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魔女の劇団  作者: 倉敷純次
トルマリエの勾玉
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浮き彫りになる、真実

 トルマリエの勾玉まがだまを破壊する……。衝撃的な言葉に全員が目を見張った。

 言うまでもない。勾玉が破壊されれば、その瞬間にアダルアの民は水や火を放つことも、風を起こすことも出来なくなるからだ。


 キースは驚愕する一同に目もくれず、憎悪ぞうおが込められた語気ごきで話を続けた。


「この勾玉は近い将来、必ず第三次マディオス大戦の引き金となる」

「待ってくれ。話がすっ飛んでる。まるでこの勾玉が、次の大戦を誘発するような言い草だ」


 第三次マディオス大戦。そのワードに不服を感じたナワテが割って入った。


「残念だが正解だ。大戦になってくれた方が嬉しいのさ。デリスランドのお偉いさんたちがな」

「今度はまるでデリスランド側が戦争をしたいような言い草ね。どういうことよ。大戦の流れに世論を誘導しているのはアダルアなんじゃないの」


 キースが導き出す答えは、アダルア人であるルルの首をも傾げさせた。

 アダルア政府が演劇プロパガンダによって、デリスランドに対する敵対心を植え付けていたことは間違いない。自分たちが昨日のバルグラに望んだのは、そこにカウンターを打ち込むためだったのだから。だが、キースが発した文脈はその真逆である。そんな話を聞かされては、ルルとナワテの頭のなかには混乱しか生まれない。


 しかしこのあと、更なる混乱が待ち受けていた。


「なりません」


 突然そう言って、勾玉が置かれてある台の前に、大の字で立ち塞がる女がいた。


「さすが王家の血を引くお嬢ちゃん。やはり君は知ってたんだな。この国の魔法の正体を」


 スレタだ!


 キースの尋問にスレタは答えず、ナワテたちの顔をチラっと見て口を結んだ。

 どうやらキースの話は真実らしい。スレタのはっきりしない態度がすべてを察するに余りある。

 思えば、摩訶不思議な勾玉の話に唯一異論を唱えなかったのはスレタだけだった。子どもだからだろうと流していたナワテだが、ここへ来て確信に至る。


 ── トルマリエの勾玉。それがアダルアの民が神と呼ぶものの正体だ。


「キース、もしかして、初めから本丸ほんまるはこっちだったのか?」

「ああ、そうだ。地上で騒ぎを起こさせ、そのあいだにこいつを壊す作戦だ」


 地上ではこの瞬間も、天下分け目の政争せいそうが繰り広げられている。リリやブルーバーグ殿下、その他多くの反体制派の勇士が、この戦いが自由を勝ち取るための天王山(てんのうざん)だと信じている。

 しかし、それ自体が目眩ましだったとは……


「酷すぎる。そそのかしたのがぼくたちだけならまだしも、君は命がけで戦う勇士や殿下の善意まで利用してるんだぞ」


 怒りに震える声でナワテが攻め立てる。

 しかし、キースが動じる様子はない。


「トルマリエの勾玉は単なる魔法の源じゃないの。これを壊すことは、この国の伝統、神話、信仰心の破壊を意味するの」


 御三家のご令嬢はトルマリエの勾玉の破壊に反対。

 一同は彼女の目に、王家の名にかけてこの国の核を守らんとする覚悟を見た。

 しかし、


「いい加減にしろ!」


 キースのがなりと同時に、全員の血の気が失せた。スレタの眼前に黒光りする銃口が現れたからだ。

 ルルとスッチはすぐさま腰を落とし臨戦態勢に入る。

 ……しかし、最悪のシナリオが頭をよぎり、身体はそこから動かない。

 弾丸は魔法よりも速い。二人が魔法を繰り出したとしても、唱えている間にキースが引き金を引いてしまうだろう。


 トルマリエの勾玉を壊す側のキースと守る側のスレタ。

 ここへきて、二つの思想がぶつかり合う事態になってしまった。


「あと何人死ねば目が覚める! あれは様々な戦争を引き起こさせる諸悪しょあく根源こんげんだ!」


 空色の密室に、キースの怒号どごうが木霊する。


「なあ、教えてくれ。戦争を起こさせる諸悪の根源とは……一体どういうことだ?」


 それはこの事態の収束を図らんとするナワテからの質問だった。だが、怒りが込められたキースの視線は御三家の娘を捕まえて離さない。その目線のままナワテの疑問に答える。


「先の大戦はチルディールとデリスランドの戦争に、アダルアが余計な首を突っ込んで起こった戦争だと、吹聴ふいちょうされている」

「吹聴……違うのか?」


 幼き頃よりそう聞かされていたナワテは、思わず声が上ずってしまう。

 だが皮肉にもキースは頷いた。そうしながらも、未だ鋭い目でスレタを睨みつけている。


「デリスランドとチルディールが、トルマリエの勾玉を取り合うために起きた戦争だ」

「な……!」


 思いもしなかったその言葉は、直ちに全員の身体を凍りつかせ、室内に無言が落ちた。

 キースの指が掛かる引き金に警戒しながら、ルルがチラリと視線を動かす。


「スレタさま……本当なんですか?」


 構えながらルルが訊く。勾玉を守るため広げられたスレタの両腕は、先ほどよりも力が抜けているように見えた。


「……よく分かんない。でもトルマリエの勾玉は半永久的に発電するの。だから科学の力で応用すれば、この世のエネルギー問題が一気に解決するっていう話は、聞いたことがある……」

「なるほどや。その情報が表に漏れた途端、火蓋を切ったように勾玉の奪い合いが始まったと考えれば不思議やない」

「じゃあ、アダルア政府がその事実を世に公表しないのはなぜなの? わたし達の怒りをデリスランドに向けるにはもってこいの材料なのに」

「少しは頭を使え。そんなことを公表したら、この勾玉の正体を民に教えることになるだろうが」


 またキースの正論により、室内に無言が鳴った。


 魔法の原理。神話の役割。そして戦争の力学。

 ついに、ナワテの頭の額縁に全てのピースがはめ込まれた。いや、はめ込まれてしまった。

 であるならば、多くの命が奪われた先の大戦は、自国の名誉のためでも、大切な人を守るために戦ったものでもない。資源のぶんどり合戦という実に醜い争いだったのだ。


 もはやなにを信じればいいのだろうか。国は信用しないたちだが、祖国には最低限の道徳くらいはあると信じていた。でもそれとはだいぶ様相が違う。そうであるならば、自分がここに送られた意味自体なんなのだろう……。それを考えると、ナワテは激しい憤りに見舞われた。

 同時にナワテは思った。科学とはなんと厄介なものなのだ、と。人が信じて止まないものの正体を、こうして丸裸にしてしまう。そのうち本当に神や魂の存在にまで辿り着いてしまうのではないだろうか。

 かつての人間が、学問を文系と理系に分けた理由が、ナワテには少し分かる気がした。


「三秒以内にそこをどけ、お姫様。さもなくばそのキュートな頭に穴が開く」


 突然のキースの言葉に、立ち往生するナワテたち三人が目を覚ますように我に返った。

 それは、抵抗すればスレタの小さな頭部が吹っ飛んでしまうという宣言だ。

 だがスレタが降伏する気配はない。怖気づくどころか、両サイドに広げられた両腕には力がよみがえっていた。

 降伏することは即ち、祖国のアイデンティティそのものを失うことに等しい。王家の血を引くスレタにとってみれば、それは命より大切なことなのかもしれない。


 つまり、

 このままではスレタが殺られる。


「さん」


 ナワテらの心の整理がつかないうちに、キースの口からカウントダウンが開始される。


 ── 今はスレタの命が最優先だ!


「にい」

「キース、少し時間をくれ。そんな大事な問題を、この場の人間に決めさせるのはあまりに酷な話だ。いったん地上に戻って、ブルーバーグ殿下の意見を聞いてからでも……」


 魔法の原理。マーガレットの亡命。密入国後、散々悩まされた静電気の謎まで、ナワテの頭にあったバラバラな点を一本の線に紡いだのはキースだ。そんな彼が今さら、トルマリエの勾玉が諸悪の根源であるだなんて嘘をつくとは思えない。だとすれば、この勾玉は本当に破壊すべき代物なのかもしれない。

 だからナワテは一旦この話を持ち越させようとした。子どもでも思い付きそうな安易な提案だが、心の天秤がどちらにも傾かない今のナワテの頭に、これ以上の言葉は浮かばなかった。


「いちっ!」


 しかし、残酷なカウントダウンは止まらない!


「鬼火よ、──」「聖水、──」


 こうなればやむを得ない。ルルとスッチは更に体制を沈めて魔法を繰り出す体制に入る。

 ナワテも体内エネルギーを手に込めるように光を指先に集め始めた。

 ……そうしながらナワテは、キースが持つ銃口の先が小刻みに震えているのを見た。



 すると突然、

 ピュン ── 、と、

 青い光が一同の視線の先を横向きに通り過ぎた。



「──ぐはっ!」


 唐突かつ一瞬の出来事で、ナワテたちはなにが起きたのかが分からない。

 まさか、スレタが撃たれてしまったのか⁉

 全身に冷や汗を感じながら確認するが、幸いにもスレタの身体はまだ大の字を描いていた。

 しかし安堵もつかの間。ナワテの視界の隅にパタッと、なにかが横転する影が見えた。


「え……っ!」


 なんとそれは、キースの身体だった。


ここまでお時間を頂いた方々、誠にありがとうございます! 感謝感激です!


もしよろしければ、評価【☆☆☆☆☆】を押してくださいませm(__)m


今後の励みに致します!(^^)!

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