↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/111

第一話 手荒い歓迎



 手紙、わざわざあの商人に預けなくてもよかったな。『収納』を使えば無料ですぐにあの手紙を届けられたのに。そんなことに気付いたのはタートに謝罪文を送った後だった。

 何だろう、少し金持ちになって浮かれていたのだろうか。宝石はまだまだたくさんあるとはいえ有限だ。使いどころは慎重に見極めよう。

 とはいえそこまで後悔しているわけでもない。商人にコネができるのは悪いことではないはずだからだ。



 さて、俺は森から西にある町、ビリンに向かっている。そこには「迷宮」というものがあるらしい。遊園地にあるような大型の迷路だろうか。童心に帰って楽しむのもいいかもしれない。

  だが、観光よりも深刻な問題があった。


 「トイレとか風呂とかあるかなあ……」


 現代日本に生きていた俺にとって、着の身着のままで旅をするというのはかなり大変だった。特に毎日風呂に入れないというのがきつい。濡らした布で体を拭いて誤魔化してはいるが、それでは冬になった時に困る。こうして今平原を歩いている間はともかく、町にいる時くらいは風呂に入りたい。

 ちなみにタートで俺が泊まった宿屋には風呂はなかった。風呂というものは大量の水が必要となるから、俺が思っている以上に贅沢なものだということだろう。

 

 トイレはどうしたのか、についてだが……。まああえて言及は避けようと思う。しいて言うなら、スコップなしで穴を掘るのは大変だった。


 

 それなりに整備された道を歩くこと約一日半。あちこちからつながる道が一つにまとまり始め、人通りも森の近くに比べてかなり多くなった。少し遠くにも町を囲む壁らしきものが見えてきたので、目指すビリンはもうすぐそこのようだ。

 万が一のことを考えて、『収納』してあるタートで貰った腕輪を左腕に着けた。魔王が現れた今、町の警備を強化しているのはタートだけではないだろう。何とかこれで入れるといいのだが。

 

 それにしても人が多い。タートに初めて入った時の行列と同じくらいの列が五本ほどある。迷宮とはこれほどに人を引き付ける物なのか。これは期待が持てる。そんなに楽しい迷路とは一体どんなものなのだろうか。

 



 「お! タートから来たのか!? そうかそうか。大変だっただろう!」


 陽気な門番のおじさんは、ノータイムで俺を町の中に入れてくれた。タートに入るときにあんなに大変な思いをしたのが嘘のようだ。


 町の様子に目を向けてみる。石畳の広い通りにはいくつもの露店があり、多くの人々が行き交っていた。この通りにも心惹かれるが、今はとにかく宝石を換金してくれる所に行きたいし、この町に滞在する間の宿も見つけなければならない。日本で言う観光案内所を探しながら、俺はとりあえず町の中心に向けて歩き始めた。


 

 「おっと、すまない」


 「いや、俺も不注意だった」


 しかしこの混雑は本当にすごい。見渡す限り人、人、人。『大地の瞳』で周囲を確認していたのだが、それでもさっき女の人とぶつかってしまった。

 もっと気をつけなければいけないだろう。俺は出会ったことはないが、ぶつかっただけで因縁をつけてくる奴もいるらしい。さっきの人のようにまともな人ばかりではないということだ。



 「おい、どこ見て歩いてんだ!」


 例えば、向こうからぶつかって来たのにそうわめいている目の前の男のような奴もいるのだ。

 周囲の視線が俺たちに集まるが、誰かが助けてくれそうな気配はない。邪魔そうに避けて通り過ぎるだけだ。


 「ちょっとこっち来いや!」


 その男は俺の腕を掴んで路地へ引っ張った。それと同時に人込みの中から三人の男がこちらに向かってきたので、きっと四人で活動しているヤンキーなのだろう。


 そして俺は地面に乱暴に投げられた。すぐ後ろには壁があり、この路地は完全に袋小路になっている。唯一の逃げ道は四人の男にふさがれているため、『大空の盾』で空中に逃れなければ穏便に脱出はできないに違いない。

 もちろんそうすればいいのだが、今ここでこいつらを騎士にでも引き渡しておかないと面倒なことになる気がする。


 「おいおい、ぶつかった詫びもなしか?」


 「兄貴、こいつ生意気ですぜ! ちょっと懲らしめてやりましょう!」


 そしてこいつらは暴力を振るう気満々のようだ。一人一人の魔力量は俺と大差ないが、四人を相手にまともに戦えば分が悪い。

 というわけで不意打ちで一気に勝負を決めさせてもらおう。正当防衛ということで一つ許してくれ。


 地面に倒れたままの俺の体の上を、『大空の盾』がすごい速さで進んでいく。せまい路地では避けようがないので、四人の男は正面から盾にぶつかった。

 結果として二人がその場に転び、残りの二人はそのまま盾と一緒に路地から出て行ってしまった。

 いったん盾を『収納』して上空に取り出し、今度は倒れている二人めがけて下向きに進ませた。

 盾と地面に挟まれた二人の男は短いうめき声を漏らし、苦しそうにうなり続けている。


 「てめえ! 何してくれてんだ!!」


 路地を追い出された二人の男が帰って来たので、今度は『大空の盾』を彼らの後ろに出現させる。

 盾は後ろから二人を押し、そのせいで一人は顔から転んでしまった。もう一人はなんとかバランスを保っているが、足を止めることはできないようだ。


 「おらあ!」


 防御もままならないその男の腹に俺は肩からぶつかっていった。口から空気が漏れる音がしたので離れると、男は呆気なくその場に崩れ落ちた。

 あと一人。顔を打って悶絶している男の上に盾を出現させ、先ほどと同じように落とす。少し顔を上げていたのが災いして、その男は再び顔、より詳しく言えば鼻を打った。

 

 終わってみれば一瞬だった。上手く行ったことに安堵しつつ、俺は騎士を探そうと路地を出ようとした。


 「おっと」


 しかし路地を出た瞬間、全身鎧姿の男とぶつかりそうになった。


 「……このあたりで、少年がチンピラにからまれたって聞いたんだけど」


 「ああ。それ、多分俺のことです」


 どうやらあの人混みのうちの誰かが騎士を呼んでおいてくれたらしい。名前も知らないその通報(?)してくれた人に感謝しよう。おかげで手間が省けた。


 「あれ、君がやったの?」


 「はい、そうです」


 騎士は倒れている四人の男を指さしてそう言った。嘘をつく意味もないので正直に答えると、騎士は満面の笑みで俺にこう告げた。


 「じゃあ、ちょっと僕に着いてきてくれる?」


 この状況を俺は知っている気がする。そうだ、「任意の事情聴取」だ。これ以上ないほどに嫌な予感がする。具体的に言えば暴行の現行犯で逮捕されそうな予感がするが、公権力に逆らうわけにはいかない。

 俺は最悪の事態、この町から逃げなければならなくなるような事態を想定しながら、騎士の男の後ろを着いて行った。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。