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魔女の劇団  作者: 倉敷純次
禁断の魔法
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宿された魔力


 なんと、廊下の暗がりから現れたのはキースだった。


「ほら、お嬢ちゃん。洋服だ。こんなのしかなくてすまんけどな」

 

 キースはそう言うと、手に持っていた衣類をルルの牢屋に投げ入れた。


「ほんと、ダサダサじゃない。でも無いよりマシね。お礼は言わせてもらうわ」

「はは。牢屋にぶち込まれても、相変わらず口は減らねーな。お元気そうでなによりだぜ」

「お世話様」


 年上のセンスを酷評したルルだったが、「着てみると案外イケるわね」などと言いながら鼻唄を奏でている。久しぶりにまともな服に袖を通す感覚は、若い女の機嫌を直す作用があるらしい。


 その間に、キースはポケットに手を突っ込み、あるものを取り出した。


「マスターキーだ」


 それは持ち手部分の丸いタンブラー鍵。キースは横たわるナワテに自慢げに見せつけると、その鍵を使い堂々と牢屋の中に入ってきた。

 次はなにをするのかと思えば、ナワテの手首、胴体、脚にまとわりつく(ひも)をほどきだした。


「どうだ。久しぶりに地面を踏みしめる感触は」

「なぜ人類が二足歩行を選んだのかが、たったいま理解できたよ。とても清々しい気分だ」


 まるで羽が生えた気分だった。ナワテが人間の進化に感謝するのも無理はない。

 しかし、ふと冷静に考えると……


「って、こんな場所で堂々と話してて大丈夫なのか。見回りが来たらどうするんだよ。ぼくたちは今、容疑者みたいなものなんだろ?」

「ああ、問題ない。ここは俺が任された。一時間程度だがな」


 キースは平然と伝えると、頃合いを見て隣の部屋に移動し、ルルの牢屋の鍵を開けた。


「お嬢ちゃんもこっちにこい。話がある」

「話……?」


 キースが招き入れ、着替え終えたルルもナワテの牢屋に足を踏み入れた。

 久しぶりに見るルルの姿。顔が汚れているから少し痩せたように見えるが、傷はなさそうだ。ナワテに送る目つきも平常運転。ナイフのように鋭い。

 服は白シャツと黒のパンツだけになっていた。バルドの衣装に比べれば見劣りするが、その地味な姿はどこか懐かしい。初めて彼女と出逢ったあのときのことを思い出す。


 しかし、本当に看守が来ない。見た感じ他にも牢屋はありそうなのに。一時間とはいえ、このフロアにある全ての牢屋の監視を、キース一人に任せるとは……


「看守も兵がやるのか。人口の少ない国は運用も一苦労なんだな」


 通常、城の警備は衛兵により行われ、牢屋の警備は看守が行う。そもそもの管轄が違うからだ。それを一緒くたにする理由を、ナワテはこの国の人口が少ないからだと察した。

 しかし、その先入観は大きく的を外している。


「ちげーよ。急遽看守から王宮の警備を回さなきゃいけなくなっちまったんだよ。誰かさんが兵を壊滅させてくれたおかげでな」

「え、壊滅?」


 キースに気炎を吐かれたナワテだが、頭上には疑問符が浮かんでいる。当たり前だ。彼の頭にそのときの記憶はないのだから。


「お前な、少しばかりやりすぎだぞ。近衛(このえ)の奴らだって過度な勤労で疲れてんだ。それに今夜は主賓(しゅひん)を招く日。いつもよりカツカツでやってんだ。たとえ敵といえど兵士。一つしかない命を懸けて、国を守る者には敬意を表せ」


 キースが兵をねぎらう理由も、敵への敬意を説法されている原因も、ナワテには何一つ分からない。


「ってかお前、雷の魔法を使えるなら最初から言っとけよな。危うく俺まで巻き込まれるところだったじゃねーか。ここだけの話、ちょっとだけ小便出たぞ」

「は?」


 ナワテはまだ分からない。謎の言葉でたしなめられる度、頭上のハテナが倍々ゲームで増えていく。

 一方、ルルは小便のくだりのほうが気になるようだ。汚いものを見る目つきで、キースの下半身の濡れ具合をうかがっている。


「雷……? ぼくはデリスランド生まれだから魔法は使えないはずなんだけど。それにぼく、玉座の間にいたときの記憶が途中から飛んじゃってて……なにがあったのかを思い出せないんだ」

「はぁ。お前それマジで言ってんのか?」

「え、なにかおかしいこと言ったか?」


 ナワテにとってみれば至極真っ当な答えだった。生まれて初めて魔法を放った反動で、意識が混濁(こんだく)していたのだから。責め立てられる理由が彼には分からない。


「あんたばか? 雷って言えば、百年に一度その使い手が現れると伝えられる伝説の魔法よ。あんたがそれを使って王座の間の兵が全滅したの。わたしだって初めて見たんだから」

「そう、だったのか……」


 ルルの説明でようやくこと次第しだいを理解したナワテ。ルルの無事を確認し、一度気を落ち着かせたせいだろうか。いちいち驚く力も湧いてこなかった。


「ところでお嬢ちゃん。こいつの口から素性は聞いたのかい?」

「いいえ。その口は自分に都合が悪いこととなると、途端に施錠される仕掛けになってるみたいだわ。そうでないときはのべつ幕なし、永遠と大口を叩くのにね」


 キースの質問に、ルルは心底不服そうに答えた。そのあとは、ルーティーンのようにナワテを睨みつけた。

 でもなぜだろう。そんないつもの彼女を見ると、ナワテは嬉しくなる。


「はぁ? なに笑ってんのよ。きもっ」

「まぁいい。まだ詳しい話は聞いてないってことだろ。ならちょうど良かった」


 キースは腕をまくりながら、地面の上であぐらを掻いた。

 それを見たナワテも、雰囲気に合わせるように冷たい石畳の上に座る。

 ルルは二人と少し距離を開け、壁に背中を預けて、腕を組んで聞く体制に入った。


「いよいよ本題ってわけね。で、こんな場所に犬猿のわたしたちを閉じ込めてなにをおっぱじめるつもりかしら。飼育員さん」

「歴史と科学のお勉強さ」

「「?」」


 安定の嫌味言葉に対し、キースが返したのは、まるで学校の教員のようなセリフ。

 話が見えないナワテとルルが、同時に首を傾ける。


「まずは歴史の勉強だ。坊主、お前の雷の魔法の話から始める」


 それを聞き、ナワテは静かに頷いた。

 伝説と言い伝えられる魔法を、自分が放てるなど信じ難い。だがもし仮にそうだとして、この国の歴史とどのように結びつくのだろう。


 だがキースの話は、ナワテが予想だにしない切り口で始まった。


「単刀直入に言う。坊主、お前は時期殺される。この国のしきたりによってな」


ここまでお時間を頂いた方々、誠にありがとうございます! 感謝感激です!


もしよろしければ、評価【☆☆☆☆☆】を押してくださいませm(__)m


今後の励みに致します!(^^)!

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