4人の魔法使いと、1人の魔王っ!?
取り敢えず、サージュさん達を教師として雇い入れる事が決まった。
いや、実はこれはまだ決定ではない。
いくら高名な魔法研究家であり、勇者であり、アニーさんの師匠とはいえ、そんな肩書きだけを鵜呑みにして、能力も見ずに決定はできないのだ。
勿論、僕の思惑としてはサージュさんや子供たちは囲い込みたいし、恐らく試すまでもなくサージュさんの能力は教師として十分だろう。しかしやはり、試験は必要なのだと考えていた。
因みに、サージュさんは『最上級風魔法』『精霊魔法』『無属性魔法』『時空間魔法』ついでに上級の火、水、土魔法まで覚えていた。最早魔法の権化である。
イルちゃんさんは、それに比べればまだ大人しい。『上級水魔法』『上級火魔法』『時空間魔法』だけだ。しかも、時空間魔法は転移は使えないものの、エリア魔法は使えるらしい。サージュさんが言うには、エリア魔法に関して、イルちゃんさんは天才なんだとか。………ごめん、前言撤回。感覚が麻痺していたらしい。全然大人しくない。
大人しいといえばラトルゥールさんだが、彼女も彼女で異常である。『上級火魔法』『中級水魔法』『中級風魔法』『中級土魔法』『中級光魔法』『回復魔法』。………もう、ね?
彼女はどうやら、近接戦闘は苦手のようで、まさに魔法使いというイメージにぴったりだった。だが、その能力は特筆すべき物があるだろう。むしろ、これで近接戦闘までこなされたら、魔族の面目は丸潰れだ。
サージュさんの弟子、という言葉に一番相応しいのは彼女だろう。
最後にゴンちゃんだが、彼も中々に侮れない。
魔法の適正こそ『中級土魔法』と『身体強化魔法』だけだが、ゴンちゃんの身体強化魔法は特殊なのだとか。
何千人かに1人くらいの割合でいる、身体強化魔法が『ハマってしまう』タイプの使い手らしい。それは、普通の身体強化魔法の使い手が使うものよりも格段に高い効果を引き出し、付与された相手の能力を遥かに高い次元へと押し上げる。 しかもゴンちゃんは、自らも戦闘をこなせるので、自分を自分で強化し、強化した土魔法で武装して戦えるという、かなり自由度の高い戦士なのだとか。
因みに、ドワーフが必ずしも格闘戦に弱いとは限らない。短い手足、低い身長というハンデさえ克服すれば、それは力強い戦士となる。ゴンちゃんやレイラもその1人なのだろう。
このように、4人の高位の魔法使いが揃っているのが、サージュさん率いる勇者パーティーなのである。
当然のように、試験そのものをあっさりとクリアした4人と、僕はかなりレールから逸れた話、というか研究を始めてしまったのである。
「ですから、『魔法』という現象を定義するにあたって、一番簡単にその構成を分類するならば、『魔力』『詠唱』『発現』だと考えるわけです」
「ふむん。
まぁ、そなんやけど、その魔法を構成するその3要素の中で、何が一番大事かゆーたら、その『詠唱』や。『詠唱』が無かったら無属性魔法すら発動せえへん。その3要素があるからこそ、『詠唱破棄』は難しいねんて」
僕とサージュさんが『魔法』について話を進めていると、横からイルちゃんさんとラトルゥールさんがそれを補足する。
「でも師匠、その『詠唱』は様々なやり方があるわよ。マジックアイテムを例に出せば、あれはある意味『詠唱破棄』にあたるわ。それは、詠唱を魔方陣で代用するという行程があるからだけれど」
「しかし、実際に『詠唱破棄』を行える方もいます。師匠もそうですし、アニ姉もできます。私は出来ませんが………」
そしてそこにゴンちゃんも交えて、僕らは高度な魔法理論研究にうつつを抜かしているのであった。
「それは確か、放出し、収斂された魔力に詠唱の情報を刻み込んでいるんでしたよね?
今現在使用されている魔法も、膨大な情報を魔力に刻まなければ発動しません。ですから、魔力に魔法の情報を全て刻み込んでしまえば、詠唱の必要はない。
で、合ってますよね?」
「うん、合っとるよ。ただ、その方法は魔力と所要時間の面で無駄が多い。一言二言で発動し、尚且つ魔力消費を抑えるんは、戦闘用に洗練されてきた既存の魔法が一番や」
「そうですね。
しかし、魔法の戦闘利用ではなく、生活利用を考えれば、必ずしもそれが最適だとは限りません」
「そうね。戦闘で使える程の魔力出力がなくても、生活に使える魔法があれば便利よね」
そう、それが今僕らの話し合っている議題。
『魔法の低出力利用』について、僕らは話し合っていた。
まぁ、魔法の適正が全く無い人もいるから、そこまで劇的な変化はないだろうけど。
でも、学校の生徒の中にも、魔法の適正があって、魔力も十分にあるのに、魔法出力が足りずに魔法が使えない子もいると思うのだ。
その場合、例え戦闘利用ができなくても、魔法が使えれば便利だし、一般に広まれば生活にも役立つ。
これはそういう話なのだ。
「となると、発動に必要な魔力を抑えるには、『詠唱』を代用する魔方陣が必要になりますね」
「いや、それだけじゃないな。他にも魔力に魔方陣の情報を刻み込む行程が必要になります」
「そんなんマジックアイテム買うのと何が違うん?」
そう。マジックアイテムは巨大で、高価な物がほとんど。そうなると、世間一般の人々には手の出しにくいものとなる。それでは本末転倒だ。
さらに、ゴンちゃんが言ったように、その場合マジックアイテムを使用するのとは違い、自分の放出した魔力に魔方陣の情報を刻み付けなければならない。そうなれば結局、そのための魔力が必要となる。これもまた本末転倒。
故に―――
「―――ちょい待ち。
ああ、そっか。そかそか、成る程。つまりキアス君が言いたいんは、全く逆なんやね?」
「はい」
流石にサージュさんは察しがいい。
「一般人でも使えるよう、詠唱を破棄するんやのうて、むしろ完全に詠唱を行うんが、魔力出力を抑える面では最適なんか。
成る程、これはおもろい研究テーマやな」
「あの、師匠?
意味がわからないんだけど?」
サージュさんがしきりに頷く傍らで、少し困ったように眉を寄せるイルちゃんさん。
「つまりやな。既存の魔法は大なり小なり魔力に、魔力で情報を刻まんと発動せぇへん。ウチらは魔力に情報を刻むんは、魔力でしかでけんと思うとったからや」
「それはそうですよ。魔力はそのままでは魔法になりません。そこにイメージとして情報を刻んで初めて魔力は魔法になるんですから」
「そうですね。魔力には魔力でしか干渉できず、それに情報を刻み込むには、自分の内から発した魔力でしかできません。
体外の魔力を利用する研究もありましたが、成功例は聞いたことがありませんね」
「ええ。人が魔力に干渉して魔法を発現する。それは、自分の身の内から出た魔力にしか干渉できない。例外は精霊魔法くらいだけど、それも元となるのは自分の魔力だしね」
最短化された詠唱を使う『魔法使い』にとって、それは自明の理だった。ただし―――
「ほな、何で『詠唱』を口ですんのん?」
そう。それなのだ。
全てを魔力で代行するわけじゃない。一言二言の口で行う『詠唱』が、現時点での最短の発動法だと言うなら、それはつまり、言葉として発する『詠唱』もまた、魔力に情報を刻み込む事が出来るという証明だ。
それを応用すれば、『詠唱』は口だけで行い、魔法発現のために必要な魔力は、最小限で済むのではないか。
魔法の全口頭詠唱が可能になれば、僕にだって属性魔法が使えるかもしれない。
これはそういう話なのだ。




