商人の商人による商人のためのっ!?
冒険者には、普通は依頼人が存在する。依頼を請け、その依頼をこなすのが本来の仕事だ。
この街の冒険者とて、それは例外ではない。この街に最初に入ってきたのも、商人達に護衛を依頼された冒険者だった。口コミで集まり始めた、誰の依頼も請けていない冒険者も最近は増えてきていて、そんな連中の中に件のならず者もいるわけだ。
さて、ソドムの街の特産品といえば、僕の造ったマジックアイテムなわけだが、それは信頼の迷宮を越えなければほとんど手に入らない。実力の無い者は、その信頼の迷宮ですら手こずり、攻略に時間がかかる。問題は、信頼の迷宮ではほとんど値崩れした玩具しか手に入らない事だ。
冒険者はその間収入を得られず、身銭を切る他無い。北の果てのこの地には、他に主だった依頼もない。冒険者は糊口をしのぐ必然に迫られる。
そんなおり、商人からの街の警備依頼が出ればどうだろうか。初心者に向けたいいアルバイト先になるのではないか。
おまけに、それぞれの商人が抱える熟練冒険者との繋がりもでき、冒険者全体の実力向上にも繋がれば………いいなぁ………。
冒険者により冒険者を取り締まる。
これが僕の提案だ。
冒険者は依頼に誠実だ。依頼を蔑ろにした冒険者の名は、燎原の火のごとく広まる。長い旅路で貨物と自らの命を守る為に供をする者に対し、商人は最大限の注意を払う。故にこそ、冒険者達は一度請けた依頼をある程度は遵守しようとする。
「成る程………。冒険者同士であれば、無闇に無体を働くわけにはいきませんな」
「冒険者間の評判や信頼もあるでしょうし、何より商人からの護衛依頼がなくなれば、冒険者の大多数は首が回らなくなる」
「誰だって、評判の悪い護衛より、評判のいい護衛を雇いたいですからな」
そういうことだ。まぁ、今は気休め程度にしかならなくても、冒険者組合ができれば罰則を与えることもできるしな。
ただ、それはあくまで罰則であって刑罰ではない。それを与えるのはやはり、この街の責任者である僕に他ならない。
「参考までに、僕の提示する依頼の報酬は、日中の見回りは半銀貨1枚。夜間は半銀貨1枚と銅貨25枚にしようと考えています。
依頼の難易度に対して少々高額な気もしますが、初心者冒険者に恩を売っておけば、彼らが成長した後に色々と助かりますので」
「む………。確かに………」
「商品を優先的に回してくれるやもしれませんな」
「日雇いなのは、冒険者にダンジョンの攻略をしてもらう時間が必要だからでもあります」
あと、専属の戦力として見られないため。実際、入れ替わりが激しくなるだろうね。
「しかし、競って依頼料ばかりが高騰してもつまらん。ここは皆、一律でその値段にせんか?」
んーっと、この商人も見ない顔だな。新参か。
だけど、こんな提案をしてくるあたり、商才の方は期待できないな。
僕の提示した金額は、日雇いにしては高額だ。だけど、それはつまり商人に一定以上の資本力がなければ多くの冒険者は雇えないということ。いくらなんでも、全員にそれを課すのは酷ってもんだ。
ま、この値段はそれだけが理由じゃないんだけど………。
「ちょっと待ってくれ!我々はそんな高給で冒険者を雇い続ける事など不可能だ。他の従業員の給与もあるのだし、一律は不可能だ!」
案の定、反対する者も出る。金を惜しみたい商人や、他の小規模な商会もそれに賛同して声をあげた。中には、僕が原因であるかのように非難がましい目を向けてくる者までいる。別に僕が一律にしようと言い出したわけじゃないのに。
「僕も一律この値段にするのは厳しいと思いますよ。ですから、我等のザチャーミン商会やいくつかの商会はこの値段で雇い、他の者の値段設定には頓着しない、という事でいかがですか?あくまで自警団ですから」
お、セン君ナイスパス。そしてその物言い、僕のやりたい事がわかってるようだね。
「我が商会はその値で構わん」
「ウチもだ」
ある程度の力を持った商人は、なに食わぬ顔でこの話に乗ってくる。
「俺は商会ではなく商店主だが、その話には商会でなくとも噛めるのか?」
「勿論です。やはり、それなりに大きな組織にしなければ厳しいですから」
うん、セン君はやっぱり末恐ろしいな。
この自警団は、この街の治安を任されるわけだから、つまりそれを組織する商人はそれなりの発言権を得る。そんな商人達が寄り集まれば、それは組織となる。街の運営を左右する商人達の組織。治安を守る組織。それは、この街の法を決める組織と言っても過言ではない。
無論、自分達に都合よく法を作られかねないという危険はあるが、組織に組み込まれる商人は多く、全員が満遍なく儲ける法を作る必要がある。さらに、悪法を作ろうとしても、僕はそんな強権を認めていないし、住民や冒険者に反発されれば組織どころか所属する全商人にとってもマイナスだ。ここで手を挙げた商人でそれがわからない愚か者は、少数だと信じたいな。そんな事にならないよう、僕も含め、商人は気を張ってほしいものだ。
これは、商人が商人を監視するための組織でもあるのだから。
「商業組合とは別の、商人達を取りまとめる組織なんて、考えましたねキアスさん」
セン君が、ややうるさくなった会議室の喧騒に紛れるように、僕に耳打ちしてくる。
「いい加減、この連絡会も大所帯になったからね。一々新参者にこの街のいろはを教えるのも疲れる………」
「ふふ。確かに。………でも、それだけじゃないんでしょう?」
末恐ろしいってか、既に恐いな君は。
「………まぁね」




