下らない話と、下らない解決っ!?
スッゲー!!
こんなに人がいる光景、初めて見た。現代日本ではこれ以上の規模の祭りもあったのかもしれないが、そんなものは記憶にない。そして、これが生まれて初めて体験する祭りには違いがないのだ。
「陛下、お願いですから騒がないで下さいね」
「わかってるさ、ガナッシュ大公。それに心配もない。大公だってこの姿の僕を、魔王だなんて思わなかっただろう?不意に誰かに見られたら、愛人のフリでもしておけばいい」
「儂の評判が落ちます………。地に落ちるどころか、地中に潜ります」
だろうねー、祭りに来ておきながら昼日中から愛人を迎賓館に連れ込んでるんだもん。
僕は今、アムハムラ王国の迎賓館、そこでガナッシュ大公に宛がわれた部屋にお邪魔していた。
理由は『欲望の迷宮』について、少し聞かなければならない事ができたからである。
「で?周辺国に動きがあったみたいだね?『欲望の迷宮』では、3つの迷宮で累計5000近い死者が出てたけど、それも関係あるのかな?」
「関係があると申しますか、それが根本の原因です。
ガナッシュとの国境沿いに領地を持っていた貴族が、ある者は処刑され、ある者は反乱が起こりその渦中に討たれ、ある者は存命であっても没落を免れない大損害を出しました。やがて、前者のように処刑されるやも知れません。
全てその『欲望の迷宮』に挑んだ貴族です。陛下の予測が見事的中したようですね」
ありゃぁ、ご愁傷さまだぁ。未帰還者が多数でた時点でやめてれば、そこまでの事態にはならなかっただろうに。まぁ、だからこそ引っ込みがつかなくなっちゃったんだろうけど。
「お陰で、断交しているにも関わらず、我が国との摩擦が増えています………」
「摩擦?摩擦ってなんだ?
10mの壁は、完全に物流を遮断しているはずだろ?」
「それは勿論。これは貿易摩擦ではありませんし、文化摩擦と呼べるようなものでもありません。
言うなれば恐怖摩擦、ですかね」
「恐怖摩擦?」
なんだそりゃ?
「兵士達にも家族がいます。その不満の捌け口が、今は我が国しか無いのですよ。
一番槍玉にあげられるはずの貴族は3人中2人が既に死んでいて、残る1人も………まぁ、末路は大体わかります。
次に、本音であればあなたにその矛先を向けたかったでしょうが、我が国があなたを牽制して手酷いしっぺ返しを食らったことは周知の事実です。その二の轍を踏みたくないばかりに、ガナッシュに八つ当たりしている、というのが分かりやすい表現でしょうか」
「なんだそりゃ………」
こんな晴れやかな日に、なんつー下らない話を聞かせてくれんだよ。
確かにそりゃあ、大元をただせばあそこにダンジョンが出来たのはガナッシュのせいだろうが、入ったのは兵士本人で、それを命じたのは貴族で、そこを造ったのは僕なんだぞ?
ただ単に弱っているからガナッシュに矛先を向けるって、それが正しいとでも思えるのかね。
「面倒くさいですね、人間って」
「ええ、まったくです」
魔族なら、死んだ奴は弱かった奴。弱かったんだから死んでも仕方が無かった。これで終わりだ。
実力主義のシンプルさが、この場合は魔族の美点だな。
「とりあえず、火は小さい内に消しておいた方がいいでしょうね。ガナッシュ大公、あなたは諸王会議でダンジョンが出来た事と、そこに侵入しないとガナッシュが決めた事は明言したんですね?」
「はい。確かに」
「ならば問題はありません。
北側を中心に、それを盾にその国の独断専行である事実を喧伝してください。
また、その摩擦を解消する責任が当事国にある事も含めて」
「しかし、我が国を境に北と南が分裂するのは避けたい。ただでさえ、今真大陸の南と北はピリピリしているのだから」
「大丈夫です。そうはなりませんから」
僕の言葉に、ガナッシュ大公はやや困惑した表情を浮かべた。
「やけに自信がありそうな物言いですね。また何か仕掛けを施したのですか?」
『また』って何だ。まるで僕が、いつも悪巧みしているみたいじゃないか。
「仕掛けなんてないよ。真大陸の南側は、アヴィ教徒の多い土地だ。そしてガナッシュ国民の大多数もまたアヴィ教徒。
前回の僕の進攻に対して、南側は最初から同情的だった。まぁ、教会がそうなるように仕込んだわけなんだけど。ただ、民衆の心理、特に宗教ってのは利益があるからあっち、なくなればこっち、なんて風には動かない。いくら教会の上層部がそうしたくても、そう上手くはいかないんだ。
そこにこの八つ当たりの情報が流れたところで、コロリとガナッシュを非難する側に回るわけがないんだ。むしろ教会はその非難を受け入れて、ガナッシュの味方につくと思う。
本拠地である南の土地で、信者の不信を買うわけにはいかないだろうからね。南ですら信仰が廃れだしたら、それこそアヴィ教の最後だ。それに、ガナッシュ国内のアヴィ教徒を切り捨てるのも惜しいだろうし、ガナッシュに与したからってその三国でアヴィ教から離れる者は少ないだろう。
まぁ、名声だけはあるんだし、教会が一言言えばこの騒動も収まるだろうさ。未だに民衆人気は高いから、今回はそれを利用させてもらおうじゃないか。
っていうか、真大陸が南北に割れて一番困るのはアヴィ教なんだよね。魔大陸侵攻はほぼ不可能だし、魔大陸への橋頭堡は北にしかないんですから」
「成る程………」
あーあ、下らない話を聞いて、下らない話をした。僕は今日、ほとんど遊びに来たんだってのに。
「敬服しましたよ………。まさか敵すらも利用するなんて、儂ごときには思い付きもしませんでした」
「まぁ、そんなに誉められるような話じゃないよ。この話は、あなたが北側を説得する事が大前提ですからね。大方大丈夫だとは思いますが、北側にはむしろ南北分断を望む声があるかもしれないですよ?」
東西冷戦ならぬ、南北冷戦か。勘弁してくれよ、そんな面倒見きれないんだからな。
「努力しましょう。全ての状況は、我が国が招いたと言っていいのです。これ以上の汚名を歴史に残すわけにはいきません」
ホント、頑張ってよね。僕は僕でやらなくちゃならない事もあるし、その為にはガナッシュは割と重要な位置付けなんだから。その時ガナッシュが平和じゃないと困る。
「じゃ、僕は祭りにいくから」
「………………。アムハムラの剣王祭に魔王がお忍びで………。これも歴史には残せませんね………」
だから変装してるでしょうが。
さぁ、つまらない話はここまで!これからは楽しい楽しいお祭りの時間だ。
「心が踊るねぇ!」




