1.新しい日々。
例によって不定期更新。
「えー……この時期に珍しいと感じるだろうが、転入生の斑鳩陵介くんだ。家庭の事情でこの区画に引っ越してきたらしいから、色々と教えてやってくれ」
「……よろしく」
黒板に俺の名前を書きながら、筋骨隆々な担任教諭はそう言った。
対してクラスメイトは誰も彼も疑いもせず、素直に返事をする。あまりに平和ボケしているというか、俺のいた学校と名ばかりの場所とは大違いだ。
あと、どうでも良いけど担当教諭は俺の名字を書き間違えている。
「それじゃ、窓際最後尾に席を運んでおいたから。斑鳩の席はそこな!」
「分かりました」
体育教師だという元木は、そう言って促してきた。
俺は言われるがまま、自分に与えられた席へと向かって移動する。左手に窓、右手にはもう一つ空席があった。
隣人は欠席だろうか。
しかし、それだと少しばかり困ることがあった。
「それだと、監視できないだろ……」
誰にも聞こえない大きさで呟く。
それというのも、転入して窓際の席になるのも計算されたことだからだ。理由は言うまでもなく、俺に与えられたエージェントとしての役割を果たすため。
つまり、俺の右隣の生徒、というのは――。
「ギリギリセェェェェェェェフ!!」
そう考えていると、件の人物が教室に飛び込んできた。
他の学生とは異なり私服のままで。
「いいや、ギリギリアウトだ」
「えー!? 元木先生、セーフだよ!!」
「今日は早めにホームルームを始めるって、言っていただろ?」
その生徒は、不必要とも思える声量で悲鳴を上げた。
元木も手慣れた様子で彼女をなだめており、他の生徒たちからは軽快な笑い声が聞こえてくる。その空気に馴染めず俺は一人、表情を変えずに事の流れを見守っていた。
すると、そのことに目敏く気付いたのは遅れてきた女子生徒。
彼女は俺の姿を認めると、
「あああああああああああああああああああ!?」
人目をはばからず、こちらを指してこう叫ぶのだった。
「キミは昨日の、アタシが轢いた男の子!!」――と。
その直後、紫藤レオンは驚きつつも嬉しそうに笑うのだった。
◆
「いやー、まさかキミが元木先生の言ってた転校生だった、とはね!」
「そうだな。俺も驚いたよ」
朝のホームルームを終えて。
一時限目開始までの僅かな時間に、紫藤レオンはそう声をかけてきた。俺はすべて計画通りなのだと分かりながらも、適当に調子を合わせる。
すると彼女は嬉しそうにコロコロと笑って、こう続けるのだった。
「ねぇ、キミはどこから転校してきたの?」
「どこから、か。北海道にある稚内区画からだよ」
「え、まさかの雪国出身!?」
「そうだよ」
「へー! アタシ、雪見たことないから羨ましいよ!!」
「あぁ、そうなのか」
こちらが偽の個人情報を語る。
しかし紫藤レオンは、気付く様子もなく一方的に話していた。
「ちょっと、レオン? 斑鳩くんに迫り過ぎだよ~?」
「転校生してきたばかりなのに、ずいぶんと距離感近いね」
そんな彼女の姿を見て、クラスの女子が二人近付いてくる。
「え、そうかな?」
「普通もう少し距離あるって! いや、レオンらしいけどさ」
「あはは! アタシ、こんな性格だから! それに、知らない仲じゃないし!!」
「え!? 知らない仲じゃない、ってどういう意味!?」
「えっへへ~! 教えてあげても良いけど、学食のカレー奢りかな?」
対して、紫藤レオンは軽快な語りで応えていた。
どうやら彼女のクラス内での立ち位置は、そういうことらしい。簡単に言ってしまえば、明るいムードメーカーといった感じだろうか。
遠巻きに眺める他の生徒も、いつものこととして笑顔を浮かべていた。
俺はそれを見ながら、ふっと一つ息をつく。すると、
「あ、そうだ斑鳩くん! せっかくだし、アタシが学校を案内してあげようか?」
願ってもないことに、対象の方からそう提案してくれた。
それなら違和感なく彼女のことを監視、護衛することができる。
「あぁ、だったらお願いするよ」
「りょうかい!!」
俺が即答すると、紫藤レオンはまた笑った。
こうして、俺の新たな高校生活は始まったのである。
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