街を包囲された、何気ない日々っ!?
レライエやロロイ達を魔大陸に戻し、僕、パイモン、マルコ、ミュル、withフミさんはようやくソドムの街に戻ってきた。
仲間と合流するというフミさんと別れ、僕は僕の商会へと向かう。教会が動いたとなると、今日中にしておかなければならない事が色々とあるのだ。
「ミュル、お前フルフルみたいに変装はできるか?」
「できれる、よ!」
「それは『できる』でいい。じゃあ今後しばらく、僕の護衛はミュルだけでいい」
「ええっ!?」
パイモンが悲鳴に近い落胆の声をあげるが、これはこれからのために必須なのだ。諦めてくれ。
「えー」
ついでにマルコも不満げだが、変装できない奴には今回は諦めてもらう。フルフルも、今回は駆り出す事にしている。
パイモンの持っている変装の指輪は、顔がパイモンのままだから以前の僕のようにバレる心配があるのだ。
商会に入ると、僕はすぐさま従業員に指示を出し始める。
「カサンドラ、これからしばらく市場が荒れる。先物買い、信用売りをしないように徹底しろ」
「はい。荒れるのは貴金属ですか?」
エルフのカサンドラは、理知的な相貌を細めて、こちらを窺う。
「もう影響が出始めてるのか?」
「微増程度ですが………。ただ、ただでさえ薪が必要なこの時期に、銅や鉄まで高騰傾向にあるのは異常かと」
「そうだな。間違っても手を出すな。冒険をせずとも、この商会はそこそこの大店だ。そうそう潰れないから安心しろ。
ただまぁ、金銀白金銅は値上がりするだろう。我が商会としては金属市場に手を出すつもりはないが、自費で小遣い稼ぎをする程度なら構わん。あと、鉄は値下がりするだろうな。儲けに目が眩んで身を持ち崩すなよ?」
「そこは会頭代理として、ハッキリ禁止令を出した方が良いのでは?」
「この絶好の稼ぎ時に参入できないようなら、商人なんて辞めちまえ。
商会として冒険はしないが、従業員の個人的な商売まで規制するつもりはない。お前は命令に忠実に従う従順な家臣か?」
「いえ、商人です」
「なら商人の掟に従え。曰く、『忠実な臣民である前に商人であれ。敬虔な信徒である前に商人であれ。誠実な人間である前に商人であれ』だ」
「はい」
しかし、銅に引っ張られて鉄まで値上がりしてるのか。これは、本当に大荒れになるかもな。
「しばらく外に出る。会頭代理をベネッサに、カサンドラは補佐に当たってくれ」
「了解しました、キアス様」
カサンドラに頭を下げられ、それに続いて頭を下げた従業員達に声をかける。
「さぁ、稼ぎ時だぜテメェ等!!」
包囲されたって、僕には僕の仕事がある。そうそう聖騎士1800ごときにかかずらわっていられないのだ。
「本当にご用意出来るのですかな、ガミジン殿?」
場所はアドルヴェルド聖教国、聖都アラトの大聖堂。
そう、アヴィ教の総本山である。
「はい、間違いなく。つきましては、現在の価格の1.1倍のお取り引きをお願いしたいのですが」
「まぁ、それだけの量であれば、確かにそのくらいの値上がりは致し方ありませんな」
ニヤリと笑いながら顎を擦る、レンメルとかいう上級司祭長。今回、僕が交渉をするのは、この笑い方の嫌らしいガリガリのおっさんだ。
「では契約書を」
レンメルが契約書を取り出し、そこに契約内容が明文化されていく。
「ガミジン殿はどこの出身でしたかな?珍しい目の色をなさっていますが」
「アルバン緒王国のハルネスです」
「それはそれは、敬虔なる彼の国の出でしたか」
「はい。夢にまで見た聖都で、大聖堂の中で上級司祭長とお話しもできるなんて、これも光の神のお導きかと」
「左様ですな」
棒読みにならないように注意しながら、僕はそう嘯く。正直吹き出さなかっただけ、僕の精神力は称賛されるに値すると思う。
今の僕は、小麦色の肌に金髪金眼の女の子である。服装だって、以前のせいで警戒されている学ランを避けて、わざわざ新しい女性服まで用意したのだ。
因みに今回用意した身分は、パイモン商会ではなく、南のアルバン緒王国で取得してきたものだ。
「これでよろしいか?」
レンメルの差し出した2枚の契約書を確認し、お互いに名前を書き込む。これで契約は成立である。
「本当なら大聖堂で、聖都におられる司祭様のお説教をお聞きしたかったのですが、今は何より時間が惜しいので、僕はこれで失礼しますね。でないと、損が出るかもしれませんので」
僕はそう言って、金貨が3枚入った小袋を机に置く。
「今日のところは、寄付だけでも納めておきます。名残惜しいですが」
「なになに。商人が忙しいのは常の事ですからな。光の神もお目こぼしくださるだろうて」
「ありがとうございます」
「光の神のご加護がありますように」
僕は深く頭を下げて、その上級司祭長とやらの部屋を辞す。
ところで、魔王と契約を交わし、あまつさえ賄賂まで受け取るような奴は、アヴィ教でどんな扱いを受けるんだろう?
まぁ、バラすつもりもないけど。




