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魔女の劇団  作者: 倉敷純次
トルマリエの勾玉
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地下20階に潜む、悪の元凶……

 結局、メンバー全員で行動することとなった魔女の劇団。

 現在、キースを先頭に、ナワテ、ルル、スレタ、スッチの五人が、王宮の螺旋らせん階段を下っている。ブルーバーグ夫妻の牢屋があった地下12階よりもさらに下だ。

 松明も設置されていないこの辺りは闇そのもの。物々しい空気は身にみると寒気に変換される。ナワテたちはガラスの上を歩くように慎重に足を踏んだ。


 やがて、王宮の最下層、地下20階に到着。

 暗闇のなか目をらすと、目の前に浮かび上がったのは木製のドアだった。倉庫に使われていそうな陳腐ちんぷなドアだが、表面は太い鎖で施錠せじょうされており厳重そうに閉ざされている。


 どうするのかと一同が様子を伺っていると、

 キースが懐から拳銃を取り出した。


 バンッ──! バンッ──! バンッ──! 


 と、三発の銃弾が火花をちらしたのは鎖の鍵の部分。中心に掛けられた大きな南京錠だ。

 銃撃により南京錠が強制的に開き、ガタンと重い音を立てて床に落ちた。


「お嬢ちゃん、あとは頼む」

「ふい! 時津風ときつかぜよ、道を開け──!」


 スレタの啓発的けいはつてきな唱えとともに、王宮の最下層に一陣いちじんの風が吹き荒れた。

 鎖が外れてしまえば、それはもはや木でできた扉に過ぎない。スレタの風の前では立っていられず、あっという間に木っ端みじんにされた。


 ドアが破壊されたその瞬間──、ナワテたちの視界は真っ白な光となった。


 頭がくらむほどの眩しさ。まるでそういう攻撃を受けたかのようだ。

 しばらくは盲目同然。一同の視界はなに一つ見えなくなった。


 ……十秒ほどが経ち、近い距離から順々にものが見え始める。

 扉の向こう側は、巨大な円形の面積に、十数本の柱が不規則に立つ大部屋となっていた。柱以外はなにもない奇妙な部屋だ。

 にしても地下とは思えない明るさだ。それも攻撃的。健康への害を疑ってしまうほど。


 その原因は部屋の中心部分にあった。


 円形の台の上にまつるように置かれている物体……。

 夏空の光を凝縮させたような、青い閃光を八方に放っている岩のようなもの。サイズも大きくスレタほどの大きさがある。

 眼球を刺すような光は、その石から放射されていた。


「キース、これは一体、なんなんだ?」

「こいつはトルマリエの勾玉まがだま。この世の悪の元凶さ」

「トルマリエの……勾玉?」


 キースが輝く石を睨みつけながら言ったのは、聞き覚えのない名称。だが彼の瞳に映し出されている物体は、確かに勾玉のような形をしていた。


「この光線は、なに?」


 鬱陶しそうに手で目を覆いながらルルが訊く。


「この勾玉はいわば磁力の結晶だ。それにより、こいつからは常に電気が放射されている。異常な光線はそれよる光エネルギーだ。知っての通り、この柱は城のてっぺんまで伸びている。勾玉から放出された電力がアダルアの隅々まで広がるようにな。勾玉の上にある円柱の真ん中が空洞になっている理由はそれだ」


 キースの言葉に沿って一同が勾玉の上部を確認する。

 確かに、天井から円柱のようなものが突き出ていた。この塔を中心で支える柱だ。キースの言うように、その柱の中は空洞になっていた。

 つまり、この柱は塔を支えるためだけのものではなく、勾玉から放射される電気を国全体にまき散らす、煙突えんとつのような役割も果たしているということなのだろう。


 しかし、それが一体なにになるというのか──。


「ここから発信される電気は、人間の持つ能力を覚醒させることができる」

「まさか、それが魔法の正体なのか?」


 キースはピンときたナワテに、強い口調で「そうだ」と言った。


 日の盛りより眩しくありながら、重々しい空気を放つ地下20階。そんな密室でキースが話したのは昼間の話の続編――魔法はアダルアの民の特殊能力ではなく、この場所に因果があると言っていた、あの話の続きであった。


「お前はデリスランドで母親が魔法を繰り出すところを、その目で見たことがあるか?」


 キースからの質問に、ナワテは静かに首を横に振った。


「でもそれは素性を隠すためだったんじゃないのか? デリスランドで魔法を使えば、自分の正体はアダルアの民だと言ったも同然だ。それが知れればマズイことになる」

「デリスランドにはマーガレット以外にも、アダルアから難を逃れてきた脱国者や難民がいる。その全ての者が魔法の効力を失っている。それが実情だ」


 キースが言うに、アダルアの民だけに魔法が使える理由は、神に選ばれし民族だからでも、電気を貯めやすい特殊な体質を持っているからでもない。トルマリエ勾玉たらいう、この眩しい石から放たれる電気の恩恵(おんけい)なのだという。

 となれば、どんなに有能な魔法使いも、ひと度この国から離れれば、他の国の者と同じ、ただの人間になるということだ。


 だが、この論理にスッチが反論を見せる。


「残念やがキース、おまはんの言うとることは絵空事えそらごとや。かつてのアダルアの民は遊牧民。わしらの先祖は各地の水不足や食糧難を解決して、多岐たきに渡る活躍を見せとったんやで」


 スッチの言う通りだ。それはアダルアの神話などではなく、各国の歴史書からも散見される。アダルアの民が場所に関係なく、魔法の効力を発揮できたという動かぬ証拠だ。


 しかし、キースはこのロジックでさえ一刀両断する。


「それは当時のアダルアの民がトルマリエの勾玉を持ち歩いていたからだ。アダルア王国建国後は移動する必要がなくなった。以後この地下に置いている」


 なるほどとしか言いようがない。勾玉の大きさはスレタほど。荷車かしゃかなにかを用いれば遊牧民が持ち運びできないサイズではない。

 当時を見たわけではないから、なにが本当なのかは分からない。だがキースの言うことにいちいち筋が通っていることは分かる。

 尋常じんじょうならざる光を放射する勾玉を前にして、それ以上の反論を述べる者はいなかった……。


 昼間の牢獄で話を聞かされていたナワテとルルに関しては、なんとも言えない表情を浮かべている。二人ともがキースの言う通りだろうと思っている。

 特にナワテに関しては、認めざるを得ない心当たりがある。

 それはこの国に来てから散々悩まされている、あの激痛を伴う静電気だ。もともと静電気体質のナワテだが、あそこまでの現象はデリスランドでは経験がない。キースの言うように、この勾玉がアダルア国内に電気を放射しているからと考えればその謎は解けてしまう。

 一度は噛みついたスッチでさえも、歯がゆそうに自身の手のひらを見つめ、押し黙った。


 そんな中、スレタは誰よりも平然とした態度でこの話を聞いていた。


「で、この場所に連れ出したのは、わたしたちに耳の痛いことを言うためなのかしら……」


 嫌味を含ませたとて、ショックは隠せていない。ルルの語気からは力感が失われていた。


 だがしかし、そんな感傷もすぐさま吹き飛ぶことになる。

 よもやには信じられないことを、キースが言い放ったからだ。


「俺たちは今から、このトルマリエの勾玉を破壊する」

「「「「なっ!」」」」


ここまでお時間を頂いた方々、誠にありがとうございます! 感謝感激です!


もしよろしければ、評価【☆☆☆☆☆】を押してくださいませm(__)m


今後の励みに致します!(^^)!

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