火矢と騎士蜂
~第二十一章~火矢と騎士蜂
「な、何言っているんですか!?危険です!エリナさんは村に居て下さい!それに回復魔法を子供達に施さなければいけないでしょう?」
「私は、もう回復魔法を使えるほどの魔力は残ってはいません、此処に居ても出来る事は無いのです。だったら私にも出来る事をしたいのです!お願いします、一緒に連れて行って下さい!」
「…。分りました。ですが、無理はしないでくださいね。」
時間が惜しい、早速エリナさんを連れて出発する事にした。
村人からの情報によると、キラービー達は草原の方からやって来ているらしい。
「キラービー達は、必ず女王と行動を共にします、ですから、草原の方から来た。と言う事は女王は草原の何処かに巣を作っていると考えられます。」
「草原と言っても広いですね…。虱潰しに探すしか無いんでしょうか?」
「キラービー達の多い方へと向かっていくと巣が有ると言われていますよ。その分、危険が大きくなりますけど…。」
なるほど、理に適っている。
エリナさんについて来て貰っていなければ、今頃、虱潰しに草原を駆け回っていただろう。
「エリナさん、そういえば武器はお持ちですか?」
急いで出て来たのでエリナさんの装備を整え忘れていた。
「えっと、短剣位なら持っています。」
余り立ち回ってもらう予定は無いので問題は無いだろう。一応サイドバッグから、吸魔の盾を取出し、エリナさんに渡しておく事にしよう。
しばらく進むと空を漂う一匹の蜂を見つけた。デカい…。人の顔ほどの大きさの蜂だ。
殺人蜂とはよく言った物だ。
盗賊の鑑定眼で確認する。『魔物・キラービー・青銅貨5枚』と表示される。
確認していると、キラービーが此方に飛んで来る。気付かれた様だ!
魔法弓を引き絞り、キラービーを射落とす。
「す、すごいです!動きの速い、キラービーを一撃だなんて!」
エリナさんが驚きの声を上げている。
「ま、まあ、これ位は…。」
スキルの力に頼って居るので素直に喜べない…。
倒したキラービーをサイドバッグに収納しつつ、話を濁しながら、キラービーの探索を続ける。
「ユウシさん、あっちにもキラービーが居ます。」
今度は十匹程の群れでキラービーが飛んでいる、まだ気付かれてはいない様だ。
「火が使えればキラービーを一網打尽に出来るのですけど…。」
エリナさんが呟く。
「火ですか?」
「はい、キラービーは火に弱いのです。松明でも持って来れば良かったです…。」
火か…。こんな草原では種火を得る事は…。待てよ。
そう言えば、非常持出し袋一式の中にマッチが有ったハズ。
枯草を集め、枯草玉を作る、火を点けると同時にキラービーに気が付かれた。
皮手袋をした手で火の玉と化した球を握り、群れへと投げ付けると、一気にキラービー達に燃え移った。数十秒で完全に燃えてしまった。素材として回収は出来ないだろう。
「ユ、ユウシさん、すごいです。火魔法が使えるんですね!」
「い、いえ。これは魔法では無く、マッチと言ってですね。火を起こす事が出来る物なんですよ。」
「へぇー。便利な物があるのですね。でも、これで火の心配は有りませんね。」
「いえ、それが…。あくまで緊急時用の物でして、あと二回分位しかありません。」
この先使って行くのは厳しいだろう。何とか火の確保を容易に出来ない物だろうか…。
「あ、思い出した。」
そう言ってサイドバッグを漁り、赤い小石を取り出す。
「それは何ですか?」
エリナさんが首を傾げて聞いてくる。
「これはですね。火魔石という物です。こうやって…使うとですね。」
枯草を集め、火を起こして見せる準備をしていると、エリナさんは興味深々に覗き込む。
さあ、始めようかと火魔石を設置しようとした時、エリナさんの背後からキラービーが低空で迫って来ているのに気が付く。
「エリナさん!危ない!!」
エリナさんを抱きかかえ横に飛ぶ!キラービーが立っていた所を通り過ぎていく。
空へと舞い上がるキラービーに狙いを定め、魔法弓の弦を引き絞ると突如!!
矢が火に包まれる!
「うわ!?」
突然の事に驚いたが矢は標的に突き刺さり、キラービーを灰に変えていた。
「あ、あの。ユ、ユウシさん…。」
「え?あ!?す、すいません。」
エリナさんを抱きかかえたままだったのを思い出し、バッと離れる。
しかし今の火の矢は一体何だったのだろう?
今までは普通の魔力矢しか出た事は無かったのに何故このタイミングで?
ふと、弓を握る手に違和感を感じる。どうやら火魔石を握ったまま弓を射ってしまった様だ。弓の持ち手に火魔石が填まり込んでいた。もしや、この火魔石の仕業だろうか?
試しに弦を引き、矢を射ってみると、火の矢が飛び出した。やはり間違いない様だ。
そういえばこの魔法弓の特殊能力は属性換装だった様な気がする。
なるほど各属性魔石を填め込む事で矢の属性が変化すると言う事なのだろう。
確認を終えるとエリナさんがキラキラとした目で此方を見ていた。
「す、すごいです!魔石ってこうやって使用するのですね!初めて見ました。」
あー、そうだね。使い方は一応、間違っては居ない様なので良しとしよう…。
「でも、ユウシさん。キラービー達を火矢で倒すのは良いのですが。女王に火を使うのは止めておいてくださいね。女王ごと薬が燃えてしまいますから。」
確かに薬ごと燃えてしまっては困る。
キラービー達は思いの外、燃えやすいので注意が必要だ。
「さあ、ユウシさん。先を急ぎましょう。」
「ええ、早く子供達に薬を届けてあげないといけませんからね。」
俺とエリナさんは改めて、先へと進む。
暫く進むと道の段差を利用した横穴が現れる。
横穴の前にはキラービー以上の体躯を持つ大きな蜂が四匹、飛び回っている。
「あれは、間違いありません。ナイトビーです。」
俺も盗賊の鑑定眼で確認する。『魔物・ナイトビー・銅貨3枚』
「ええ、ナイトビーで間違いない様です。」
恐らくキラービーの上位種であろう。
そんな事を思っていたらエリナさんが解説してくれた。
「ナイトビーはキラービーの上位種で女王蜂の近衛兵です。固い甲殻に身を包んでいて炎も平気です、幸いキラービーの様な毒は持っていませんが高い攻撃力を持っている強敵です。ナイトビーが此処に居るという事は穴の中に女王蜂が居ると思って間違いないです。」
「エリナさん、少し離れていてください。四匹まとめて相手をします。」
「は、はい。気を付けてください。」
そういうとエリナさんは少し離れた場所に身を隠す。
エリナさんが隠れるのを確認して、俺は弓を引き、ナイトビーに狙いを付ける。
幾ら固い甲殻で身を守っていても関節の部分までは覆いきれない筈、関節部を狙い火矢を放つ。
火矢がナイトビーに突き刺さる!
体の中を火で焼かれ絶命する!流石の甲殻も内側からの攻撃には役に立たなかった様だ。残り三匹が此方に向って飛んで来る!
二匹目を妖精の剣で切り払うと甲殻ごとスッパリと切断できた。
もう一匹を相手にしていると他のナイトビーに背後に回られた!
しかし今は目の前のナイトビーから始末するべきだ!
妖精の剣で胴体を真っ二つに切り落とす!直後!激痛が背中を襲う!
「ぐぅ!!」
後ろに回り込んだナイトビーに強烈な針の一刺しを貰ってしまった。
ズキズキと痛む!だが我慢できない程じゃない!!
歯を食いしばり背後の敵を切りつける、剣が狙いを外してナイトビーの羽を切り落とす。
ナイトビーが地面に転がるとすかさずにとどめを刺す!と、メッセージ画面が現れLVが7から9へと一気に2LV上昇していた。
ナイトビー四匹を片づけるとエリナさんが物陰から飛び出して来た。
「ユウシさん!大丈夫ですか!今、背中にナイトビーの針を受けていましたよね!」
「ええ、少し痛む位で大した事は有りませんよ。」
強がって見るが結構痛い。大きな蜂の魔物もやはり蜂である。刺されれば痛い。
「ユウシさん!服を脱いでください!」
突然エリナさんが詰め寄る。
「だ、大胆ですね。」
「え!?い、いや!違いますよ!!治療しますから、その、上着を脱いでくださいという意味で…。」
ゴニョゴニョと言い淀んでしまった。
ちょっとからかい過ぎた様だ。素直に謝っておこう。
「すいません。実は結構痛いんですよね。治療、お願いします。」
そう言って上着を脱ぐ、自分では見えないが、少し腫れている様に思う。
「は、はい。治療を始めます。」
エリナさんは気持ちを切り替え、俺の治療を始めた。
「少し傷口を切りますから、痛いですよ。」
そう言ってエリナさんはナイトビーに刺された箇所を、持っていた短剣で少し切る。
「イッ!?」
「ナイトビーは毒を持ってはいない筈、ですけど一応吸い出しておきますね…。」
そう言ってエリナさんはその柔らかな唇で背中の傷から血を吸い出してくれる。
何というか…。美少女の唇を背中に感じる。そこはかとないエロスを感じる。
などと考えていると、唇が背中から離れるとソッと傷口に手をかざす…。
「大いなる大地の息吹を分け与えたまえ。ヒール!」
暖かな感触を感じたと思ったら背中の痛みが嘘の様に消えてしまった。
もう血も出ていない様だ。回復魔法って凄い。
「ありがとう、エリナさん。」
エリナさんにお礼を言ってから、上着を着る。
「そういえば、エリナさん。魔力切れではなかったんですか?」
「ええ、でも一回分位は使えるまで魔力は回復していましたから。」
再度、エリナさんにお礼を言ってから、ナイトビーの死体を回収し、俺は横穴の前に立つ。
横穴はまだ新しく掘られた物の様で、それほど穴の深さは無い。
入り口から光が差し込まない程度の所に一際大きな蜂が静かに鎮座していた…。
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