ep.86 モアレス川会戦2
両軍が川を挟んで対峙してから4日目の昼、お互いにらみ合いが続いていた。
バールダム公軍の本陣では、配下の武将から複数の提案がなされていた。
「このままでは埒があきません、バギルに撤退しては如何ですかな?」
「いや、ここは一旦、バギルに撤退すると見せかけて渡河したところを反転迎撃されるのは如何か?」
「まだ4日だ、もう少し様子見でよいのではないか?」
バールダムが言う。
「まだ、余裕はあるしばし様子を見るとしよう」
夜になりあたりは闇夜と化していく。
「今晩夜襲をかける」と言われていた俺たちは、昼休んでいたので元気だった。
兵たちは、不安そうに話をしている。
「夜襲をかけるといっても、敵さんの警戒がこう厳しいと、川を渡れないんじゃないか」
「ああ、渡ってる最中に矢が降って来るし、岸に辿り着いたら待ち構えてるしで、相当厳しい状況じゃないか」
「いや、だが、上は何か考えがあるんじゃないのか?」
「ああ、そうだな」
俺は話が聞こえてきたので、その兵士たちのもとに行った。
「あ、アニス様・・・」
「みんな大丈夫、いつもみたいに私やレッドが道を開くから心配しないで」
「わかりました、アニス様」
(さて、俺にさえ何も言わないが、レキには何か策があるのだろうな・・・)
バールダム公軍の陣営では、川があり夜襲も簡単ではないことから、どこか安堵した空気が流れていた。
焚火を囲む兵士が言う。
「今日で4日目か、早く戦終わらないかな」
「そうだよな、こんな所で足踏みしてないで早く帰りたいよな」
「まあ、何もせずに酒が飲めるから、悪くもないだろ?」
「それもそうだな、わははは」
ドドドドッ、突然地鳴りのような音がした。
バールダムは、葡萄酒を一口飲み、ため息をついた。
(容易だと思っていた王都攻撃に失敗し、息子まで失うとは・・・
武聖だろうと何であろうと許しはせんぞ)
馬蹄の音、金属音、怒声・・・?
「何事か!」
兵士が入って来る。
「敵の夜襲です!」
「夜襲だと!」
「はい、南の方から敵が現れました!」
「馬鹿な!」
別の兵士から報告が入る。
「敵がここより少し南のほうから渡河を開始しました」
「今、渡河を開始だと?」
「では、夜襲をかけて来たのは・・・
南部の兵と連携していたというのか・・・」
将軍・クライン=ブレイマンが叫ぶ。
「一気に焼き尽くせ!」
エムリア軍兵が怒涛のように攻め寄せる。
副将・オリバ=アルガセリンは、果敢に切り込む。
敵の剣を中段で受け止め、叩き落すと相手の首元を突く。
「私に続け!」
相手の下段を受けつつ、剣を回して払いのけると、突くが躱される。
相手の反撃の蹴りを膝で受け流し、剣を水平に走らせ、胴を切る。
次の敵と打ち合いになる、十合を打ち合った後、下からの斜め逆袈裟切りで仕留める。
「よお、オリバ、大活躍じゃねえか」
「レッドか?」
「おおよ、後は任せろ!」
敵が斧でレッドに切りかかる、剣で叩き落として、頭突き、怯んだ瞬間に切り上げて首と顎をすっ飛ばす。
「おら、行くぜ!」
敵が槍で下段を払うと、宙に飛びそのまま鎖骨から腹まで剣をめり込ませる。
「邪魔だ!」
蹴飛ばして剣を引き抜くと血と内臓が飛び出した。
(隙!)
怯んだ敵に瞬時に間合いを詰め、胴を貫き、バックステップで間合いを取る。
オリバは、思わずこぼす。
「レッドのやつ、半端じゃないな・・・」
バールダム公の本陣は、混乱の様を呈していた。
バールダムは、状況が分からず、怯えて言った。
「どうなっている? 近衛兵どこだ?」
鳴り響く金属音と怒号、悲鳴、火がはぜる音、
「誰かおらぬのか?!」
「もう、周りには誰もいないよ」
戦場にはふさわしくない少女の声がした。
バールダムが、見やるとそこにはまだ幼い少女がいた。
異常な少女だった、全身が血まみれで、白い髪も紅に染まっている。
手には血に濡れた短刀。
「お、お前が、武聖か?」
「そうだよ、おじさん」
「近寄るな! 私は、ガームダム王国公爵・バールダム=アギレスなるぞ!
小国の王族ごときの卑し・・っが・・・」
バールダムは思わず喉を手で抑えた、棒のようなものが刺さっているのが分かった。
「よぜ・・」
バールダムは、片手をあげて少女を制しようとした。
「今、楽にしてあげる」
「よ、よぜっ・・ごふっ・・」
喉と口から血が溢れて言葉にならない。
「バールダム公!」
副将が剣を手にテントに入って来る。
低い姿勢からの一閃、首が吹き飛んだ。
「ごめん、待たせちゃった・・・」
「ズーハーッ・・・」
少女は、バールダムの髪を片手で無造作に掴むと、首に短刀をねじ込んだ。
血の噴水が噴き出すと、バールダムは口をパクパクさせた後、動かなくなった。
少女は、テントから出ると叫んだ。
「我、アニスティア=フォン=エーメガルドが、敵将・バールダム=アギレスを討ち取ったぞ!」
敵に恐怖の戦慄が走る、我先にと逃げ惑う背に容赦のない刃が突き立てられる。
「逃がすかよ!」
レッド達が、追い打ちをかける。
バールダム軍は、組織的な動きが出来ず、多くの将兵が討ち取られていった。




