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 蛇足。

 話は変わるが、とはいえ今まで何の話をしていたか定かではないのだが、とりあえず話は変わる。


 蛇の話だ。


 蛇。

 蛇、ヘビ、へび。

 蛇蛇蛇蛇蛇蛇鉈蛇蛇蛇蛇蛇蛇蛇蛇蛇蛇蛇鉈鉈蛇蛇蛇蛇鉈蛇蛇蛇。


 さて、鉈は何個入っていたかな?


 不思議な生き物である。

 本当に不思議な生き物である。


 陸上生物でありながら、腕も、足も、前足も、後ろ足も、翼も無い。いや、もっと言えば尾びれ、背びれ、胸びれすらない、ただの頭と胴体しかない生き物。


 ありとあらゆる意味で不合理だ。


 海中の生物だった、我らの遠い遠いご先祖様は、陸上で生活するためにヒレは足に進化した。………らしい。

 しかしどうだ?

 陸上生活に要らないからという理由で、それを取っ払ってしまったという生き物が他にいるだろうか?

 いや、残念ながら蛇に関する進化の過程を語れるほど、僕の爬虫類に関する造詣は深くない。だが、それでも元人間として、やはり不可解な生き物だと思う。


 奴等は狩りにおいてすら両腕、両足を必要としない。毒と牙だけで丸呑みだ。


 不合理で、不可解だ。

 だってあった方が便利だろう?這うより歩いた方が、噛むより引っ掻いた方が楽だろう?わざわざ弱点丸出しの頭部を、敵に近付けて攻撃するのは、生物としてありふれていても、それ以外の攻撃手段を捨ててしまうというのは………いや、非合理的という程稀有な行動ではないか。同じ爬虫類や、魚類ではよく見られる攻撃手段か。

 そう考えると、人間からすれば非合理的なのは肉食獣全般となる。兜もないのに、よくそんな特攻みたいな真似ができるものだ。なぜ角という武器を持っているのが、ほとんど草食動物だけなのだろうか?


 しかし、ここでは余計な生き物の話はいい。蛇の話だ。やはり前足という武器、後ろ足という前進装置をわざわざ排除する意味がわからない。

 蛇以外の爬虫類がそうであるように足があって困る事、というのは想定しがたい。


 人間にとって、蛇という頭と胴体しかない、非合理で不合理で不可解な生き物はやはり異質だ。


 だからこそ数々の神話、ありとあらゆる伝説に登場する蛇。


 悪魔として、天使として、神獣として、怪獣として蛇という生き物は現れる。善性として、悪性として、現れる。


 アダムとイヴを誑かしたのは蛇だった。白蛇は幸運の象徴だ。メドゥーサは英雄に首を落とされた怪物であり、元は人々に崇拝された女神だったとも言われている。龍は蛇の姿を踏襲した姿であり、西洋では悪性、東洋では神聖の象徴だ。

 僕の知り合いにもいるエキドナとラミアも、蛇の姿を持つ怪物だ。いや、蛇の要素を持つ怪物など枚挙にいとまがない。創作の世界には、蛇の要素を持つものは多いのだ。多すぎる程に多すぎる。

 目。舌。毒。熱センサー。

 そもそも特徴がないことが特徴である蛇の、数少ない特徴を余す事なく活用される。


 古代の地球の覇者であった恐竜よりも、明らかに畏怖を集める蛇。




 どうだろう?

 ここまで言を尽くして語れば、今まで認識していなかったとしても、蛇という生き物に異質さを感じるのではないだろうか?


 異質。異常。異端。


 もし明日から蛇が人語を話し始めたとしても、人間は蛇と友好を結ぶ事は不可能ではないだろうか?


 いや、そんな前提を置くまでもなく、人間は基本的に排他的だ。


 蛇でなくても、宇宙人でも、地底人でも、白人、黒人、黄色人種、言語、文化、国籍、性別、年齢、学力、所属、なんとなく。




 ありとあらゆる理由で、他者を排除するのが人間だ。


 だからこの場合、それは関係ない。人間なんて関係ない。これはただの蛇の話だ。そんな、異質で異常で異端な蛇の話だ。


 蛇という存在。


 それは本当に、人間にとって異質な存在だ。それを見て美しいと、恐ろしいと、畏れ多いと思わせる存在だ。


 神聖で、邪悪で、力強くて、気持ち悪くて、捕食者で、強者でありながら、臆病で、毒で、薬で、蛙を脅して、足が生えたら無駄で、藪をつついたら出てきて、神様になったり、悪魔になったり、天使になったり、怪物になったり、無限の象徴で、不死の象徴で、恐怖の対象で、畏敬の対象で、




 孤独な存在だ。




 怖いほどに孤独だ。

 泣きたくなる程に孤独だ。



 なぜ神は、蛇をあんな存在として創ったのだろうか?


 どんな生き物とも違う、あんな存在として生み出された蛇。


 例え恐れられようと、敬われようと、奉られようと、そんな存在として生きていくのは寂しいじゃないか。悲しいじゃないか。


 勿論、蛇に自我など目覚めるわけもなく、こんな考えは単なる意味のない感傷なのだろうけれど、それでもやっぱり思うのだ。


 違う事はいい。

 違いすぎる事が、よくない。


 とてもよくない。

 だからきっと、蛇は足がほしいのだ。ごく普通の蜥蜴として、他の蜥蜴の1人として。


 でもそれはきっと不可能で、蛇はずっと蛇のまま。孤独なまま。寂しいまま。悲しいまま。

 生きていかなければならない。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。





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