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 アムハムラ王の苦悩っ!?

 「またか!?」


 イヤリングから返ってきたのは、呆れとも驚きともつかないアムハムラ王の声だった。


 「北方の3国から同じような依頼を受けたぞ!?何でも私の本を出すらしい。勘弁してくれ………」


 ああ、うん。知ってる。まぁ、今回祭りを提案したのも、その本の売り上げに貢献するためでもあるんだよね、実は。


 「私は貴殿の隠れ蓑として、剣を授かったに過ぎん。伝説上の英雄と同列に語られるのは、あまりに居心地が悪いのだ。私自身には大した力など無いと言うに………」


 「そんな事はありませんよ。

 魔王の侵攻から、自らも前線に立ち真大陸を守った王。飢饉という国難を、最小、最短の被害で収めた王。アムハムラという小国を、あっという間に経済大国へ伸し上げた王。

 最後のは僕も一枚噛みましたが、あなたの王としての評価は真大陸ではかなり高いのです。それこそ、オンディーヌから剣を授かっても不思議ではないくらいに」


 実際、アムハムラ王の人気というのは元々高かったのだ。ズヴェーリ帝国で色々やっていた時期、僕はアムハムラ王国の商人を名乗っていたのだ。その時からアムハムラ王の話は時節の挨拶のごとく、各国で聞いたものだ。まぁ、1番はアムハムラ王国内でのアムハムラ王の人気が群を抜いて高いので、アムハムラ国民だと思われていた僕への社交辞令だったのかもしれないけど。だからって、その有能さは他国民も知るところではあったのだろうけど。


 「集客予想は高めに設定しておいた方がいいですよ。あ、あと、前段階としてインフラの整備などを民間委託にして、金をばら蒔くのも忘れずに。あなた達がお金を持っていたのでは国民が使えませんからね。

 漁業関係者は既に多くの利益を得ているでしょうから、アムハムラで農業に携わる者への補助金、って名目でもいいですね。持っている農地の規模で補助金の額を決めれば、漁業と農業を両立させていた者にも利益があります。細くとも食料自給率を0にするわけにはいきませんから、農家への配慮も怠るわけにはいきません」


 「その辺りは既に施行してある。治水、街道整備、賊討伐、あらゆる部分に予算はつぎ込んでいるのだが、来年施行分の予算まで既に組み上げてなお黒字なのだ。その間にも金がどんどん流れ込んでくるし、人手が足りんのでこれ以上は厳しい」


 まぁ、あの『王国空運』は毎日満員御礼らしいからな。必要経費も人件費以外はたいして要らないし、その人件費だって馬車の数を考えればたかが知れてる。ボロ儲けは必定か。


 「ならば民間委託に他国の者を使ってはいかがですか?隣国は勿論、離れた国の者でも輸送費をアムハムラで負担し、高給で雇えば請け負ってくれるのでは?その者達は基本的に他国の者なのですから、自然に資金を流失させられます」


 言ってて違和感がハンパないな。なんでわざわざ、金を流失する策とか考えなきゃならないんだろうな。


 「ふむ………。相手国といくらか交渉をせねばならぬが、相手にとっても得な話。国民の流失に気を配れば出来ぬ話でもない、か」


 「あとは、国民の家を何とかしてあげてくださいよ。僕は一度見ましたけど、結構酷いですからね?」


 「うむ。これからは寒くなる季節だからの、急ぎ何とかしよう。他国も含め、手の空いている大工をかき集めよう」


 「人を雇う国は、ある程度私意的で構わないと思いますよ。例えば、南は避けて北やその周辺の国々とか」


 「むぅ、だが、やはり反感が………」


 「アムハムラが利益を独占していればそうでしょうが、中部から北側全域がアムハムラに好意的であれば反発も強くはなりません。というか、なりようがありません。


 そもそもがアムハムラに嫉妬した逆恨みなのですから、人数さえいなきゃ脅威でも何もありませんよ。道理が引っ込むのは、通せるだけの強い無理でなくば文字通りの無理なのですよ」


 理が無いで、無理。

 まぁ、相手側も資金調達を工夫しなければならないけどな。とはいえ、気候のいい中央や南側は、大穀倉地帯がごまんとあるのだし、やり方次第では別に困らない筈なのだ。結局は儲けが減った事による逆恨み以外の何物でもない。


 「むぅ………」


 まぁ、そこら辺の裁量はアムハムラ王に任せよう。僕がとやかく口出ししてもね。

 あ、でもアドルヴェルド聖教国だけには、今はあまり手を出さない方がいいだろうね。あそこはまだゴタゴタしているみたいだし。

 「ならば整備や外注の分だけで金を流すのは―――」


 「アムハムラ王、その依頼が完遂した後にはまた同じ問題が待ち構えてますよ?」


 「そ、そうだな………」


 声が暗い。そんなに嫌なものかね、人々に称えられるのって。

 ………いや、やっぱり僕でも嫌だな。僕はできるだけひっそりと生きよう。ガンバ、生ける伝説。


 「回避の手段は無いのか………」


 「これが嫌ならご自分でお考えください」


 「はぁ………」


 ため息を吐くアムハムラ王に、僕は心底同情する。


 インフラ整備や、居住環境の改善、治安維持に惜しげもなく金をつぎ込めば、結果として残るのは『新生・アムハムラ王国』とも言うべき住みよい国だろう。

 そんな国を、最北端の貧乏国と呼べる日は最早昔の事。


 経済大国となったアムハムラの王。


 彼の受難はまだまだ続く。





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