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説得

「まずは質問や意見があるなら聞かせてくれ」


 昨日アンジェリナさんと話し合って決めたことだ、話が終わったら僕がみんなを説得する。本当は昨日の話し合いには大介達にも参加して欲しかったのだけれど、どうしてもと言われたので二人でする事になった。その時にさっきの話を聞かされた。かなり僕達を優遇してくれていると思う。国の為に働く、ってのが曖昧な条件だったけどあくまでも契約であり忠誠を誓う必要はなく、契約内容も話し合いで決めてくれるとの事で、頼れる物のない現状の僕たちにとってこれ以上ない条件だと思った。どうしてここまで良くしてくれるのかと聞いたら、神託だから言っていた。魔法とか神様とか驚いたけどこの答えにも驚いた。この世界の人たちは皆こんなに信心深いのだろうか。それとも神様が実際に存在していたらこんなものなのだろうか。その感覚は僕たちには理解できなさそうだった。


 別れ際に今日話した内容は当日まで秘密にして欲しいとも言われた。その時にアンジェリナさんが身を寄せて耳元で、二人だけの秘密ですね、と囁いてきたのは心臓に悪かった。思い出すだけで顔が熱くなる。いい匂いがした。


 ともかくこの話に乗るしかないと思った僕は皆を説得して欲しいとの頼みを受けることにした。


「僕は好条件だと思っている。帰る方法も探してくれるみたいだし」


 不安はあるみたいだけれど他にみちがない事は分かっているのだろう。反対の声は上がらない。不安の原因は労働の内容だろう。これについてアンジェリナさんに聞いた話を聞かせる事にする。


「たぶん働く事が不安に思ってるんだろう?何をするのかもしかしたらこの間見たモンスターなんかと戦ったりりするんじゃないかって。もしかしたらそうなるかもしれない。でもいきなりそんなことにはならない。まずは僕達はこの国の学園に通うことになるって言ってたし、命の危険がある事は拒否出来るようにしてくれるし、俺が絶対に強制なんかさせないようにする。言ってたろ契約内容はこっちに融通してくれるって。この世界の事を知るために学園に通うってのは願ってもない事だとも思う」


 もしかした帰れないかもしれない時の事も考えて、との言葉はあえて言わないでおく。今は不安を煽るべきではないだろう。僕がその時のことも考えて行動していけばいいだけなんだから。どちらにしろすぐに帰られるとは思えないから、生活基盤を作っておく必要はあるんだ。


「真田がそう言うなら…」

「俺よくわかんねーからお前に任せる」

「私もそれがいいと思う」


 どうやら皆賛同してくれるみたいだ。全体が完全ではないがそれなりの納得をみせてくれたところで、仲間の方に向かうと大介が真っ先に口を開く。


「お前いつの間にあの美人さんと密会してたんだよ。俺も呼べっての」


 黙っていた事を責められるかと身構えていた自分が阿呆だったのだろう。


「コウちゃんどうせ鼻の下伸ばしてたんでしょ。なんかやらしい事してないでしょうね」

「なっ…そんな事あるわけないだろう。真面目な話をしただけだ」


 優姫の言葉で少し動揺してしまったがあれは決してやましいことではない。


「どーだか、あの人すごい美人だしコウちゃん結構スケベだし」


 こいつ…なんでこんなに攻撃的なんだ?


「男がスケベなのは当たり前です」


 ジトーとした優姫の視線を受けながら、大体と前置きして抗議の言葉を続ける。


「美人だからっていってなにかするって言うならお前や葉月にだって何かしてなきゃおかしいじゃないか」


 もちろん二人に不埒な真似をしたことはない。そう言って論破してやると顔を赤くして、もういい、と言ってくるりと背を向けてしまった。拗ねてしまったみたいだ。こういったところは昔から変わっていなくて、見ていて微笑ましい気持ちになってくる。


「さりげなく私も含めて発言する、お前の末が私は恐ろしいよ」

「?……、優姫も葉月も美人なのは事実だろう?」


 事実を言う事のなにが末恐ろしいのだろうか?


 葉月は、はぁ……と息をついた。


「それで、今からどうするつもりなんだ? これで話し合いはおわりか?」


 大介と、機嫌が戻ったのか優姫も話に入ってきた。さっきからまったく喋っていないけど義人はずっと、傍で聞き手に回っている。


「いや、契約内容の大まかな方向性を決めておきたい。やっぱり決める時に全員であれこれ言うよりも、意見をまとめてから代表がやったほうが良いし」


 アンジェリナさんにはそこまで言われなかったけれど寝泊りする場所が別々なのだから、今できるのならやっておいたほうがいいだろう。


 それから程なくしてこちら側の提示する条件は定まった。総じて基本的人権の保証といった感じになった。


 こちらの意見がまとまったところで、アンジェリナさんにこれからお世話になることを伝えると、それは良かったと言ってから隣の神父さん風の男性を紹介された。


「この方はロバート・ジャン大神官様です。ロバート様こちらは異界の方々のまとめ役をなされているコーヘイ・サナダ様です。コーヘイ様のおかげで私も助かっていまして、優秀な方です」


 そんな紹介をされるとなんか恥ずかしいのだけど、多分偉い人なのでちゃんと挨拶しなきゃまずいだろうな。改めて顔を見てみると、控えめに言ってもかなりおっかなさそうな人に見える。8○3とまではいわないど。アンジェリナさんの上司に当たる人だろうか。それならお礼も言っておかなくちゃいけないよな。


「初めまして、幸平・真田です。わからないことだらけですが、いろいろと助けていただきありがとうございます」

「コーヘイ殿、と呼んでよろしいかな?」


 怖そうなひとだと思っていたら意外のも穏やかな口調で言われたので、あっはい、なんて、間抜けな返事をしてしまった。


「先程から拝見しておりましたがコーヘイ殿はご聡明であるようだ。お若いのにご立派であられる」

「いえ、そんな……」


 またも褒められてしまいなんと返していいものか分からずに困惑してしまうが、そんな僕をよそに話は続く。


「本日私は貴方々の魔力を調べるために来ております」

「魔力……ですか」


 僕たちの世界では空想上のものとされていた魔法。調べるという事は僕たちにも使える可能性があるということなのか?


「はい、魔力を持っている者が生まれる確率はかなり低いのですが、魔法士は優秀な人材ですので魔力検査はほとんどの国で義務になっております。なので貴方々にも検査を受けていただきたいのです」

「そうですか……あの、もし、魔力を持つ者がいたとしてなんですけど……なにかを強制されたりなんてあるんでしょうか?」


 これは聞いておかなくてならない。ついさっき皆に約束したんだ、僕が絶対に誰もそんなめに遭わせないって。


「いえ、そのような事は一切ありません。もし魔力持ちの方がおられても貴方々に不利になるようなことはありますまい」


 それを聞いてほっとした。強制的に兵士にされる、なんて事はないみたいだ。この間のモンスターと戦わされたりなんて日本人の僕達には無理だと思う。いや葉月ならできそうだけど。でもその場合魔力関係なくないか?


「コーヘイ殿はお仲間方の心配をされているのですな。ですがそれならばなおさら魔力検査をしておくべきでしょう。アンジェリナより伺っておりますが貴方々は争い事に縁がないそうで。魔力があれば困難に立ち向かう助けとなりましょう」

「ロバート様は大神官であると同時に優秀な魔法士でもあるのです。魔法に適性のある方がいらっしゃればご指導を受けていただこうと、今回お越しいただいております。ロバート様のように優秀な方に観ていただける機会などそうはありませんので、コーヘイ様、是非とも受けていただきたいのですがいかがでしょうか」


 二人にこうまで言われてしまうと断りづらい。それに義務だとも言ってたよな。嫌だといえば断れるんだろうけど断る理由もないし。受けるべきだろうな。


「こちらこそ是非お願いします。まぁ全員ダメかもしれませんが……」


 ロバート様――様で呼ぶべきだよな――は早速取り掛かろうと言って近くの兵士達に指示を出し始めた。準備ができるまでの間に僕は皆に説明をしておいた。説明が終わると皆はそこかしこで話し合い、ざわめき立っていた。普段から割と落ち着いた雰囲気を出していて、実際にそうそう取り乱すことのない義人ですらなんだか浮き足立っているように見える。


「うわー魔法かぁ。コウちゃん私魔法使えるかな! あの時に見たけどすごかったよね! 使えたらいいなぁ」


 優姫に至っては興奮しすぎだ。誰も使えないことだってあるだろうに。この世界の人間じゃない僕達は、むしろ魔力が無い可能性の方が高いだろうし。そう言ったら大介が反論してきた。


「でもさそんな俺たちだからこそ逆に全員魔法が使えたりするかもよ?」


 うーん、一理あるとは思うけどそれは都合が良すぎるのでは?


「私も使ってみたくはあるが、ここであれこれ言っても仕方あるまい。検査してくれるのだろう? だったら結果はすぐにわかる」


 相変わらず葉月はさっぱりしてるというか……リアリストって言ったら言い過ぎだろうか? この五人の中で一番しっかりした奴なのは間違いないけどな。


 それからまた少し経つとどうやら準備が出来たらしく、アンジェリナさんに呼ばれてなにやらボーリングの玉くらいの水晶玉らしき物が置いてある台のところまで行く。なぜか大介らが四人とも付いてきた。何も言われなかったので気にしないことにする。たぶん早く検査したいのだと思う。まったく子供だな。思わず口に出ていたらしく四人がかりで尻をつねられてしまった。なんて奴らだと思う。


 かくいう僕も結構緊張しているので仲間達のことは言えないのだけれど。きっとこの水晶玉でどうやってか検査するんだろう。水晶玉を見ている僕に気がついたのかアンジェリナさんが説明してくれる。


「この水晶に両手をつけていただければそれで結果がわかります」

「それだけですか?」

「ええ、ご覧下さい」


 そう言ってアンジェリナさんが水晶玉に手をつけると、水晶玉が淡く光りだした。


「魔力がある場合はこのように発光いたします。さぁコーヘイ様どうぞ」


 なんだかすごく緊張してきた。それでも期待をしながらおずおずと両手を水晶玉に近づけていく。水晶の冷たさを感じながらやっぱりダメか?なんて思っていると。


「あっ、光った」


 そんな感想しか漏らすことができなかった。


 少し離れて見ていた生徒達はなにやら高揚した声を上げている。


「おいおい、やるじゃんコウ。んじゃ次オレな」

 

 大介と交代する。


 またも水晶は光を発する。


「すごいですね、お二人も連続なんて」

「いやこれは素晴らしいことでな」


 アンジェリナさんとロバート様はさらに熱を増した生徒たちとは対照的に落ち着いている。


「はい! 次、私やりたい」


 優姫が大介と交代するとまたもや光った。


 さらに葉月、義人と続けて発光し、他の生徒達も続々と水晶を光らせていく。


 おいおいこれまさか全員光るんじゃなかろうな?   


 ロバート様がこっちに近寄ってくる。話があるんだろうな。今のところ50人ほど連続で光ってるなんていう、とんでもないであろう事態が起こってるわけだし。


「コーヘイ殿、このあと私が魔法について簡単な手ほどきを行おうと思っていたのだが、この様子ですと代表者数名に絞ったほうが良さそうですな。ですのでコーヘイ殿と数名であちらまで来ていただけませんかな?」


 そう言ってこの広場の端の方を目で指される。了承すると、数が揃ったら来てくれと言って先に向かっていった。


 数人と言われてすぐに浮かんだのはいつもの四人。そのメンツを連れてロバート様の待つところまでいく。今更ながら魔法を使えるんだと実感が湧いてきて、気分が高まってきた。大介達も興奮気味に見える。


 僕は魔法を使えるということが楽しみでしょうがなかった。きっと仲間たちも同じ気持ちなんだと思う。

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