2.第九小此木区画。
趣味作品なんだけども、
次の更新、いつになるやらw
「この辺りにくるのも、五年振りか」
翌日、俺は一人で一般人の行き交う駅の構内に立っていた。
それこそ数年前までは日常だった光景。しかしながら、多感なこの時期に五年も離れれば、そこにあるのはまるで違う光景だった。
それに加えて俺の住んでいた『第九小此木区画』という場所は、近年再開発が進んでおり、見違えるほど綺麗になっている。駅前はもちろん、少し街を歩けばそこにあったのは活気に満ちた人々の表情だった。
そんな場所で、ただ立ち尽くして空を見上げてみる。
五年前にはなかった高いビルによって、ほんの少しだけ狭くなった空を。
その景色を見た俺は、やはり自分が『普通の学生』からかけ離れた場所にいたのだと実感した。三年のエージェントとしての活動で、あまりに多くの血を見たのだから。
「まぁ、そんな感傷に浸っても仕方ないか。とりあえず――」
「そこのキミぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 避けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「――は?」
だが、気持ちを切り替えよう。
そう考えて、拠点となるマンションをスマホで確認しようとした。その時、
「危なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
「ごふっ……!?」
振り返ると即座に、顔面になにかが衝突したらしい。
俺はなすすべなくアスファルトの上に大の字になってしまった。その中でも、どうにかぶつかった相手のことを確認する。
どうやら、マウンテンバイクに乗った同年代の女の子らしい。
口には食パンをくわえていて、それでよく叫んだものだと感心した。
「あー、あの……大丈夫?」
「大丈夫に思うか?」
「だよねー」
そう思っていると、彼女はさすがにマズイと感じたらしい。
自転車を降りるとすぐ、俺のことを助け起こした。
「あっはは……! その、急いでたんだよね。ホントごめん」
「それくらい、状況を考えれば分かるさ」
緑の髪をした不思議な少女。
活発な表情に、健康的に焼けた肌の色。
タンクトップを着ているが、その下には二の腕までを隠すような黒のインナーを着用していた。正直なところ、日本異能研究機構にはいないタイプの女の子だ。
そんなことを考えていると彼女は思い出したように、
「とりあえず、ケガが酷かったらこのアドレスに連絡して? あ、それと――」
こう、名乗るのだった。
「アタシの名前は、紫藤レオン!」――と。
その名前を聞いて、俺は昨日のことを思い出すのだった。
◆
「紫藤レオン、か……」
紙に走り書きされた連絡先。
そして、彼女の名前を見ながら呟いた。
宛がわれたマンションの一室は、一人暮らしをするには広すぎる。俺はやることもなし、シャワーを浴びると濡れた髪のままベッドに身を横たえた。
その上で、昼間に出会った少女のことを思い出すのだ。
「あの女が、護衛対象……」
そして、続けてそう口にする。
上官に言われたのだ。
俺が意味もなく、この区画に足を踏み入れることはあり得ない。
つまるところ特定対象の護衛が目的だった。もっとも、その相手には俺がエージェントだとバレてはいけないし、周囲にもそのことを漏らしてはいけない。
すなわちこれは、極秘のミッション。
自身の素性を隠しながら、紫藤レオンという少女を守る、という任務だった。
「…………まぁ、いまは深く考えなくていいか」
俺はそう思って、暗い部屋の中で目蓋を閉じる。
睡魔はまだ、やってこなかった。
それでも、あまりにやることがない。
だから俺はいつもこうやって、ただただ時が過ぎるのを待つのだった。
「明日からは、普通の学生生活だ。気を引き締めよう」
そして、そう小さく呟いて。
時計の針の音を数え続けるのだった。
◆
――一方その頃、日本異能研究機構。
その最高指令室では、このような会話が交わされていた。
「なるほど。思いの外、素直に従ったな」
「はい。……しかし総帥、どうして斑鳩陵介をこの任務に?」
総帥と呼ばれた男性に訊ねたのは、如月凛。
彼女は少しばかり眉をひそめ、最高司令官たる相手を見ていた。
「なに、それを知る必要はない。これは極秘事項なのだからな」
「ですが、斑鳩陵介は世界で唯一の【レベル9】です。一人の少女を護衛、監視するにしてはあまりに不相応な配役ではありませんか? それに――」
そして、なにかを言いかけた時。
総帥である彼は静かに、短くこう遮った。
「不必要に足を踏み入れるのは、感心しないな」
「…………」
まるで、如月を咎めるかのように。
そう言われては、彼女も言い返すことができなかった。
訊きたいことは山ほどある。しかし、それを堪えて如月は深々と頭を下げた。
「分かりました。申し訳ございません――」
そして、相手の名を口にするのだ。
「……斑鳩総帥」――と。
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