魔王の序列
我が名はクルーン・モハッレジュ・パリャツォス。13人の魔王の10番目に属す魔王である。
我が野望は、世界の支配。………だったのだが、とある事情により、それは断念することにした。
いや、正直に言おう。
街1つを管理するのがこれ程大変なのに、世界の全てを管理するなど不可能である!!
世界を支配する?
管理はどうする?執政は?治安維持は?税収の管理はどうするのだ?それ等を他者に任せつつ、反乱を防ぎ統治するにはどうすればいい?
わかるだろう?世界を全て支配する事など不可能なのだ。いや、仮にそんな者がいたとしよう。才に溢れ、世界の管理を完璧に行える者がいると仮定し、その者が世界を支配したと仮定しよう。
それは世界の支配者ではなく、世界の奴隷である。寝る暇もないだろう。酷使され続けるだろう。しかもその地位を他者に譲る事など不可能だろう。なぜなら他の者にそんな事はできないからだ。
かつての自分が、そのようなものを欲していたことを思い出すと、背筋には冷たい汗が流れる。
話を戻そう。
私は魔王である。
しかしながら、絶対の力などない、せいぜいが小物として扱われる魔王だ。
確かに、これまでの私は攻撃性に優れる反面、防御にかなりの瑕疵を抱えていた。しかしこの度、その問題を改善、いや、最早克服と言っていいまでに私は力を高めたのである。実力だけであれば、エキドナやアベイユにも迫るほどである。
話は変わるが、私には絶対に敵に回したくない者と、絶対に味方につけたい者、そして絶対に味方にしたくない者がいる。
絶対に敵に回したくない者は、真、魔両大陸の総意であり、言わずもがなの存在、第1魔王、エレファン・アサド・リノケロスである。
同じ魔王というカテゴリーに属していながら、あれを自分と同列の生物だと思った事はない。あれは最早、魔王などという小さな次元に収まる生物ではないのだ。
次に、真ん中を飛ばして絶対に味方にしたくない者だ。これも言わずもがなだが、第6魔王デロベ・イブリース・エラトマである。
こいつは、仲間にするくらいなら敵対していた方がマシな存在だ。実力的には私と拮抗する程度だったが、それすらもあまり信用できない。謎が多く、自称快楽主義者の破滅主義者だ。こんな奴を味方に置くくらいならば、上級の魔物でも置いていた方が被害が少ないだろう。
最後に、絶対に味方につけたい者である。それは、第13魔王アムドゥスキアスである。
これには深いわけがある。アムドゥスキアスの特徴として、アムドゥスキアス本人にはあまり力が無いのは魔王の間ではほぼ周知の事実となった。
だがキアスには、その不足を遥かに凌駕する生産能力があるのである。マジックアイテムはもちろん、ダンジョン、街、インフラ設備、武具、オリハルコンなどの超貴金属。これをたった1人で生産できる強味は、ただ戦闘能力が高いだけの他の魔王を凌駕する。
何しろ、今私が使っているこの体を造ったのもキアスなのだ。オリハルコンとミスリルで出来た体。
キアスと付き合っているとついつい忘れてしまうのだが、オリハルコンもミスリルも一欠片で莫大な価値を持つ金属だ。しかも加工が難しく、オリハルコンに至っては技術力で突出した人間やドワーフにも加工できない代物なのだ。
そんな物を加工し、人形の形にしただけでなく、その内部には体の重さを0にする魔道具まで仕込んでいる始末だ。
この体のお陰で、私の力は跳ね上がった。とはいえ、せいぜいが有象無象の魔王より頭ひとつ飛び抜けたという程度であり、迫っていても実力ではエキドナやアベイユには届いていないだろう。戦乱の時代を生き抜いた三大魔王とその2人の実力は、やはり特筆すべきものがあるのだ。
ともあれ、そんな古い話は今はいい。今は新しい時代の到来を言祝ごうではないか。それをもたらしたキアスを礼賛しよう。
生産、支援、補給、移動、守備。キアスという魔王は、本人の戦闘力は低くとも、その後方支援能力は桁外れに高いのである。正直なところ、魔王の中でも三大魔王と肩を並べるだけの者だと思っている。
大袈裟な話ではない。魔大陸では『攻撃のエレファン、防御のオール』などと言われているが、今はその言葉は正しくないと、私は思う。
事拠点防衛において、アムドゥスキアスほど特化した者はいない。私や他の魔王、実力者と言われているエキドナとアベイユ、もしかすれば三大魔王ですら、キアスの造ったダンジョンを踏破するのは不可能かもしれない。
「もうそろそろ良いのではないか?」
「っく………、い、いえ、あともう一手、御指南下さい。クルーン様」
だが、キアスの一番の武器とはそういったものではないのかもしれない。
息も絶え絶えのオーガ、パイモンは再び2本の棍棒を構える。
「『様』はよせ。貴様は私の配下ではないし、キアスとの関係では貴様の方が上位に属す」
「いえ、魔王様は、魔王様です」
ふふふ。そういえば、キアスの仲間で純粋な魔族はこの者と、裏切った第4魔王の娘だけか。魔族に魔王をぞんざいに扱え、というのはいささか無体な要求だったかも知れないな。
パイモン。フルフル。マルコシアス。ムルムル。この4人は、他の魔王に仕えていたとしてもトップクラスの実力を持つだろう。
この稽古も、新たな体を持っていなければ、私の実力はパイモンと拮抗していた。
人材を集める力、この私を含めて他者を集めるその力は、キアスの一番の強味と言っていいかもしれない。
まったくもって、アムドゥスキアスとは、今までの魔王と違う存在なのである。
いみじくも、エレファンの評価と表現が被ってしまったが、私個人の評価では両者はベクトルは違えど同じような者だと思っている。
敵に回したくない者の2番目は、三大魔王を飛ばしてキアスなのだから。
はてさて、なぜ私がパイモンとの稽古中にも関わらず、こんな事を考えていたのかと言えば、キアスを敵に回すという愚にもつかない行動をとった、例の一番味方にしたくない者が動き出したからである。
第6魔王、デロベ。叶うならば、この機会にこの手で奴を亡き者にしたいと思いながら、私はパイモンの稽古に付き合うのだった。