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1.新しい日々。

例によって不定期更新。








「えー……この時期に珍しいと感じるだろうが、転入生の斑鳩陵介くんだ。家庭の事情でこの区画に引っ越してきたらしいから、色々と教えてやってくれ」

「……よろしく」




 黒板に俺の名前を書きながら、筋骨隆々な担任教諭はそう言った。

 対してクラスメイトは誰も彼も疑いもせず、素直に返事をする。あまりに平和ボケしているというか、俺のいた学校と名ばかりの場所とは大違いだ。

 あと、どうでも良いけど担当教諭は俺の名字を書き間違えている。



「それじゃ、窓際最後尾に席を運んでおいたから。斑鳩の席はそこな!」

「分かりました」



 体育教師だという元木は、そう言って促してきた。

 俺は言われるがまま、自分に与えられた席へと向かって移動する。左手に窓、右手にはもう一つ空席があった。

 隣人は欠席だろうか。

 しかし、それだと少しばかり困ることがあった。



「それだと、監視できないだろ……」



 誰にも聞こえない大きさで呟く。

 それというのも、転入して窓際の席になるのも計算されたことだからだ。理由は言うまでもなく、俺に与えられたエージェントとしての役割を果たすため。

 つまり、俺の右隣の生徒、というのは――。



「ギリギリセェェェェェェェフ!!」



 そう考えていると、件の人物が教室に飛び込んできた。

 他の学生とは異なり私服のままで。




「いいや、ギリギリアウトだ」

「えー!? 元木先生、セーフだよ!!」

「今日は早めにホームルームを始めるって、言っていただろ?」




 その生徒は、不必要とも思える声量で悲鳴を上げた。

 元木も手慣れた様子で彼女をなだめており、他の生徒たちからは軽快な笑い声が聞こえてくる。その空気に馴染めず俺は一人、表情を変えずに事の流れを見守っていた。

 すると、そのことに目敏く気付いたのは遅れてきた女子生徒。

 彼女は俺の姿を認めると、



「あああああああああああああああああああ!?」



 人目をはばからず、こちらを指してこう叫ぶのだった。





「キミは昨日の、アタシが轢いた男の子!!」――と。





 その直後、紫藤レオンは驚きつつも嬉しそうに笑うのだった。









「いやー、まさかキミが元木先生の言ってた転校生だった、とはね!」

「そうだな。俺も驚いたよ」



 朝のホームルームを終えて。

 一時限目開始までの僅かな時間に、紫藤レオンはそう声をかけてきた。俺はすべて計画通りなのだと分かりながらも、適当に調子を合わせる。

 すると彼女は嬉しそうにコロコロと笑って、こう続けるのだった。



「ねぇ、キミはどこから転校してきたの?」

「どこから、か。北海道にある稚内区画からだよ」

「え、まさかの雪国出身!?」

「そうだよ」

「へー! アタシ、雪見たことないから羨ましいよ!!」

「あぁ、そうなのか」



 こちらが偽の個人情報を語る。

 しかし紫藤レオンは、気付く様子もなく一方的に話していた。



「ちょっと、レオン? 斑鳩くんに迫り過ぎだよ~?」

「転校生してきたばかりなのに、ずいぶんと距離感近いね」



 そんな彼女の姿を見て、クラスの女子が二人近付いてくる。



「え、そうかな?」

「普通もう少し距離あるって! いや、レオンらしいけどさ」

「あはは! アタシ、こんな性格だから! それに、知らない仲じゃないし!!」

「え!? 知らない仲じゃない、ってどういう意味!?」

「えっへへ~! 教えてあげても良いけど、学食のカレー奢りかな?」




 対して、紫藤レオンは軽快な語りで応えていた。

 どうやら彼女のクラス内での立ち位置は、そういうことらしい。簡単に言ってしまえば、明るいムードメーカーといった感じだろうか。

 遠巻きに眺める他の生徒も、いつものこととして笑顔を浮かべていた。

 俺はそれを見ながら、ふっと一つ息をつく。すると、



「あ、そうだ斑鳩くん! せっかくだし、アタシが学校を案内してあげようか?」




 願ってもないことに、対象の方からそう提案してくれた。

 それなら違和感なく彼女のことを監視、護衛することができる。



「あぁ、だったらお願いするよ」

「りょうかい!!」




 俺が即答すると、紫藤レオンはまた笑った。

 



 こうして、俺の新たな高校生活は始まったのである。




 


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