要求をしてくる男。
とりあえず、
「俺は魔族じゃないです。人族ですよ」
魔族では無い事を男に伝える。
だが、
「そんな訳あるかッ!そこまで目が赤い奴は魔族しかいねぇんだよッ!」
男は俺が嘘を言ったと思っているのか、更に声を張り上げる。
…面倒くさいなぁ。
俺がそう思っていると、俺の事を怒鳴りつけている男の後ろにいる仲間であろう男達がクスクスと笑っているのに気がつく。
周りを見ると、男達と同じようにこちらの注目している人は皆ニヤニヤと気持ちの悪い笑顔でこちらを見ている。
亜人達は、俺の事を心配そうに俺を見ている。
…亜人達の優しさに涙が出てきそうになる。
亜人達で今は奴隷になっている貴方達の方が今の俺よりも辛い状態なのに、俺の事を心配そうに見てくるなんて。
俺がそう思っていると、
「魔族ッ!今すぐに地面に額を擦り付けて許しを乞えば、奴隷として飼ってやるッ!しなければ、斬り殺すッ!」
男が背に抱えている大剣を抜いてこちらに向けてくる。
…え?それじゃあ街の道の真ん中で殺人をするって宣言してるじゃん!
誰か~!ここに殺人をする人がいますよ~!
俺がそう思っていると、
「さぁどうするッ!それとも怖くて動けないかッ!」
男が大剣を構えて俺に斬りかかる準備を始める。
装備の状態を見る限り。レベルは40くらいだろう。
そんな奴に斬られても「UFO」ではダメージは1しか食らわなかった。
なら、こちらの世界ではどうなるだろうか?
相手は大剣だ、1しか食らわなくても斬られて無事に済むとは思えない。
…回復薬の在庫は沢山ある。
攻撃を食らっても傷を治す事は出来るだろう。
なら、人との戦いも経験した方が良いだろう、今度もモンスターだけと戦うとは考えられない。
俺がそう思っていると、
「動かねぇなら、斬り殺されてぇって事だなッ!」
男が大剣を構えながら俺との距離を詰めようとする。
だが、遅すぎる。
大剣という重い装備に、更に動きが鈍くなる重装甲の防具を着ている所為だ。
…これなら10回は攻撃できるな。
それとも、恐怖心を植え付ける為にワザと遅いのか?
俺がそう考えている内に、男の大剣の切っ先が俺に当たる距離まで縮んだ。
「死ねえェェッッ!!」
男がそう叫んで大剣を振り下ろしてくる。
…動きが素人にしか見えないな。
そんな体重を乗せた大きな振り下ろしなんかしたら、大きな隙が出来てしまうぞ。
俺が冷めた状態でそう思っていると、男の大剣の刃が俺の左肩に当たる!
そして、耳元でガキィィンッ!という硬い物同士がぶつかる音が響いて、俺は大剣による斬撃よりも耳元の音に驚く。
すると、次に聞こえたのはベキィッというヒビが入った様な音が聞こえる。
左肩を見ると、俺の左肩の上に乗っている男の大剣の刃にヒビが入り、そして大剣は生じたヒビがどんどん広がっていき刀身が折れてしまった。
そして、
「う、腕がぁぁッ!」
俺に斬りかかっていた男は力が入っていない腕に苦しんでいる。
反動が全て腕に行ったのだろう。
俺がそう思って苦しんでいる男を見た後、周りにも視線を移す。
そこには、あり得ないと言いたげな表情をしている。
人も亜人も皆がだ。
俺はその光景を見つつ、斬られた左肩に怪我がない事を考えてこの世界ではダメージが0もありえる?
でも耳元の音がキツイ、もしかしてあれが1ダメージなのか?
と、そんな事を考えていた。
すると、
「て、テメェ何しやがった!?」
「セルジルの大剣を壊しやがって!」
「ぶっ殺してやるッ!」
大剣を持っていた男の仲間がそう言って自分達の持っていた装備に手を掛ける。
時間が掛かるかもしれないが、俺は痛くも痒くもないから立っていよう。
俺がそう思っていると、
「テメェもこれまで頭を下げた亜人達と同じ様に頭を下げろぉッ!」
男のその言葉を聞いて、俺はキレてしまった。
つまり、今行われた行為はよくあるのだろう。
そして、そんな不条理に亜人達は頭を下げてきた。
こんな街の者達、亜人を除いて全員殺してしまいたくなる。
俺のその感情の所為で、威圧スキルが発動してしまう。
俺の前で腕の調子を取り戻していた男も、男の仲間で俺に斬りかかろうとしていた男達も、俺と男達の言い合い?を見ていた街の人達も、全ての人達が白目を剥いて地面に倒れる。
亜人達は、気絶していなくても俺の威圧の所為で怖がっている…。
俺は近くにいた亜人の男の子を見て、
「ごめんね」
そう謝罪をして、その場から逃げる様に走り出す。
本当なら奴隷にされていた亜人達は連れて行きたいけど、契約とか枷があってどうしようもない可能性がある事を考えて今は保留にする。
俺は心の中で亜人達に謝りながら人がいない裏路地を走る。
ちなみに、気絶していた人達は皆漏らしていたと思う。
股間部分が濡れ始めていたからな。
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