商人たるもの、初期投資は惜しまずにっ!?
「商区77の辺りに最近、不逞の冒険者が居座り始めましたね」
「おおっ、それよ。儂もそれを今回の議題にしたかったのだ」
「商区22と商区13にも同じような輩が………」
「冒険者が増えて仕入れが楽になるのはいいが、やはりこういう問題は出てくるよなぁ………」
「冒険者組合の進出も近いですが、それまで放置するのもアレですしねぇ………」
集まっているのは、僕も含めたソドムの商人達と、ナモさんと彼女が連れてきた数人の商業組合の職員たち。
ここは将来商業組合の出店予定地の建物であり、今いるのはそこの会議室である。これは、定期的に開かれるソドムの商人達による連絡会だ。
「今までは魔王のお膝元という事で保たれていた治安が、ここにきてその危機意識が薄れつつあるせいで悪くなってきています」
要は荒くれ者の冒険者を集める内に、その荒くれ者からもあぶれてしまったならず者が、街の一角にたむろしはじめたのだ。
そういった者は、例外はあるにしてもほとんどガラの悪い連中で、さらに言えば気長にダンジョン攻略もできない奴等だったりもする。
「魔王は良くも悪くも、この街に無頓着ですからな」
「介入されたらされたで困ってしまいますがね」
「そりゃあそうですな。一応店を出す時にお金は要求されましたが、それ以外は税金もかからないのですから、商人としては住みやすかったのですが………」
そう。だがしかし、税金を取らないということは、まともな治安維持組織を運営できないという事でもある。
「そのしっぺ返しが治安の悪化ですか………。まぁ、現段階では主だった被害はありませんが、いずれ表面化するのは確実です。最悪、死人が出ます」
僕の張った非殺傷結界にも弱点はあるしね。
「かといって、魔王に頼むわけにはいきますまい。魔族の騎士団など寄越されれば、住民が逃げてしまいます。我等も恐ろしくて商売などやっていられませんよ」
「おっと、魔族の陰口はやめておきましょう。どこに魔王の耳があるかわかりませんからな」
「あっはっはっはっ!然り然り。これは枕を高くして眠れませんな!」
聞いてますよー。
「しかし、やはり治安維持の方法は必要でしょうな。とはいえ………、それが恐ろしく面倒くさい厄介事なのも事実………。はてさてどうすべきか………」
「傭兵を雇って自警団などを結成してみては?」
1人の新参商人が口を開くと、他の商人はつまらなそうに彼を見る。彼は最近この街に来た商人だからか、この街の特性というものを理解していないようだ。
「あ、あの………」
視線の集中砲火に晒され、可哀想なくらいに萎縮する商人。あまりに哀れなので、確認の意味も込めて僕が声を出す。
「ここは魔王の街ですからね、そんな安易な行動はできません。
現行の住民達による自治制度に問題があるのはそうでしょうが、かといって外部から人間側の戦力、兵力を集めてしまうのはまおうにとって愉快な話ではないでしょう?」
非常に不愉快です。
別に自警団が悪いといっているんじゃない。僕の関知しない、信用もできない戦力がこの街に集まるのが問題なんだ。
だったら僕が自警団を組織した方がいい。傭兵の中にも、同じような不逞の輩が居ないとも限らないし、恐らくその比率は冒険者よりも高いだろう。
とはいえ、現状僕の動かせる人材で自警団なんて作れないんだけどね。
「そこまでの不行状、魔王がどう思うか………」
「管理する人間も問題ですな。その者の胸三寸で、せっかくの『金の成る木』を燃やされかねない状況は、我々にとっても面白い話ではありません」
「キアス殿はどう思われますかな?」
割と古参の商人が僕に水を向ける。まぁ、この街で僕は最古参の商人と言っていいからな。というか、僕の造った街だが。
「自警団は必要でしょう。しかし、それを我々が用意するのはよろしくない。かといって、魔王に用意されるのもたまらない。
さりとて、冒険者組合が出店したとて彼らに出来るのは取り締まりではなく、罰則を与えるだけ。抑止力としてはいささか弱い。
恒久的に機能する『自警機構』が必要でしょうな」
僕がそう言うと、何人かの商人は何度か頷いている。だがほとんどの商人は、ただ事実を整理しただけの僕の弁論から興味を無くしたように視線を外した。そして、さらに限られた商人達は殊更僕に期待の眼差しを向けている。彼等は商売上、幾度か協力した事のある商人だった。
「ただ」
僕が冷えかけていた場の空気を断ち切るように声を発すると、その商人達は悪そうな笑みで他の商人を見やった。
「この街には魔王の許容した、それなりの戦力がいるじゃあありませんか。
我々がそれぞれ彼らを雇用し、彼らに不逞の輩を取り締まってもらえばいい。お金はかかりますが、窃盗や強盗が蔓延るくらいならば、安いものです。
何より、無粋な兵力を雇うくらいならば、そちらの方が断然安上がりだ」
この街の非殺傷結界は、内部で生物に危害を加える事ができない。しかしそれは、街の外になんらかの方法で連れ出されてしまえば、当然効果がない。無理矢理拉致するのは困難でも、身動きのとれないように拘束した相手を引っ張って外に出す、という方法もある。喧嘩をするために、わざわざ街の外まで出ていった、なんて話も少なくはない。非殺傷結界にも、弱点はあるのだ。
「一括で雇うのではなく、それぞれが雇うことでその戦力の悪用を防げます。誰かが勝手な思惑で無茶をしようとすれば、他の商人達がそれを防ぐでしょう」
お互いに監視しつつ、治安維持も行う。何より、街に雇用が生まれるのは大歓迎だ。
「し、失礼。先程の『魔王が許容している戦力』というものについて、もう少し詳しく聞いてもよろしいか?」
さっきの新参商人が、少し慌てながら挙手をして尋ねてきた。他数人もわかっていないようだが、大多数は僕が何を指して言っているのかわかっている様子だ。当然だろう。むしろ、それくらいもわからないような彼らに少し不安を覚える。彼らの商売は大丈夫なのだろうか?
「この街の戦力。それは―――」
やや呆れつつも、この提案をしているのは僕なのだから、答えてあげるべきだろう。
「―――冒険者ですよ。
冒険者に依頼をだし、街を巡回してもらいましょう」




