僕の嫌いな、不幸と不条理っ!?
「クソッ!!」
すぐにスマホを取り出し、街への入り口をロックする。しかし、その前に2人が内部に入ってしまった。
だが、まだだ。2人ならばまだ排除は容易い。
『マスター、まずはダンジョン内のマジックアイテムの発動を停止しましょう!!』
「そ、そうだな!あれを使われたら―――」
言い終わらぬ内に、扉が開かない事に気付いた奴等が光に包まれ、大階段の踊り場から忽然と消えてしまった。
対処する前に、腕輪で転移したか!?
腕輪の転送先はソドムの街。しかもこのマジックアイテムは、ダンジョン内でしか使えないという欠点はあるものの、れっきとした転移のマジックアイテム。しかもかなり安価で手に入れる事ができる。
そしてあの大階段は既に、ダンジョンの一部である。
「クソッ、軍隊で来れば余裕で対処できたのにっ!」
『もっとスムーズに街をロックできるよう、マニュアルを作っておくべきでしたね』
「ああ………っ!」
だが、
街へ入ったところで、出入り口は既にロックした。マジックアイテムの使用も封じた。
これでもう、住人を連れ出すことはできない。『非殺傷結界』があるかぎり、街で狼藉を働く事はできなくなる。
「ウェパル!!」
懐から取り出したイヤリングで、怒鳴り付けるように大声でウェパルの名を呼ぶ。
彼女は今、ソドムにいる。今一番危険なのはウェパルだ。
『は、はいぃぃぃ!どどどどどどうしたんです?』
「侵入者だ!!
今ソドムだな?すぐに逃げろ!お前のマジックアイテムなら使えるから!」
『ぇ?ぁ?ぇえ?』
「悪いが、今は混乱させてやれる時間もない。早く戻ってこい!これは命令だ。いいな!?」
『ぁ、は、はいっ!』
「よし、レライエ!!」
今度はレライエのイヤリングを取り出し、彼女を呼び出す。レライエは今、僕と同じくゴモラにいるだろうが、探している時間が惜しい。
『いかがなさいました?』
こちらの緊迫感を察し、真剣な声音を返してくれるレライエ。一々細かい説明をしなくていいのは助かる。
「問題が起きた。僕は現場に出る。ソドムの住人に、家や宿の外にでないよう警告しろ。それとソドムとダンジョンに、現在マジックアイテムが使えなくなっている事を通達してくれ。
以上、質問は?」
『地下迷宮へはいかがなさいますか?』
「地下迷宮には魔族も入っている。逆にあそこに入ってる人間はシュタール達だけだ。通達する必要はない。魔大陸側のダンジョンにも通達する必要はない」
『了解』
「他には?」
『特に』
「では任せた!」
『御意』
そう言うと、僕はソドムの街へと転移した。
ソドムの街の広場に到着した。
見える景色には、別段いつもと違った様子はない。
行き交う人々と、商店の活気。白い壁と、白い天井、白い街。
だが今、この街には異物が混ざっている。
僕は駆ける。
できるだけ速く、この街の入り口へと駆ける。
クソッ、いったい何が起こってるっていうんだっ!?
今さらのように考える。
24人の勇者?
住人の粛正?
わけがわからない事の連続だっ!!
なぜかいきなりダース単位で増えた勇者に、魔王ではなく人間の命を狙うという宣言。
なぜ人間が人間を狙う?
考えられるのは、あいつら全部頭がおかしいか、『教義』に反したか。
つまり奴等が、アヴィ教の狂信者である可能性。
だが、勇者というのはどうなる?
あれは『魔王』と同じように、『勇者』という種族なのだ。
魔王が魔王であり、魔族というカテゴリから逸脱した存在であるように、勇者は勇者であり、人間を超越した存在だ。
単なる称号や、名声で得られるものではない。
それくらい特別で、特異な存在が『魔王』であり、『勇者』なのだ。
ならばどうなる?
元々真大陸には、これくらい勇者がいた?
馬鹿な。
それならば、なぜ今まで全く僕の耳にその情報が入ってこない?
いや、そもそも勇者が5人いるという事すら知らなかった僕が言うのもなんだが、それでも今はあの時とは状況が違う。
いくらなんでも、全く知らないってのはおかしい。
―――いや、そういえば―――
唐突に、轟音が響いた。この街にあって、ありえない轟音。
爆音。
続けて響き渡る悲鳴と、困惑の怒号。
爆音を聞いて逃げ惑う通行人達。悲鳴もあちこちから聞こえる。
遠くに煙が上がっているのが見える。
………まさか。
いや、まだ大丈夫。『非殺傷結界』があっても、魔法が使えなくなるわけではない。魔法が使えても、誰も傷つけられないというだけだ。建物にも、ヒビ一つ入らないはず。
大丈夫。まだ、大丈夫。きっと、大丈夫。
大丈夫だから―――
『マスター、住民に死傷者が出ました………』




