カーニバルナイト。楽しい戦争の始めかたっ!?
(約3名以外)少し緩んでしまった空気に、僕はため息を吐く。
魔大陸の住人はこういうところがホント、大雑把だよな。
これから戦争するってのに、オールもアベイユさんも楽しそうに酒や飯をかっ食らってるし、タイルとエレファンは何事も無かったかのように談笑してる。エキドナさんも、いつものダウナーで無口な物憂げ美人に戻っちゃってる。まぁ、3バカは緊張して直立してるけど、それは『宴』が始まる前からそうだし。
ホント、軽い奴等だ。
元人間の感覚としては、これから戦でお互いに血で血を洗い、肉で肉を裂き、骨で骨を折るような争いを繰り広げるってのに、こんな和気藹々としているのは、やっぱり異様に感じる。
もっとこう………、プロパガンダ的な?戦う理由だとか、ないしは相手の悪性を説いて、相対的に自らを正義だと言い張る舌戦を繰り広げる方が、まだしも馴染み深い気がしなくもない。
とはいえ、もし本当にこの場でそんな醜く下らないやり取りをこの人たちが始めたら、正直失望する。
あぁ、ちゃっかり僕も魔王だったということか。
しかしそれでも、アベイユさんもエキドナさんもちょっと呑気すぎやしないか?
僕が空中都市を使えば、3時間後には彼らの領地に攻め込めるというのに。
まぁ、やらないけどね。
僕の動かせる兵力は、この中で一番少ない。ここにいる魔王の中で、僕は僕個人としても、軍勢込みでも最弱なのである。
そこはやはり、昔から領地を持っていた魔王に一日の長があるのだが、兵個々人の実力もまた、ウチの治安維持部隊は最弱だ。
そもそもがコションの支配地域から流入した兵士をそのまま流用したわけだが、他にも志願してきた者もいるので未だ烏合の衆の域を出ないのである。
訓練や統率にも粗があるし、何よりコションの兵はあまり物を考えない荒くれ者に毛が生えた程度なのだ。
マジックアイテムも、スマホで造る物はあまり戦闘に使えるものはないし、勉強して作れるようになった普通のマジックアイテムも、戦闘転用できるものは巨大になりがちだ。
一応、僕もいくつか戦闘用のマジックアイテムや隠し玉を用意はしているが、それがどこまで通用することやら………。
「なんじゃ?
キアス、酒が進んでおらんぞ?」
「僕は酒を飲まん。前に言っただろうが。
ちょっとこれからの事について考えていたんだよ」
「カカカカ!!
今からそんな事では、戦が始まる前に参ってしまうぞ?今はただ、残り少ない『宴』を楽しめ!」
「………楽しそうだな?」
ケラケラと笑い、酒杯を干しているオールを白い目で見やる。
本当に、こいつは楽しそうに笑っている。幾人かの旧知と敵対し、これから相争うというのに、それに全く痛痒を感じないのだろうか?
「何を言う?久方ぶりに『宴』らしい『宴』が開かれたのだぞ?
これが楽しくないわけがない。
始まる前は、またもクルーンの下らない演説を聞くだけかと思っておったからな。他者の喋る他者の陰口ほど、聞くに耐えないものはない」
「あー………、それは確かに」
一度そのシュチュエーションを思い浮かべて、僕も納得する。
僕がこの『逢魔が宴』にあまり乗り気でなかったのも、それが原因と言える。前の『逢魔が宴』は、正にそんな感じだったしね。
「故に、昔ながらの『宴』の様相を呈しておる此度は、実に面白い。
アベイユとは昔一度だけ相対した事はあるが、既に幾百年も前のこと。あの時ですら、中々に面白き一騎討ちができたのじゃ。今はいかほどのものか………。実に胸が踊るのう!!」
「うへぇ………、アベイユさんって昔からそんな強かったのか………。
僕なんかじゃ、到底太刀打ちできないな」
「あれは生粋の武人だからのう、戦がなければ生きていけぬ男じゃ」
「そんなアベイユさんが世紀単位で溜め込んだフラストレーションを、今回の戦で爆発させるつもりなのか………。
やっぱり僕はお門違いだよなぁ、今回」
「ふむ………。まぁ、我も貴様の軍について、些かくらいは聞き及んでおる。今回は後方支援に徹するのが得策であろうな」
まぁ、それしかできないし、それならば僕は真・魔両大陸で一番上手く出来る自負はある。
早く、多く、ピンポイントな物資の運搬で、僕に敵う相手はいない。
………まぁ、あまりパッとしないように聞こえるかもしれないけど、これって結構すごい事なんだよ?
兵站ってのはどんな時代でも軍を縛る鎖のようなもので、補給の遅れた軍はそれだけで著しく士気が落ちるし、どんな強者も食料がなくなれば戦えない。
よく言うだろう?
『腹が減っては戦はできぬ』
つまりはそういう事だ。
………やっぱりパッとしない立場だけれどね。
「ま、今回の戦では、飯の心配だけはしなくていいぞ」
「カカカカカカカカッ!!
そんな戦が出来るだけで、既に貴様の力は巨大な戦力じゃの!!」
じゃ、僕の軍は総輜重隊って事で。
そんな風に、僕も他の魔王に混じって気軽に食事をしていたのだが、いい加減お腹も膨れてきて、そろそろお暇しようかと考えていたら、てくてくとタイルが前に出て来た。
会場の真ん中に立ったタイルは、それに気付いて注目している魔王全員の顔を見回すと、コホンと小さく咳払いして話し始めた。
「じゃあとりあえず、この場は中立のボクが適任のようだから、仕切らせてもらうね?」
まぁ、皆あまりそういうの気にしないけどな。
「お互いに敵味方様々な立場ではあるけれど、今日この時をもってキミたちは戦争を始める。
卑怯卑劣なんでもござれのルール無用。勝った者がルールであり、負けた者が従うだけ。
目的は知らない。原因にも興味はない。もっと言えば趨勢にだって微塵の関心もない。
魔大陸の掟は、力。
各々存分に力を発揮し、出来得る限りの手を尽くし、死力を振り絞って戦ってもらいたい!!
武運を祈る!!」
こうして、現存するほぼ全ての魔王の関わる『魔大陸大戦』は始まったのである。
「じゃあキアス君、お腹一杯になったしお風呂入りたいな。ね?」
「ん。キアス、お風呂」
お前………、だからわざわざ閉幕を告げる役割を買って出たのか。
締まらねぇ………。




