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魔女の劇団  作者: 倉敷純次
禁断の魔法
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記憶

 キースの話を整理する。

 アダルアの民は、己の身体から発生する電気や磁力を用いて、髪の毛の幅の約50万分の1の大きさの粒を爪繰つまぐるようにして組み立てることができる。その能力を使えば単体はもちろん、化合物、化学反応でさえ作り出すことができる。これがマディオス大陸七不思議、アダルアの魔法の正体だ。


 とすれば、8歳から入学するアダルアの訓練学校で行われているものは、魔法の訓練でも神との契約でもない。原子と原子の分離結合の特訓ということになる。もちろん、本人たちは魔法の訓練だと思い込んでいる。


 それが本当ならキースの言う通り、これは魔法というより科学だ。


 ナワテは、アダルア人が魔法を放つ直前に行う、あの鍵盤けんばんをつま弾くような指の動きが当初から気になっていた。そこはかとなくだが、今はあの動きの正体が分かった気がする。


 ナワテはルルの顔を見た。脈々と語り継がれる言い伝えを否定され、ピュアな信仰心まで破壊されて、彼女は今どのような気持ちなのだろうか。

 ナワテの心配通り、彼女の端正な顔からは、自信が失われているように見えた。


「水はどうなのさ。空気中の水素はほんの少ししかないんじゃなかったか? でもアダルアの民が一度に繰り出す水の量は尋常じんじょうじゃない。風呂の水だって張れるくらいだ。微量の元素を結合させてあんな大量の水を出せるなんて信じられない」


 なぜそんなことを言ったのかはナワテ自身にも分からない。今さらこの話が嘘だなんて思ってもいない。もしかしたら、アダルア人側の意見を言ってあげることで、痛めつけられたルルの心を、少しでも癒してあげたかったのかもしれない。


 だが、その思いやりを踏みつけるかのように、キースは「いい質問だ」と言った。


「元来、マディオス大陸は自然豊かな大陸だ。にも関わらず、なぜアダルアの土地だけが乾燥地帯になっていると思う?」


 あまり気にしていなかった。この地球上には、雨が多い地域もあれば、極端に暑かったり寒かったりする地域もあると聞く。だから単に、そういう気候地帯なのかなと思っていた。

 でも言われてみれば引っかかる。デリスランド、チルディールともに、四季のある穏やかな気候だ。その中心に位置するアダルアだけが乾燥地帯になるのはなぜだろうか。


 すると、またしても全ての符号が合う仮説がキースの口から言い放たれた。


「約百年間、空気だけじゃなく、土や石、木といった、あらゆる自然から水素原子をぶん取りまくった末の結果だ。自分たちが定住するとその地域の水は枯渇こかつする。かつてアダルアの祖先が遊牧生活を選択していた理由はおそらくそこにあるんだろう」


 そう結論付けると、キースはナワテを縛っていた麻紐あさひも手枷てかせを手に取った。


「そろそろ時間だ。すまねーが、お前たちにはまたしばらく囚人になってもらう。夜になったら迎えにくっから、それまで我慢してくれな」

「夜?」

「忘れたのか。今夜はデリスランドの要人を招く。兵はパレードに駆り出され、お前が削りを入れた王宮の警備がさらに手薄になる。作戦開始はそのときだ」


 このときのナワテに作戦内容は分からなかった。ただ漠然と脱出するのだろうと思っていたから訊いたりしなかった。


 すると、手枷を装着する直前で、キースの手が止まった。


「あ、そうだ坊主、今ここで出るか試してみてくれ」

「え、なにをだ?」

「雷だよ。早くしろ」


 命令口調はしゃくに触るが、キースの言うことが事実ならば、自分のためにも確かめておかなければならない。

 そう思い、ナワテは迷うことなく頷いた。


 その呼応こおうを見たルルの顔が一気に強張った。よほどトラウマなのだろう。まるで嵐に怯える猫のように、身を低くして壁際に身を寄せた。


 ナワテは手を持ち上げ、己の手のひらを見た。そして、なんとなくの感覚で体内エネルギーをそこに集めるイメージをした。


 もう一度言う。自らが引き起こした玉座の間での惨劇さんげきの記憶は、今現在ナワテの脳内にない。


 だが、ナワテの身体は、電気の出力方法を記憶していた。


 ──バチバチッ!


 線香花火のような小さな光が無数、ナワテの手の周りを踊り始めた。

 痛々しい映像だが、当の本人に痛みはない。体内の毒素が放出されていくこの感覚は、むしろ気持ち良さを覚えるくらいだ。


「デカさは、調整出来るのか?」

「おそらく。今は小さく出すようにイメージしたから。……稲妻のような大きい電気を発生させることも出来るはずだ」

「俺たちの身体を気遣って調節してくれたってわけか。よし、上出来だ。もういいぞ」


 キースは確認を終えると、満足そうな顔をしながらナワテの身体を元通りに縛っていく。

 なすがままに全身の自由を奪われていくナワテ。手袋をはめられたとき、その素材がゴムであることを知った。今となっては、その理由が明確に分かる。


 そうなりながらある場所を見ていた。憂慮ゆうりょの視線の先には、自らの手のひらを見つめ苦虫を噛み潰している女がいる。


「ルル。科学で証明されたとしても、アダルアの民が神に選ばれた民族であることには変わりないんじゃないか。他の民族より、電気を溜め込める力があるんだから。それはもう、魔法みたいなもんだ」

「……うん」


 ナワテは今できる最大限の解釈でルルの気持ちをおもんばかった。

 少しだけ、ルルの表情がほぐれたのを確認し安堵する。


「それも違うな」


 しかし、またしてもキースが口を挟んだ。


「あんたね。少し黙れない? 空気読んでよ」


 ルルは自分のことより、ナワテの気遣いを遮られたことに腹が立った。しかし、そうは口に出さないところが彼女らしい。


「アダルアの魔法は、体質じゃなく、この場所に秘密がある」

「この場所……どういうことよ?」

「おっといけね。そろそろ交代の時間だ。お嬢ちゃんも元の牢屋に戻れ。パレードの時間になったら迎えにくっから、それまでに心の準備しとけ」


 ナワテを縛り終えたキースは、懐中時計を見るや、早々に牢屋を出る準備をし始めた。


「ちょ、ちょっと。ちゃんと最後まで説明しなさいよ」


 気掛かりな言葉だけを残し、去ろうとするキース。そんなマイペースな彼を、ルルがイラつきと不安を絡めた声で呼び止める。


「女心と秋の空にもほどがある。ついさっき黙れと言ったばかりじゃないか」

「だってモヤモヤするじゃない。アダルアの魔法の原因が、人じゃなく場所にあるって……どういう意味よ?」


 キースはやれやれと言った表情を浮かべたあと、低い咳払いを一つ。


「長らく続いたマディオスの戦いに、お前たちがピリオドを打つ。そういうことだよ」

「は?」


 なぜだろうか。キースの鋭い眼差しは斜め下──石畳の地面を指している。


ここまでお時間を頂いた方々、誠にありがとうございます! 感謝感激です!


もしよろしければ、評価【☆☆☆☆☆】を押してくださいませm(__)m


今後の励みに致します!(^^)!

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