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83話

 それから起きてきた他のメンバーにも一緒に、俺は夢の内容を話す。

 つまり、どうやら俺が今まで夢の中で会っていた相手は、これからこのコジーナで革命が起きた時に討たれるであろうこの国の王女様だった、という話だ。

 ……そして恐らく、その王女様は俺の記憶の景色を覗いて、革命の詳細をある程度知っているはずだ、という事も。

「うーん……そっか。まさか、眞太郎が夢の中で行っていたのがコジーナだったなんて……ちょっとこれは想定外だよね」

「しかもその子、革命される側って、敵じゃーん……シンタロー君、どーしてそんな子の所にお邪魔しちゃったの」

「俺が聞きたいです」

 リディアさんの理不尽な言葉は、俺自身が既に数回思っている。

 よりによって、なんだってこんな板挟みにならなきゃいけないんだ。

「……もしかして、偶然じゃあない、です……か?」

 頭を抱えていたら、紫穂がおずおず、と言葉を発した。

「偶然じゃあない、って、必然だった、っていうこと、かな?」

 ペタルが尋ねると、紫穂は困ったように頷いた。

「ドーマティオンで助けてもらった時、依頼者は私じゃなくて、輝尾桃子さん、でした。……でも、困ってたのは私も、でした。だから、今回も、もしかしたら……です」


 成程。紫穂の言葉には一理ある、ような気がする。

「確かに、あり得ない話じゃ、無いよね。……私自身、アラネウムのシステムはよく分かってないんだ。でも、アレーネさんの事だから……『困っている人には何らかの形でドアを開く』ように作ってあっても、おかしくないと、思う」

「それが、俺の夢とリンクする、っていう方法だったと?」

「あり得ない話じゃないよ。コジーナにも魔法に似たものがあるみたいだし、それとアラネウムのシステムが干渉した結果、なのかもしれないし」

 ペタルの解説を聞いて、なんとなく納得がいってしまった。

 何故ならば、フェイリンは……困っているというか、何か、抱えているように見えたから。

 彼女にもアラネウムのドアが開かれるべきじゃないか、と、思える。




「じゃあ、その子も助けてあげなきゃねー!わー、大変!」

 深刻な雰囲気を吹き飛ばすように、泉が楽し気な声を出す。

「大変だけど、楽しそうっちゃあ楽しそーね。へへへへ……王城……お宝……へへへへへへへへ」

 リディアさんもやる気である。

 ……だが。

「で、でも、イェンジュさん、言ってたよね?……王の一族を皆殺し、って……」

 だが、俺達が板挟みであることに変わりはない。


「えーっと……イェンジュさん達には、王様だけじゃなくって、他の人達も殺さなきゃいけない理由があるのかなー?」

「さあ……そればっかりは聞いてみないと……」

 ……なんとなく、それは分かる気がする。

 ディアモニスでも、そういう文化が大陸にあるからだ。

 敵だったものを全て消し去って、血族も文化も歴史も、全て消してしまう。そしてその上に新しい血族や文化や歴史を作っていく。

 そういう慣習がある国は珍しくない。

 勿論、ただ慣習というだけではなく、復讐を防いだり、再び国家が割れたりすることを防ぐために、敢えて統治者の痕跡を全て消す程に破壊し尽すのだ、という理由もあるのだろうが。

「で、でも、イェンジュさん、納得してくれるかな……?」

「……イェンジュさんが納得してくれたとしても、革命は大勢の人達によるものだから……全員の理解を得るのは、難しいだろうね」

 そして俺達は、1人と1人の争いの板挟みになっている訳じゃない。

 民衆という巨大な組織と、対立する王家という組織の中の、ほんの1部分。

 俺達がどうにかしたいものは、あまりにも複雑に絡み合っていて、どうこうできそうになかった。




 それから俺達は、一度アラネウムへ戻って、オルガさんとニーナさんを置いてくることにした。

 革命が起きる、というのだから、ほとんど動けないオルガさんと、全く動けないニーナさんをコジーナに置いておくのは危険すぎる。

「ってことで行ってきまーすよっと。ほいっ」

「えっちょっとまってリディアさんまだ心の準」

 ……全員で行く必要も無い、ということで、ランダム世界渡りができるリディアさんと、世界渡りができるペタルがオルガさんとニーナさんを連れて移動した。

 その間、残った俺達は別の仕事を進める。

「イェンジュさん」

「ああ、起きたのか。よく眠れたか?簡素な小屋で申し訳なかった」

 ……革命のリーダー格であり、そして、アラネウムへの依頼者でもある、イェンジュさんに、依頼内容の交渉を行うことだ。




 俺達はイェンジュさんを連れて、貸してもらった小屋に戻る。

 ここなら他の村人が来るわけでもないから、話すのに丁度いいだろう。

「して、話、とは?」

 俺達の顔から深刻な様子をなんとなく感じ取ったらしいイェンジュさんもまた、真剣な顔をしている。

「えーと……ええとね、ちょっと最初に、聞きたいことがあるんだけどー……その……あーん、シンタロー」

 うまく言えないらしい泉のヘルプに応じて、俺が言葉を引き継ぐ。

「俺達はこの世界の文化を知りません。だから、教えて欲しいんです。過去の王朝が滅びた時、滅ぼされた王族は今までどうしてきたのか。また、どうしてそうしてきたのか」


「過去の王朝、と言うと……私が知っているのは、今のホン王一族の前の王のことだけだが、それで構わないなら」

「はい。構いません」

 内心で、『ああやっぱり』と思いつつ、続きを促す。

「ホン一族の前の王族はズー一族だった。滅びる時は……ホン一族の始祖が、ズー一族を戦で破ったのだと聞く。その後、ホン一族は新たな支配体制を作り、現在に至る。……ズー一族は特に何もしていない。というよりは、何もできないのだ。死者は何もできない」

 俺達は顔を見合わせつつ、イェンジュさんにもう少し尋ねる。

「つまり、ズー一族は、全員死んじゃったの?」

「ああ。勿論だ。古き悪しきものは全て取り替えなくては。腐った水が1滴でも残っていれば、新たな泉も毒水になる。勿論、滅びた王族自身がそうしようとするだけじゃない。滅びた一族の末梢を祭り上げて、国を2つに分かとうとする愚か者も居るのだ」

 王の一族は皆殺し。

 それによってこの世界は秩序を保ってきたのだろう。

 そうしなければ、生き残った者が復讐に来る。

 或いは、生き残った者を使ってまた国家を引き裂こうとする者が現れる。

 だから、『今の王一族の前の王のことだけしか分からない』。言ってしまえば、『歴史が残っていない』。

 ……これがこの世界の在り方なのだ。

 俺達が口を出せるものではないだろう。




 それから俺達は少しばかり、イェンジュさんと話をしたが、やはり、コジーナにおいて王政を打ち倒そうとするのならば、一族皆殺しは避けられないようだ、ということが分かった。

 生きのこった王族自身の意思とは関係なしに使われる可能性がある、と言われてしまえば、それ以上の交渉の余地も無い。

 結局、俺達はフェイリンの話を出すことなく、イェンジュさんとの会話を終えた。


「た、ただいま……」

「ただいまー!いやー、たまたまペタルちゃんが苦手なタイプの世界経由しちゃったみたいでもー、大変大変……で、そっちはどーだった!?」

 俺達が頭を抱えていると、ペタルとリディアさんが戻ってきた。ペタルが多少ぐったりしてはいるが、無事、アラネウムに到着してオルガさんとニーナさんを置いてくることに成功したらしい。

「あー……うん、えっとね……」

「……駄目だった、です……」

 だが、こちらの進捗はこんな状況である。




「……ということは、もう、イェンジュさん達の意思とは関係なしに、こっそりその子……ええと、フェイリンさん?を連れてくるしかないと思うんだ」

 そして当然のように、ペタルがそう結論を出した。

 だが、俺は未だ、その結論の正しさを信じきれない。

「いいのか?本当に。依頼者の希望を一部とはいえ無視することになる」

「えー、でもアラネウムはできるだけ生き物を殺したり物を壊したりしないようにしてるよー?」

「そもそも、フェイリンがこの世界にとって死ぬべきだとしたら」

「でもぼくたち、ニーナさんは連れて帰ってきてるよ?」

「そもそも、俺が夢で相手に会ってるかどうかも」

「あー、もー、そんなん気にしててもきりないきりない。なんかあったらその時はその時よ」

 ……いいんだろうか。

 内心で判断に困っていると、ペタルが俺を安心させるように言う。

「大丈夫だよ、眞太郎。きっと、眞太郎がフェイリンさんに会えたのは偶然じゃないし、偶然だったとしても、それも何かの縁だと思うんだ。それに、フェイリンさんは悪い人じゃないよ」


 ペタルに連れ出されて、外に出る。

 すると、村の広場の片隅で、1人の女性を囲んで人が集まっていた。

「ああ、よく戻ってきたね……!」

「奴隷として連れていかれた時は、もう二度と会えないものと思ったが……ああ、神よ、感謝します」

 これは一体、何だろうか。

 目の前の光景に戸惑っていると、ペタルが微笑んで解説してくれた。

「あの女性は、国王の兵団に攫われて、お城で奴隷として働かされていたんだって。でも、奴隷になって数日でお姫様の召使いにされて、2日過ごして……何が気にいらなかったのか、召使いをクビになって、そのままお姫様の命令で都を追放になったから、戻って来られたんだって」

 ……夢と現実がリンクしていく。2つの情報が統合されて、真実がうっすらと、見えてきた。

「それから、銅色粟。あんまり美味しくない穀物らしいけれど、栄養があって成長が早いから、村の人達の食事になる穀物らしいよ。でも、国からは、そんなものを育てる土地があるなら納めるお米を作るように、って言われていたみたい。……でも、他の村では突然命令が下りて、銅色粟を栽培するように言われたんだって。だから、飢え死なずに済んだ人もたくさん居た、って、イェンジュさんが言ってたよ」

 月明かりの露台で見た、少女の寂しげな顔が目に浮かぶ。

 それから、必要以上に高慢な振る舞いも、可愛らしい我儘を国王の前で演じる姿も。

「だから、フェイリンさんを助けるのは、眞太郎の我儘じゃないよ。……私も、フェイリンさんを助けたいって、思ってる。フェイリンさんが一緒に来てくれたなら、アラネウムの発展にもつながると思う。……どうかな、眞太郎」

 ペタルの微笑みは、どこまでも優しい。

 ならもう、うだうだと考える必要も無い。

「王城に侵入する方法を考えよう」

 現在、太陽はまだ、空の頂点に至っていない。

 満月は今夜だが、まだ、時間はある。


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