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 夜をもたらす者

 夜が訪れた。




 真昼の太陽を隠し、ただ澄み渡っていた空は、白く、白く、ただ白い天井に阻まれた。

 地には影が落ち、薄暗い周囲では、混乱の渦中にある人々の喧騒が一時の静寂を得る。

 完全な闇とは呼べない薄闇。よく見れば、空も完全に隠れているわけではないが、この町は完全にその影に覆われている。


 『よくぞ来た僕の部下共!!』


 魔王の声が響き渡る。直接ではない、何かを通した声。肉声では不可能な大音声が町に響く。


 『遅刻野郎共!!閧の声をあげろ!!戦はもう始まってんぞ!!』


 魔王の言葉に続いて、地鳴りのような音が響く。これが全て魔族の雄叫びだというのか?


 『敵は兵士のみだ!!兵士ではない者に手ぇ出すなよ!!1人でも手にかけたら、テメェ等全員虐殺すんぞ!?』


 今度は地鳴りは聞こえない。


 『降伏する者にも手を出すな!!無駄に戦闘長引かせんなよ!?僕はとっとと帰りたいんだ。余計な手間こさえた奴も殺すぞ?あ、だからって手加減すんなよ?逆らう奴は殺せ。


 じゃあ、とっとと城を落とせ。勝利の雄叫び以外を僕に聞かせるな。


 あと、クルーンはこっちに来い。その代わりロロイとバルムはあっちだ。指揮に戻れ。フルフル、マルコ、ミュル、先行して城に攻め入れ。


 ハイハイ、ちゃっちゃと動けテメェ等!!ちんたら僕の話なんて聞いてんじゃねぇよ!!勝鬨はまだか、のろま共!?』


 目の前にいる魔王。しかし空から降る声。これは、変装ではなく影武者か?


 だが、そんな事を考えている暇はなかった。空を覆う白い円盤から、無数の円盤が離れ、ガナッシュの大公城に攻め寄せる。その数は100を下らない。あれでは城壁も意味を成さない。ガナッシュ大公城は間もなく落城するだろう。


 「よそ見は感心しませんよ!!」


 「ぐっ、がはっ!!」


 しまった、注意を空に取られ過ぎた。

 オーガの持つ細いこん棒が私の鎧を強かに打ち付け、その衝撃が体を突き抜ける。

 なんという威力………。常人ではひとたまりもないだろう。

 あばらに異常を感じつつも、口の中の血の味を無視して再び立ち上がる。


 そこに―――


 「フハハハ!!第10魔王、クルーン・モハッレジュ・パリャツォス、降臨である!!」


 突然響き渡った哄笑。今度は不意を突かれないよう、オーガに注意を払いつつもそちらを見れば、




 またも子供の姿があった。




 あれが魔王?アムドゥスキアスといい、魔王は子供が多いのか?


 道化師のような帽子と服。顔には星と涙が描かれ、どこからどう見ても道化師だが、あどけない顔立ちには隠しようもない残虐な笑顔を浮かべている。


 「至高の金属オリハルコンと魔術特性の高いミスリルの体、ようやく試す時が来たようだ!!

 人間共、恐れおののきその身に刻め!!我こそは第10魔王、クルーン・モハッレジュ・パリャツォス!!貴様等に終焉をもたらす魔王ぞ!!」


 空を飛ぶピエロの魔王。まさか、ここにきて魔王の援軍だと!?

 マズイ………。同数の軍勢でも分が悪い魔族が相手だというのに、空を取られ、相手の勢力は未知数。さらに魔王が2人とは………っ!!


 こうなれば、せめてアムドゥスキアスだけでもっ………!!


 「いつまでカッコつけてんだボケ!!つか、おせーんだよ、このピエロ!!お前の敵はそこの変態勇者だ!!」


 「うむ!!我が盟友、アムドゥスキアスの頼みとあらば仕方あるまい。そこの人間、このクルー―――」


 「………何遅刻してきて生意気な口叩いてんだ………あ゛ぁん?」


 「―――ン………。い、いや、悪かった。遅れたのは本当に悪かった!!だからキアス、頼むから怒りを鎮めろ。これ以上私の仕事を増やさないでくれ。頼む!!」


 空中で土下座を始めるピエロと、それを睨むアムドゥスキアスはどう見ても隙だらけだ。

 しかしアムドゥスキアスには、さっきまで私が戦っていたオーガが護衛についている。まずは護衛のいないピエロを殺す。それからアムドゥスキアスだ。


 私は、剣に魔力を宿すと上空のピエロに狙いを定める。





 「瞬炎剣!!」




 完全に不意を突いた一撃。炎を纏って高速で相手に剣を突き刺す。


 ガキャッ、と鈍い音が響き、ピエロの腕が宙を舞い、私の剣が折れる。


 「なんだ人間?わざわざ殺されに来たか。殊勝な心がけだ」


 「くっ!!強がるなよ、魔王!!貴様の腕はもらった!!」


 剣を失ったのは痛手だが、まだ予備の短剣はある。むしろ魔王の腕を取ったとあらば、あの名剣の最後として相応しい誉れだろう。


 「勘違いするなよ?オリハルコンの体が、あの程度で壊れるものか。あれはただ、切り離しただけだ」


 肘の辺りから途切れた腕。宙を舞うそれは、突然意思を持ったように行く先を変える。私に向かってくる!!


 空中にいては避けられない!!


 「瞬炎剣!!」


 短剣で魔剣技を発動させ、地面へと着地する。くそッ、何であのピエロいつまでも浮いていられるのだ!?


 「フハハハハ!!中々やるようだな、人間!!だが魔王に楯突くには600年早いぞ!!」


 魔王は笑い、もう片方の腕までも切り離す。本当に着脱可能な腕のようだ。


 「そぉら、キアス特製の武器だ。避けろ避けろ!!」


 くっ………!!空中で長柄の武器を構えた腕が、腕だけのまま襲ってくる。


 「卑怯者め!!降りてきて戦え!!」


 「貴様は何を言っているのだ?ここは戦場であろう?ならば生者のみが強者であり、強者のみが法である!!

 卑怯卑劣など、敗者のたわ言にすぎん、若造め!悔しければ飛んでみろ、地を這う虫けらが!!」


 所詮は魔王、卑劣を卑劣とも思わない外道め!!


 「そも、貴様はキアスを罠に嵌めようとした一味だろう?とやかく言う資格などなかろうが。

 おかげで、書類仕事が溜まっているというのに私まで駆り出されたのだ。治安維持部隊も動員し、今や支配地域はもぬけの殻だ!!こうしている間にも問題が起きているかもしれん。どうしてくれる!!仕事が遅れ、問題の解決に忙殺されなくてはならない私の恨み、その身で思い知るがいい!!」


 「随分スケールの小さい恨みだこと………」


 ボソリと呟くアムドゥスキアス。見れば、先程まで暴れていたヘクトアイズとグリフォンの姿がない。

 手薄な今がチャンスか!?


 「何をしているのですか!?私が魔王を抑えている隙に、全員で―――なッ!?」


 魔王を包囲していた聖騎士は、今度は魔族の大群に包囲されていた。


 「隊長!撤退の指示を!!」


 「どこから撤退するのだ!?我々は既に完全に包囲されているんだぞ!?」


 「で、では降伏を!!」


 「聖騎士である我々が、魔族に降伏などできるか!!」


 「そ、そんなっ!!―――うわぁぁぁああ!!」


 包囲され、打ち崩される聖騎士。アムドゥスキアスはラミアとオーガに守られ、泰然自若の体を崩さない。


 「早く虐殺王様の元へ辿り着け!!ぶっ殺されんぞ!?」


 「コションの二の舞は嫌だぁ!!」


 「どけ、人間!!今はお前等なんてどうでもいいんだよ!!」


 なぜか優勢のはずの魔族の方から、泣き言じみた悲鳴が聞こえるが………。




 「余所見とは余裕だな?」




 しまっ―――


 意識を持っていかれそうな衝撃に、プレートメイルに甚大な亀裂が走り、私の体は地面を転がる。


 「キアス!!死んでないぞ!?なんだこの殺傷力の低い武器は!?」


 「フレイルだ。全力で殴り付けても反動が返ってこない、画期的な打撃武器だろうが」


 な、成る程………。長い柄と、鎖で繋がれた打撃部で構成されたこの武器は、空中を腕だけで戦うこの魔王には便利な武器だろう。


 しかし、マズイな………。ダメージが冗談ではなくなってきた………。ただでさえオーガに隙を突かれて負った傷が、今の魔王の一撃でその被害を増している。


 だが、幸運なことに私が飛ばされた場所は、比較的近くにアムドゥスキアスの姿がある。ラミアとオーガは、聖騎士との戦闘でやや離れた位置。これなら―――!!


 「死ね!!アムドゥスキアス!!」


 立ち上がり、一瞬腕に向かうように見せてから、アムドゥスキアスに突貫する。せめてコイツだけでも道連れにっ………!!


 「キアス!!」


 「キアス様っ!!」


 魔王とオーガの声が重なるも、もう遅い!!




 カァン。




 間の抜けた軽い音で、私の短剣は止められた。


 「………難しい事はわかんねぇ。けど何となく、俺は魔王を助ける事にする」


 「シュタァァァルゥゥウ!!!」


 剣と一体化した盾の裏からは、珍しく複雑そうな表情で笑うシュタールがいた。





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