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話し合い

 じゃれあう幸平達に俺はどうにも混ざれない。わからないのだ。もし誰かがこちらに来て、俺が来ていなかったのならなんとしてもこちらに来たいと願ったことだろう。しかしそれは俺とこいつらでは意味が違う。流石にそれは分かる。


 確かにこいつ等といて楽しくはある。困っていたのならできる範囲で助けになりたいとも思う。だが別段、一緒にいてほしいとは思わない。

 

 こいつ等は本当にそう思っているのか。本当にたがいを必要に思っているのか。


 それが俺にはわからない。先ほどの状況なら、友達じゃないか水臭いことを言うな、とそう言うのが正解だろう。ただ、本当にそう思っているのか?空気を読んでの発言ではないのだろうか?だとすればそうは思わない薄情なのか?それとも皆、やっぱり俺と同じに思ってはいるが場の空気に流されたに過ぎないのだろうか?


 ずっと似たような疑問を持ち続けてきた。しかしそんなことを口に出して問う訳にはいかない。もし俺だけが異物であった場合俺は、排除されてしまっていただろう。いや、それだけで済むのならまだ問題はなかった。集団、群れというのは放逐された者を放置したりするほど甘くはない。さまざまな精神的、物理的な暴力にさらされることになる。そんな面倒な事態は避けたい。故にこの問いを舌に乗せることができるのは、俺がその面倒事をその程度、と容易く跳ね除けることが出来るようになった時だろう。


 それはともかく今は情報が必要だ。この世界はむこうと違って俺を満たしてくれそうなのだ。これからが楽しみで仕方ない。


 にやけそうな顔を抑えつつも先導について先を目指していく。


 それから程なくしてそれなりに大きな建物が連なるのが見えてきた。衛兵がいる門を抜けて敷地内に足を踏み入れると、かなり広い校庭のような場所に人だかりができているのが目に入る。服装で分かるが、ご同輩だ。


 その塊に俺たちも混ぜられ、しばし離れていたお互いの無事を確かめ合っている奴らを尻目に俺は、周囲を伺う。周りを囲んで兵士が配されているうがごく僅かしかいない。俺たちを威圧しないためだろうか。あとは初日に遺跡で会った女がいる。名前は覚えていない。そもそも名乗っていただろうか?どこかで名前を耳にした気はするのだが。正直顔も覚えていないが背格好が同じなのであの時の女だろう。


 女の隣にいる男には見覚えがない。ガタイがよく上背もあり、鋭い印象を与える容貌と併せて威圧感を放っている。男の存在に気がついた幾人かは、先程まで騒いでいたはずだがおとなしくなってしまっていた。戦場似合いそうな男だが服装を見るに兵士のたぐいではないようだ。法衣とおぼしき物を身にまとっている。そういえば女は巫女を自称していたので、その関係職なのだろう。



 周りが落ち着くのを見計らっていたのか静かになってくると巫女の女がこちらに近づいてきた。


「皆様改めまして私はアンジェリナと申します。始めに謝罪させていただきます、大したもてなしもできず申し訳ありませんでした。なにぶんこれほど大勢とは想定していなかったものでして。客人をもてなすにふさわしい場所を確保できませんでした。もうしばらくは現状の状態を続けさせていただくことになります。あわせてもう一度謝罪させてください。要望があれば出来る限り叶えさせていただきます」


 やけに好意的。どころかへりくだりすぎていて胡散臭すぎる。なにやら事情があるのは、俺達があの場に現れる事を知っていた事から伺えるが、一体どんな事情があることやら。そのあたりを今日は聞かせてくれるのだろうか。


「皆様においては右も左も分からないといったご様子であると存じます。まずはそこからご説明させていただきます。それから皆様方の事情はコーヘイ様より伺ってますので、ある程度把握しております。その上で留意していただきたいのですが、今からお話することには何を突拍子もないことを、とにわかには信じられないこともあると思いますがひとまず疑問を横に置いて聞いていただきたいのです」


 周囲に困惑した空気が流れはしたが、とりあえずそのよくわからない提案を受け入れる方向で落ち着いていく。それより幸平の奴は事前に話し合っていたのか。認識のすり合わせをしたんだろうが、何か知り得たのならば教えて欲しかったものだ。口止めされていたのだろうがな。

 

 それからアンジェリナが話しだした内容は、三日前なんとかという神から俺達があそこに現れるので保護して欲しいと神託を受けたの事であり、俺達の生活を世話してくれる事。元の場所に帰りたいのであれば協力してくれる事。その対価としてこの国に所属し国の為に働く事。働く内容はお互いに話し合い、ある程度はこちらの意に沿ってくれる事。その中でモンスターや魔法といったものの存在にも触れていた。わざわざ説明してくれるのだから元の世界では、少なくとも俺達はそんなのも現実には認識していないと幸平に聞いて分かっているのだろう。


 話し終えたアンジェリナはしばらく話し合ってくれと言って少し離れたところへ戻っていき、今はこちらを眺めている。さて話し合いというが、事前に幸平に話が通っているのを見るに、幸平がこいつらを説得する時間というのが実情といったところか。

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