開戦っ!?
「空を埋めよ!!!!」
僕が高らかに叫ぶと、一同は揃って天を仰ぐ。
白い雲の浮かぶ、真っ青な初秋の空。鳥達が駆け回り、静かな空がそこにはあった。
………………。
何も起きない。
「「「………………」」」
一同の視線が、僕に集中砲火。にわかに顔が熱くなり、咄嗟に皆に背を向け、イヤリングを耳から外して話し始める。
「おいコラ!!遅刻すんなっつったろーが!!赤っ恥じゃねーか!!マジで領地増やして仕事増やすぞ!?」
『仕方なかろう!?こっちも指揮官であるバルムやロロイが抜けて統制が乱れたのだ!!つれていったのは貴様だぞ!?』
「言い訳すんな!!絶対領地増やす!ハイ決定!」
『ま、待てっ!!それだけはっ!これ以上仕事が増えたら寝る暇もなくなるぞ!?』
「魔王なんだからなんとかしろ!!いいか?今からもう一度呼ぶから、今度来なかったらゴモラ、アカディメイア、アレクサンドリア、バベルの統括責任者にするからな!?」
『ま、待て!あと3分、いや、2分待て!!』
ったく。本当に使えないピエロだ。シュタールや変態勇者の白い目が怖くて振り向けないぞ?
「フン。所詮はハッタリですか。もう構う必要などありません!!
かかりなさい!!魔王を討ち取り、神の悲願を1つ果たすのです!!」
おっとぉ、先に閧の声が上がっちゃったよ。
「キアス様!」
パイモンが僕を庇うように身を乗り出すと、ロロイ、バルム、アルルがその前に立つ。
「パイモン殿はキアス様をお守りください。露払いは我々が!!」
「かかってこい!!アヴィ教のクズ共!!我が先祖の怨嗟と怨望、その身に刻め!!」
「あ、あのっ、あのっ、人間の皆さん、ごごごごめんなさい!!しっ、死んでくださいぃっ!!」
バルムはヤル気満々だなぁ。まぁ、幻獣種はアヴィ教に迫害された過去があるらしいからね。つーか、アルルはオドオドしながらも、言う事は言うのな。
「食らえ!!『死縛の相』!!」
襲いかかってきた兵士に、ロロイの瞳術が炸裂する。ロロイの体にある無数の目が怪しく光り、兵士の多くがその動きを封じられる。
「GURAAAAAAAAAA!!」
そして、動かなくなった兵士に突っ込むバルム。うわっ………、僕はスプラッタは苦手だよ………。グロい。
「あが………ぁ」
「ふぐっ………、ごほ、ごほ、ごぼっ」
かと思えば、アルル1人で相手をしていた聖騎士が血を吐いて倒れていく。
「おいアルル!!毒使うなら、一般人の迷惑にならない奴使えよ?」
「は、はいぃぃぃ!!りょ、了解ですます!!」
全く、あんな致死性の高そうな毒、そこら一帯に撒き散らしたら大変だろうが。どうやら噴霧しているわけではなさそうだが、ほとんど見えないので実態はわからない。
つーか、アルルつえー。ロロイとバルムが2人がかりなのに、1人で聖騎士の群れと渡り合ってるよ。毒使いは集団戦闘に有利だとしても、それでもスゲー。こいつを重用しなかったコションはアホか。
まぁ、重用していたら今頃ダンジョンで死んでいるのだが。
「お、おい………、キア、魔王………」
シュタールが僕に声をかけてくる。ああ、そういえば剣を見るついでに近寄ってそのままだったな。構図としては、L字の街道の両方から押し寄せる聖騎士に、ロロイ達が立ち向かい、その角の壁際に僕とパイモンとシュタールがいる。
「なんだ?まさか手加減しろとでも?奴等はこちらを殺すつもりで用意された兵士だ。僕は部下に『殺されてでも殺さないように注意しろ』等と無体を言うつもりはない」
「それは………、そうだが………」
まぁ、根っからのお調子者で、バカに人の良いコイツには、見ていて楽しい光景ではないだろうな。
「それと、このコピシュはもう使い物にならんな。あと2、3回も振れば折れてしまうだろう。芯が痛んでしまっている。
まぁ、僕の首を落とすくらいには使えようがな」
そう言ってコピシュを返す。全く、この前渡したばかりの剣をもう使えなくするとは。まぁ、あの変態勇者の攻撃がそれだけ苛烈だったのだろうが。
「なぁ………、アンタは本当にキアスなのか?」
フン。自分で考えろ。
僕はシュタールを無視し、ロロイやバルム達に注意を向ける。
「『片乱れの相』!!」
「GYAAAAAU!!」
うん、なんかもう無双状態。ロロイが瞳術で聖騎士達を混乱させれば、バルムが突貫して蹴散らす。たぶん、2人の相性が良いんだろう。無論、BL的な意味でなく、戦闘的な意味で。
どっちが多勢に無勢とは思えないような、優勢ぶりに、ちょっと恐怖すら覚えるな。あいつらって、あんなに強かったのか。アルル?聞くまでもないでしょ?見てもよく見えないし。
「ガハハハ!!卑小なる人間共!!我が親愛なる魔王の怒りと無聊を慰めよ!!」
………………。
「………おい、魔王?」
「………すまん。アイツは戦闘で昂ってるだけだ………。忘れてくれ………」
つーかバルム!!アヴィ教に恨みがあるのはわかったから、僕まで巻き込むのはやめてくれ!!
「―――っ!!キアス様!!」
咄嗟に飛び出したパイモン。何かと思えば、その背中からキィィィンと甲高い音が響き渡る。
「よく止めましたね、醜悪な魔族が!!」
僕は全く気付かなかったが、どうやら変態勇者が混乱に乗じて襲いかかってきたようだ。さっすがパイモン!!
「その粗悪な剣、この神鉄鞭で叩き折ります!!」
「フン、物の価値もわからぬ魔族め。これは真大陸で名を馳せた刀工の作、金貨50枚は下らぬ名剣です!!その刃、その身に刻んで死に絶えなさい!!」
安っ!!
価格破壊も良いところだな。名を馳せた刀工って言うわりには、大した出来でもないし。
「おい、あんな不出来な剣がこの真大陸では一流なのか?」
「まぁ………、悪くねぇ出来だとは思うぜ。俺の持つのと比べれば、雲泥だけどよ………」
当たり前だ。誰が造った剣を使ってると思ってんだ?あのナマクラが10本買える剣だぞ?
「しまったな………。ダンジョンで落とす刀剣の質が高すぎるか………。しかし、あれ以上質を落とすとなると、材料ではなく鍛治に手を抜かねばならん。それはポリシーに反するし………」
「いやっ、質はあのままで良いだろ!!ポゥ達が良い剣手に入れたって喜んでたし!!」
そりゃあ良い剣だろう。あれで一流なら。まぁ、あまり武具の質を落とすのも意味がないか。別に真大陸の基準に合わせる必要もない。
「くっ………、流石にやりますね、変態勇者!!」
「貴様もその呼称で呼ぶか、魔族!?勇者の名誉を著しく貶した罪、万死に値する!!」
おっと、パイモンが苦戦してる。身体強化で速度は追い付いているものの、あの剣技は厄介そうだな。服装が男性用の薄着なせいで、スニーカー以外はいつもの服装じゃないしな。
『キアス、準備が出来たぞ』
「遅い!!だが良くやった!すぐにこっちに来てパイモンと交代しろ!!」
戦場に響き渡るように、僕は声を張り上げる。
「空を埋めよ!!!!」
2回目ともなると、ちょっと恥ずかしい。




