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魔女の劇団  作者: 倉敷純次
再会
13/72

因縁

 子役のナワテが名を()せた要因は、母から伝授された特殊な演技理論にあった。


  演技とは、心で人を演じることであり、

  それ即ち、役として生きることである。

 

 これは、幼少期のナワテが母マリエ・ヒョウカによく書かされていた文章である。

 身体ではなく、心を自在に動かすことが出来る人間を『役者』と呼ぶべきだという理論だ。


 ナワテも職業柄、芝居のことに関しては色々と勉強してきたが、母のような演技理論を()く専門家は一人としていなかった。

 ナワテがその理論を他人に教えたことは一度もない。今の会社に所属する俳優たちもその例外ではない。

 よって、母が死んだ今となっては、その理論を知る者は自分だけだと思っていた。


 しかし、異国の地で、それと類似(るいじ)する理論を会得(えとく)する者がいる。


 理由は、全く分からない……。


 その後のストーリー展開に関しては、ナワテともなればだいたい見当がつく。


 最初はいたずら好きの妖精たちの思うままに人間二人が翻弄(ほんろう)されるも、最後は親切な妖精たちが人間たちを森から脱出させる。

 もしくは、実は人間たちは()()ちして山に逃げてきている恋仲で、紆余曲折の後、妖精たちと仲良くなり山でともに暮らすことになる。

 あるいは、人間たち二人の正体が実は妖精の王で、幼き妖精たちのテストをするために人間に化けていた。


 など、星の数ほどの作品にたずさわってきたナワテには、この手の冒頭だけで幾十の結末(オチ)を予見できる。ハッピーエンドを好むアダルア人の習性を加味すると、結末(オチ)はさらに絞り込まれる。


 しかし、そんなことはもはやどうでも良かった。

 ルルの一挙手(いっきょしゅ)一投足(いっとうそく)に心奪われ、遠い目で終始その姿を追いかけていた。

 あっという間に時間は過ぎ、気が付いたら割れんばかりの拍手と歓声が渦巻いていた。


 彼女は誰から演技を教わったのだろうか。

 それを考えると、ある人物の姿がナワテの脳内に投影(とうえい)された。


 ── 母、マリエ・ヒョウカの姿が。


「え、ちょっ、ナワテぇ!」


 まるで焦燥(しょうそう)()られるように、ナワテはルルがいる楽屋口に向かって走り出した。

 楽屋口の前には、出待ちするファンが(むら)がっていた。それを無理矢理手で掻き分ける。

 無数の罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせられながら、最前列までたどり着く。


 ちょうどその時、楽屋口の扉がギィという鈍い音を立てながら開いた。


 最初は男の演者が出てきた……。


 次は子役の四人が観客に手を振りながら出てきた……。


 そして、


「「「ルルさまぁああ──!」」」


 歓声とともに最後に姿を見せたのは、衣装のワンピースではなく、この町の俳優の証──白いドレスシャツと黒のチュールスカートを着た、ルル・マッケナーだ。

 この公演に限らず、他の演者はみんな観客に愛想(あいそ)を振りまいていた。

 俳優は実質、人気商売である。悲しいかな、演者のイメージと作品のイメージが比例してしまうからだ。演者のイメージが悪ければ、劇団のイメージが悪くなり、自動的に作品のイメージまで悪くなってしまう。それはデリスランドであっても、この町であっても同じこと。よって、俳優にとってファンサービスは必須ひっすなのだ。

 なのに、ルルはにべもなく軽いお辞儀をしただけで、その場を去ろうとしている。

 そのふてぶてしい態度を見たナワテは、ゾクゾクと自分の胸が(うず)いてくるのを感じた。


 直後、ナワテは立ち去ろうとするルルを妨害するように、彼女の前に立ちはだかった。


「「「──!」」」


 ルルに送られていた数々の歓声が、ナワテの荒行(あらぎょう)によってピタリと止まる。


 見も知らぬ男に帰路(きろ)を塞がれたルルは、その紅黒い瞳を不機嫌そうに(にご)らせナワテを見た。


「邪魔なんだけど」

「訊ねたいことがある」

「常識知らずの男に、わたしが答える義理はないわ」


 ルルはそう言うと、面倒くさそうにしながら、彼の横をすり抜け立ち去ろうとした。

 二人の周囲からは、ナワテを非難する怒号(どごう)の声が散漫(さんまん)し始めている。


「マーガレット・ベルルックサリーを知ってるか?」

「っ!」


 ナワテがそれを言うと、ルルの眉間(みけん)に一気にシワが寄った。


「知らない」

「……⁉」


 ナワテは、明らかにルルの言葉と態度がリンクしていないことに気付いた。

 それどころか、今度はルルがナワテを睨みつけて離さない状況になっている。


 ナワテが言ったマーガレット・ベルルックサリーとは、アダルアに居たころのマリエ・ヒョウカの名前。つまり、ナワテの母の本名である。

 ルルの心の演技を観たナワテは、彼女と自分の母に友好的な接点があるのだと思った。

 しかし、母の名前を出した途端、ルルは物凄い剣幕(けんまく)で敵意を剥き出し始めた。

 予期せぬ事態に、流石のナワテも表情から驚きの色を隠せないでいる。

 ナワテに浴びせられていた怒号も、この重苦しい空気に押し潰されるように消えていた。


「ナワテ、酷いよぉ」


 そんな険悪な雰囲気がめ始めた中、二人を取り囲む人混みから小さな顔がピョコっと出てきた。それは人と人の間から、かろうじて顔面だけ出しているスレタだった。

 我に返ったナワテは、人垣(ひとがき)からスレタを引っ張り出すため手を伸ばす。


「あ、スレタ。ごめ、うげ──ッ!」


 しかし、猛ダッシュで走ってきた何者かにナワテの身体が突き飛ばされた。

 彼は盛大に尻餅をついたあと、混乱したまま現場に目をやった。


 そこに見たのは、スレタの服に付着したホコリや砂を手で払い落とすルルの姿。


「スレタさま。お怪我は?」

「大袈裟だなぁ。ルルは」


 ナワテは尻餅をついた体制のまま、立ち上がることを忘れている。


「知り合いなのか?」

「うん。ルルはスレタのお友達だよ」


 ルルは「恐縮です」といったあと、すぼめた猜疑(さいぎ)()をナワテに当てた。


「スレタさま。この男とお知り合いなのですか?」

「うん。一番弟子」


 スレタは自分のことを兄のように(した)っているものだと密かに思っていたナワテ。それだけに、弟子扱いはさすがに辛いものがあった。


「あっ、そうだ。ルルはシーチキン好き?」

「え……しーちきん?」


 周りを見ると、今度は不思議そうに見る人々の視線がナワテに集められていた。

 目のやり場に困り上空を見ると、そこには薄いオレンジが広がっていた。


ここまでお時間を頂いた方々、誠にありがとうございます! 感謝感激です!


もしよろしければ、評価【☆☆☆☆☆】を押してくださいませm(__)m


今後の励みに致します!(^^)!

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