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裸の河童にしか発情できないのってやっぱりどこかヘンですか?  作者: 沖田 了


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第1話 お姉さんにテイクアウトされたのに一線を越えられないのってやっぱり変ですか?①

幸多郎こうたろうって、こう見えてこれまで彼女がいたことがないんすよ」


そういって、粟生翔馬あお しょうまが俺の右肩をつかんだ。

翔馬は俺の左手側に座っているので、肩をつかまれて抱き寄せられたような格好だ。


「へぇ、厄神(やくじん)くんは、そんな風には見えないけどね」


俺の向かいに座っている女性が、テーブルに肘をつき手の甲に顎を乗せながらこちらを覗き込む。

たしか、朝倉凛子あさくら りんこさんといったか。

俺と翔馬が通う大学のOGだという彼女とは、今夜が初対面だ。


「でしょ?見てくれも悪くないし、頭もそこそこ。運動神経も、まぁ競技を選べばそれなりに」


翔馬は上機嫌に言葉をつづけ、左手に持ったジョッキで生ビールをあおる。

机には、人数分のグラスとどれもそこそこに手が付けられた魚料理が並ぶ。

鮮魚がウリの個室居酒屋。

今日俺達はこの店で2対2の合コンをしていた。


「えっと確か弓道で全国に行ったんだっけ?」


はす向かいの女性が聞いてくる。この人の名前は、1時間ほど前に聞いたはずだがすでに思い出せない。確か凛子さんと同じくOGだったはずだ。


「まぁ、全国では勝ててませんが」


適当に相槌を返すと、それでもすごーいと鼻から出たような声で褒められた。

多分弓道がどういう競技かもわからず褒めてくれているのだろう。

こういう人は、弓道もアーチェリー同様より真ん中にてた方が高得点になる競技と勘違いしているんだろうな。と、弓道部特有の無意味な卑屈思想が頭をかすめる。


「私は弓道よりも、彼女がいなかった話のほうが気になるな。

 もしかして、女の子は恋愛対象外だったり?今も翔馬くんと幸多郎くんとっても仲良しに見えるけど」


せっかく移りそうだった話題がまた戻ってきた。

凛子さんは俺と翔馬の距離が近い様子を見てなぜか嬉しそうにしている。もしかしたらそういう趣味をお持ちなのかもしれない。

俺は、話題が変わらなかったことに内心ため息をつきながらも顔は笑顔を維持する。

凛子さんの言葉を聞いて、ようやく翔馬が肩を解放してくれた。


「まさかまさか、俺も幸多郎も同性は対象外っすよ」


「そうです、俺はただ……シンプルにモテなかっただけですよ」


「何その小さな間は?お姉さん気になっちゃうな」


「さすが凛子さん鋭いっすね。

 実際中学の時も高校の時も、女の子に告白されてるんっすよね。でも、もったいないことにそのすべてを断るんっすよ。

 つまり、幸多郎に彼女ができないのにはある重大な問題があるんです」


若干芝居がかった動作で、翔馬は右手を額に当てて小さく首を振った。


「問題?」


「おい翔馬」


「いいじゃないか幸多郎。今日はお前の殻を破るための合コンだろ?

 凛子さんとミナさんにも聞いてもらったらまた考え方が変わるかもしれないだろ?」


翔馬とは長く友達をやっているからわかることだが、この男は善意百パーセントでこのムーブをかましている。

俺の心の問題を誰よりも心配し、気にかけてくれているのは翔馬だ。今日のこの回が俺のためにセッティングされたというのも本当だろう。

俺はこの友人のことが好きだ。だが、こういう押しつけがましいところだけは直してほしいと思っていた。


「いいね、殻破っちゃおう」


向かいに座る二人の女性は、それなりにお酒が強いようだがどちらも顔は赤い。

OGということなら、普段の生活でエンカウントすることもないだろう。

もしかしたら、翔馬はそこまで考えてこの二人を選んだのかもしれない。

だとしたらこの友人は、俺が思っている以上に俺のことを気にかけてくれているのかもしれない。


「別に面白くもなんともない話ですよ」


俺は仕方なく、予防線を張りながら話し始める。


「小学生のころ、地元の川で遊んでたんですが、その時とてもきれいな女性を見かけたんです」


「えー、もしかしてそれが初恋で、その人のことが忘れられない的な?」


「まあ、そのような」


「ロマンチックじゃない!言い渋るようなことでもないし」


この話は、翔馬含めて数人にしかしたことがないが、ここまでの反応は全員全く同じだ。


「ただ、その女性の姿に少し問題がありまして」


「どういうこと?すごくエッチな水着のお姉さんに幸多郎少年の性癖が歪められちゃったとか」


少し興味が出てきたのか、凛子さんが前のめりに聞いてくる。

男の子同士だけでなく、お姉さんと少年的なジャンルにも興味があるようだ。


「水着というか、もっとその先というか」


「まさか裸?着替えてるとこ覗いちゃったとか?それとも痴女?」


大学の女友達との会話では絶対に出てこないような単語が凛子さんの口から飛び出す。

そのあけっぴろげな雰囲気が、重たかった俺の口を軽くする。

これからヘンな話をしようという時の心理的障害が少し緩和された気がした。


「裸といえば裸だったとはおもうんですが……」


「何よその奥歯にものが挟まったみたいな言い方は」


「その女性の肌が普通じゃなかったんです。

 全体的に艶があって下半身からおなかにかけて薄い緑色をしていたんです」


勇気を出して、出した言葉に一瞬場が凍る。

女性陣は俺の言葉が一発では理解できなかったようだ。そして理解ができると今度は、ボケてるのか本気なのかがわからないといった顔をした。


「ええ、何急に、これって怖い話?」


「いえ、全然怖くないです。

 記憶の中のその人は、普通の人間ではない見た目をしていました。

 でも、それとは関係なく、とても美しい顔と見とれるようなカラダをしていたんです」


まだ女性人二人は置いて行かれているようだった。

だが、ここまで来たらもうお構いなしだ。俺は少し翔馬に目配せをし、一気に俺の心の問題をぶちまけた。


「俺はその日みた美女のことを河童だと思いました。

 とても美し河童を見たのだと子供心に興奮して家に帰りました」


それだけで終わっていたら子供のころに経験した不思議な話、でことは終わっていた。


「数年後、周りの友達が性や恋愛に目覚め始めた時に俺は気づきました。

 同級生や周囲の女性、友達が持ってきたエロ本の中の裸のお姉さん。どれを見ても心と股間がピクリとも動かないことに」


お酒のせいか、凛子さんの口ぶりが移ったせいか、自分の心の問題を人にぶちまける高揚感からか、俺の声は少し大きくなっていく。


「そして、友達より少し遅めの精通を夢精という形で終えた後、俺はすべてを悟りました。

 俺は、記憶の中の河童の美女でしか勃起できない体になっていたんです!」


すべてを言い終えると、さっきよりも長い沈黙がやってきた。

引かれたか?それも当然か そう思った矢先に聞こえてきたのは凛子さんの笑い声だった。

個室の壁を突き抜け、居酒屋全体に響き渡るかのような大きな声で笑った凛子さんは、笑い声と同じ声量でこう言った。


「あなた最高だわ!」


どうやら俺のカミングアウトは、少なくとも笑いに昇華することができたようだった。











 

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