悪役補正回避?
その後の陛下の話をまとめると
1、王妃暗殺未遂は冤罪(犯人が捕まったらしい)
2、流刑は無くなり、身分回復
3、ついでに王太子との婚約も回復
「いやいやいやいや!!」
若手芸人ばりのツッコミを入れた私、悪くない。冤罪が証明された事は喜ばしい。が!身分の回復及びに婚約の回復は美味しくない話だわ!
流刑が解かれるのは有り難いけれど、私は第二の故郷アレギラへすぐにでも帰りたい意思はあるし、何より王宮という表舞台は、アラサーOLにはきつ過ぎる職場である。
16才までのまっさらなエリーナ・カクタスならいざ知らず、今じゃ畑仕事のやりがいに気付いてしまった女なんですよ?そんな私が王太子の婚約者?いやいやいやいや、ないわー。ないない。
こんな事なら冤罪かけられたままでもいいです。なので、
「身分の回復はご容赦ください」
「身分を回復しなければ、君を太子の婚約者にする事が出来ないのだよ」
「(婚約話込みで)ご容赦ください」
殿下が悲しそうにするが、知った事ではありません!
「例え冤罪と言えども、私の評判は地の底に着いております。エリーナという不名誉な名を、二度もカクタス家に連なせる事だけはあってはならないのです」
今度は父と義弟が悲しそう。ですがそれも知った事ではありません!!
「では、公爵家へ養子に入れば………」
「………」
まだ粘りますか。
陛下の説得は自分には無理。そう判断した私は回りを見回す。けれど味方はいなかった。
はぁ。
ため息がもれる。
眉間には皺も寄っている事だろう。
出来ればこの手は使いたくなかったのに………はぁーーー
「………不倫疑惑」
ボソッと言ってやりました。それはもう、この言葉にやましい事がある人以外には聞こえない程ボソッと。結果、陛下と奥の方に控えている大臣の1人が青い顔をしました。
ターゲットは陛下お一人だったのに………つまらない者を切ってしまったわね。ふっ
「エ、エリーナ嬢…?な、にを?」
え?何ですか?エリーナ、わからなーい?というように首を傾けておきました。
実は私5年前に掛けられた疑惑は「王妃暗殺」だけではなかったりする。内容が内容だけに公にはならなかったが「陛下との不倫疑惑」も上がっていたのだ。
言っておくが私はシロだ。けれど陛下はクロだ。つまり陛下の浮気相手は私じゃないが存在していたということだ。そのスキャンダルにいち早く気付いてもみ消した私の苦労もむなしく、私の不貞スキャンダルとして王宮内に広がったのである。
悪役補正、こわっ。
そして更に押しの一言。
「そろそろ4才かしらー」
御落胤のあの子は元気にしてるのかしらー?と、このあたりで陛下の体調が悪くなってきたので、今回の謁見は終了になった。
自分の悪役然に惚れ惚れします。
王宮内のあてがわれた部屋に入り、一息つく。牢屋をマイルームと呼ぶ私の好みからは大分外れているが、雨風防げるのでよしとしよう。とりあえず、今回の謁見で得た情報は多い。私にとってあまりいい状況でない事もわかってしまったけれど。
「ふむ」
はしたない事とは分かった上でソファーに体を投げ出す。
緊張が緩んだ今だから感じる疲労感。柔らかいクッションに自分の身が沈んでいく感覚。考えるべき事は山ほどあるのに…………駄目だ。眠い。寝る。
潔さは美徳です。
白い霧がかった世界に広がる、幸せな光景。
でもこれは夢。
それが明らかなのは、私の周りの人たちが笑ってるから。お父様も義弟も。陛下や王妃様、手の掛かる弟のような幼なじみ達も。
………ん?いや、夢じゃないのか。悪役補正無くなったんだっけ。
確か先日オクト団長が来て、王宮に行って、そして皆の誤解が解けていた事が分かった。怖い言葉を掛けられなかったし、冷たい目で見られる事もなかった。
それはとても嬉しい事で、同時に哀しい事だった。
悪役補正がある間は感じていなかったであろう、彼らの中の私への負い目。一生残るであろう、私を陥れたという事実。
ヒロインは居なくなって、補正から解放されても、全てが元に戻るわけではないのだ。
だから、これはやはり夢だ。
私に罪悪感しか感じていない彼らが、こんな笑顔を向けてくれる訳がない。
哀しいけれど、それが事実。