表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
324/488

 下らない戦争の始まりかた

 「北側各国の動きはどうなっておる?」


 「はっ、未だ主な動きはありませんが、例の部隊の工作の情報は広まりつつあります」


 「うむ。

 ならば国境付近に兵が集まるのも時間の問題だな」


 「はっ。恐らくはそうなるでしょう。それ以外に対処のしようがございませんから」


 「うむ。

 第1殲滅目標はどうなっておる?」


 「なにぶん所在の掴めない者も多いゆえ、捗ってはおりません。

 所在がわかるのは2名のみですが、いかがなさいますか?」


 「ふむ。少ないな………。しかし内1人はそもそも神出鬼没である上、半分を討ち取れると思えば………。

 うむ、構わぬ、作戦を実行せよ」


 「ははっ」


 私は深く頭を下げると、床に着けていた膝を持ち上げ、その部屋を退出した。


 ふふん。


 下らない。全く下らない。

 人間ってのは本当に、どいつもこいつも下らない。


 今の男もそうだ。

 教皇だかなんだか知らないが、真大陸でトップクラスの地位につき、おまけに真大陸最大宗教の紛れもないトップでありながら、考えている事は俗物そのもの。


 要は、唯一無二のトップに就きたいのだ。


 他人の事などまるで考えていない。


 北側の国々との対立を煽り、おまけに境界となる国の国境付近を荒らしてまわる。当然、その国はある程度戦力を国境に集ざるを得ない。その戦力への対抗措置として南側勢力の国が軍を動かし、強い警戒体制を敷けば、緊張状態を作り上げることかできる。


 後はどう転ばせようと自由自在。先に相手が点火するもよし。そうでなければ自分たちから火を付けるまで。


 一気に戦争へと雪崩れ込める。


 真大陸には未曾有の大戦乱が巻き起こるだろう。




 「トロワ、次の仕事は?」


 廊下を歩いていると、キャトルが歩み寄ってきて声をかけてきた。鬱陶しい。


 「………第一目標の、………殲滅」


 「ふむ。我々はどちらだ?」


 そんな事は知らない。

 たぶんあの教皇も、そんな細かい事は考えていないだろう。そういうのは、あのおっさんの部下、枢機卿あたりが考える事だ。それがあのおっさんにとっての、当たり前なのだ。


 「成る程。まぁいい。

 アンとドゥーも喜びそうな案件だ。その分手間も少なくて助かる」


 フン。どうせ俗物ならば、あれくらい腐りきってしまっている方がましだというのに。

 私達は、教会を出て大通りへと足を向ける。

 そこで一度振り返り、天高く聳える大聖堂を見上げる。


 真っ白な尖塔が、キラキラと太陽を反射して実に美しい佇まいだ。しかしその実、この中身は腐っている。

 ドロドロの汚泥のように腐りきった人の心の臭いが蔓延し、その腐臭がさらなる腐敗を招く。

 ここだけじゃない。

 国なんて、組織なんて、人なんて、おしなべてそんなもんだ。


 下らない。あーあ、全く下らない。







 「おっせーんだよ、クソキャトルにクソトロワ!俺様の為に流れてる貴重な時間を、一体テメェらは何の権限があって浪費してくれてんだ、コラ?」


 「アハハハ。ドゥーはぜーんぜん待ってなぁい。なんなら帰ってこなくてもいいよぉ」


 高級と言って何の差し障りもない宿の一室は、そんな肩書きに反逆するような酷い有り様だった。

 壁の至る所は壊れているし、ベッドからは綿と羽毛が溢れていて、床にはそれ等に加えて食べ残した食事の残骸が散見していた。


 「お前らには綺麗な環境で生活したい、という欲求は存在しないのか………?」


 キャトルが呆れたように言い、肩をすくめてため息を吐く。


 「うっせーんだよ、クソボケキャトル!!

 お前が遅いから部屋がこんなに汚れたんだ!つまりこれはお前のせいだ!」


 「キャハハハ!!そーだそーだ!」


 「お前らにまともな感覚があると期待した、俺が馬鹿だった………。トロワも何か言ってやれ」


 「………………」


 別に何もない。特に興味もない。

 この部屋で寝たからとて、別に死ぬわけではない。

 それにどうせ、事態の収拾は教会がつける。私には全く関係ない。


 「………………」


 「はぁ………、やはり俺が馬鹿だった」


 「やーい、バァーカ、バーカ」


 「うふふふ。バーカ、バーカ」


 調子に乗った馬鹿2人を無視して、キャトルは事のあらましを説明した。付き合ってたら、貴重な時間とやらはいくらあっても足りない。


 「―――そういう事だ。

 恐らく明日には正式な命令が出る。今の内に出発の準備をしておけ」


 「そうか。なら準備をしておけ。お前がな!

 ギャハハハハハ!!」


 「アッハッハ!

 アン、おもしろー!」


 あー、なんか無性にこの2人を殺したい。面倒くさい。

 作戦の内容からして、ゴネられる事はないと楽観していたが、極まったテンションが心底鬱陶しい。


 「あ、そーいえばアレどうなったんだよ、キャトル?」


 早速自分の使うスペースを片付けながら、出発の準備を始めるキャトルに、アンが要領を得ない問いを投げ掛けた。


 「アレとは何の事だ?」


 「はぁ!?魔王の町に向かった連中の事に決まってんだろうが、この無能!

 あれから全く話を聞かねーぞ?」


 「俺が無能なら、お前は無脳だ。

 魔王の町には、全域に『非殺傷結界』が張られているらしくてな、破壊工作が出来なかったそうだ」


 「うわーっ、しょっぺー!!それですごすご帰ってきたのかよ?」


 「いや、『奥義』の使える兄弟を呼び寄せた、という話しだ」


 「だから最初から俺様達を呼べば良かったんだよ!!『奥義』なら、ドゥーやトロワが使えんだろが!!」


 「俺に言われても知らん。文句があるなら、教会に言え。粛正なら俺が請け負ってやる」


 「ケッ。あーあー、つっまんねーなぁ!」


 自分の周りだけそれなりに片付けて、大方の準備も終えたキャトルが、片膝を立てて絨毯の上へと腰を下ろした。

 この絨毯も、恐らくは庶民の生涯賃金を遥かに上回る価値がある物だろうが、二度と客前に出されることはないだろう。そこら中ベタベタで、正直触りたくもない。


 「そんな事より、今日は早く休めよ。もし明日命令が出れば、その足で行くんだからな?」


 「ん?おぉ、そうか!!そうだったそうだった!!

 次の任務はマジで面白そうなんだよな!な?なっ?」


 「むふふー。

 どぉかなぁ。現在の実力がどんくらいか、わっかんないしねぇー」


 フン。やはりこいつらは鬱陶しい。はっきり言って嫌いだ。殺したい。


 だが、もっともっと世界を醜く塗りつぶすには、こんなクズ共がいた方が都合が良い。


 私は部屋の片隅に立ったまま、目を閉じる。横になる気もしないので、今日はこのまま寝てしまおう。


 そう思って意識を手放そうとしていた私の耳に、最後に馬鹿の声が聞こえた。




 「明日は、役立たずの似非勇者をぶっ殺すぜ!!」


 「風の勇者と火の勇者、どっちが当たるかなぁー」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ