第二話 手荒い歓迎②
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「もう一度確認するよ。時間無制限の一本勝負で、気絶するか降参したら負け。相手を殺しても負け。魔法と刃物の使用は禁止。防具の着用は軽装なら認められるよ。お互いに準備ができたら開始だ」
ああ、どうしてこうなってしまったんだろうか。嬉々として「決闘」のルールを語る騎士を前に、俺はぼんやりとこうなった経緯を思い出していた。
「君の名前と出身地を教えてくれるかな?」
「矢羽です。ええと、山奥の方から来ました」
騎士の詰所らしき建物の一室に連行された俺は、その騎士にいくつか質問されていた。
出身地を聞かれるとは思っていなかったので、とっさに嘘をついてしまった。馬鹿正直に「日本から来ました」と答えるよりはましかもしれないが、もし追求されれば絶対にぼろを出してしまいそうな気がする。
「じゃあ、あの場で何があったのか教えてよ」
幸いにも出身地についての追及はなかったので、俺は安心してヤンキー四人に襲われた時のことを話した。
「……だから、あれは仕方なくやったことなんですよ。だって四対一ですよ? 手加減なんてしてる余裕はありませんでした」
当然正当防衛であることを強調するのも忘れない。何が何でも逮捕(この言葉を使うのかどうかわからないが)されるわけにはいかないのだ。
「うん、わかるよ。本当に四対一なら別に問題はないんだ。あの中の誰かが死んだわけでもないから、君を捕まえようとか裁こうとかそういうことはないから安心していいよ」
「ほ、本当ですか」
「本当だよ」
俺は安堵のあまりため息をつく。犯罪者にはならなくて済みそうで何よりだ。
「でもね、僕は君が一人であの四人を倒したというのがどうしても信じられないんだ。率直に言うと誰かに手伝ってもらったんじゃないか、と疑っている」
しかし話は思ってもない方向へ飛んだ。第三者の存在を疑っているって……。
「いや、あそこは行き止まりですよ。騎士さんも見たじゃないですか。他に誰かいたとしても逃げられないですよ」
「うん、それはわかってるんだ。でもね、こちらにもそう簡単に信じるわけにはいかない事情があるんだよ」
事情。その言葉には有無を言わせない圧力がある。俺が答えに困っていると、騎士の男は笑みを浮かべてこう言った。
「じゃあ、決闘しようか」
「は?」
意味がわからない。なにが「じゃあ」だよ。お前国語の成績悪いのか?
俺の困惑をよそに騎士の男は話を続ける。
「やっぱり実力を知るには実際に戦うのが一番だよね。うん、そうしようそうしよう。君は自分の力で無罪を勝ち取れる。僕もすっきりと君への疑念を拭い去れる。一石二鳥だ。そうと決まればルールを決めないとね!」
騎士の男の、笑みの中に見え隠れする好戦的な目つきを見て、俺はこいつの目的が最初から俺と戦うことだったということに気付いた。まあ、あまりにも遅すぎたのだが。
4
「それでは、ただ今から騎士ルークと、旅人ヤバネの決闘を行う!」
俺が口をはさむ前に全ては決まってしまった。俺は騎士の訓練場という場所に連れてこられ、騎士の男と対峙している。
胸当てと手袋を着け、『大空の盾』を右手に持ってはいるが、正直勝てるとは思っていない。魔法、つまり『収納』が使えない俺の実力などたかが知れているからだ。その上弓も使えないと言われてしまえば、もはや俺の戦闘能力は皆無と言っていいだろう。
しかしあっさりと負けるつもりはない。無罪を勝ち取るために一秒でも長く粘ってみせる。
「それでは、両者共に誓いの言葉を!」
え、誓いの言葉?
初めて聞く単語だが、ルークというらしい騎士は迷いなく地面にひざまずいた。
「偉大なるユピト神に誓う。この剣をただ誠実に、勝利のためだけに振るうことを」
騎士の男は俺に促すような目を向けた。俺もあれをやればいいのだろうか。
「い、偉大なるユピト神に誓う。この剣を、ただ誠実に、勝利のためだけに振るうことを」
俺は剣を持っていないのだが、その辺は問題ないらしい。ルークは満足げにうなずいたので、きっと決まり文句なのだろう。
「それでは両者位置につき、……始め!」
お互いに五メートルほどの距離をとり、審判の声を合図に決闘は始まった。
ルークは一瞬で俺に近付き、手に持った木剣を振り下ろした。俺はそれを盾で受け止める。衝撃で腕がしびれるが、いつかのウルフの突進ほどではない。腕に力を込めて剣を少し押し返し、ルークのがら空きの股間を蹴りあげた。
ガン!
鈍い音が短く響き、俺は足の甲に走った強烈な痛みに思わず涙目になった。
「……躊躇なく股間を狙うなんて、同じ男とは思えないね」
「俺はお前が同じ人間だと思えねえよ! まさか鉄板でも仕込んでるのか?」
「いやあ、お恥ずかしい。実は僕は決闘が好きでね。するときはいつも興奮してガチガチになってしまうのさ」
「最低か!」
ルークという男は中性的な容姿だが、意外にも下ネタがお好きなようである。ちなみに俺はルークの言うことはよくわからなかった。
さて、決闘相手の意外な一面に驚いている場合ではない。いくらルークが興奮しているからといって、あの硬さはいくらなんでもありえない。何かからくりがあるはずだ。俺は『大地の瞳』を使い、ルークの体を見ることにした。
「おいお前、魔法使ってんだろ!」
そして、ルークの体の表面が魔力で覆われていることに気付いた。普通の状態だと魔力は体内にとどまっているので外に出ることはない。こうなるのは魔法を使っている時だけなのだ。
「いいや、使ってないよ」
「嘘つけ! なあ審判! これってルール違反だろ?」
「いや、まったく問題はない」
「え」
おかしい、どういうことなんだ? まさか俺は今まさにはめられようとしているんじゃ……。
「なぜなら僕はあくまで魔法を維持しているだけだからね」
「……?」
「禁止されているのは決闘中の魔法の発動だけだよ。決闘前に発動した魔法の維持はまったく問題がないんだ」
「…………ずるくない?」
「ずるくないよ」
「ずるくないぞ」
審判とルークが声をそろえてそう言った。まさかルールの穴をついて来るような真似をしてくるとは思わなかった。どうやら本当に、何が何でも俺を負かしたいらしい。しかし理由がわからない。ルークがさっき言っていた事情とやらに関係があるのだろうか。
「さて、僕の『硬化』の魔法はあと三時間は続くよ? 降参するなら今のうちだと思うけど」
「へえ、三時間か」
この世界でも「○時間」という言い方をするのか、という疑問はあったが、それは置いておくことにする。俺にはこいつらの思い通りになる気などない。
「いいぜ、そのくらいの時間なら耐えてやる。魔法が切れた時は覚悟しておけよ?」
盾を体の前に構えなおし、俺は腰を落とした。なあに、心配はない。確かに見たところルークは強い。もう少しの努力でタートのあの騎士隊に入れそうだが、勇者ほどではない。『大空の盾』を上手く使えばきっと永遠に攻撃をしのげるはずだ。
「いいねえ、やっぱり決闘はこうじゃなくっちゃ」
ルークは本当に嬉しそうに笑い、剣を正面に構える。
そして俺は普通に負けた。ルークの残りの魔力が半分を切ったところで体力が限界を迎えたのだ。疲労のあまり気絶した俺は、体を鍛えることを誓うのであった。




