贅沢な泣き言っ!?
「助けてくれ………」
陰鬱な声音でイヤリングから聞こえてきたのは、魔王すら恐れぬ武人であり、アムハムラ王国を救い、世界有数の大国まで成長させた賢王である、今や生ける伝説のアムハムラ王の声だった。
「私や他の家臣達も、未だかつてこのような問題に直面した事はない。いや、1000年続く王家の歴史を紐解いても前例など無いだろう。
つまり、現在我々は未曾有の危機に陥っていると言って過言ではないのだ!!」
「はぁ………」
アムハムラ王の切羽詰まった声に、僕は気の無い返事を返す。
だってそうだろう?その危機って、あまりにも贅沢な危機なのだから。
「どうでもいいです。そのくらい自分で何とかしてください。っていうか僕だって忙しいんですから、その程度の事案の相談を僕に持ってこないでくださいよ」
僕はいつになく、突き放すようにアムハムラ王の要請を却下する。
当たり前だ。僕からしてみれば、アムハムラ王の悩みなんてただの自慢にしか聞こえない。
「言葉だけではこの深刻さは伝わらんのもわかる。だが、この問題が由々しき事態であることはそなたにも分かるであろう!?」
「まぁ、わからないでもないですけど………」
だからってそんな事で人を頼るなと言いたい。
「頼む。思い付く限りの対策は既にとったのだ。だが、このままでは最悪戦争にまで発展しかねんのだ」
「まぁ、対応を誤ればあり得ない可能性でもないですね」
「そうなのだ!!
私はアムハムラ王国に戦争を起こすわけにはいかないのだ。だから頼む、そなたの非凡な発想を貸してくれ!!」
「僕は本来、逆の方向に物事を考えてるんですよ。はぁ………、やっぱり自慢にしか聞こえませんよ………」
「頼む!!」
はぁ………。仕方ない………。
アムハムラ王国が戦火に晒されるのは、僕としても困る。
「わかりましたよ………。ご協力させていただきましょう………」
「ああ、助かるぞ」
それにしても―――
「なんとか集まりすぎた金を消費する策を考えてくれ!!」
―――お金が集まりすぎて困るとか、本当に贅沢な悩みだよなぁ………。
アムハムラ王国の経営する『王国空運』は、真大陸の流通の形態を劇的に変えた。この短期間で、真大陸中の商人の常識にまでなった『王国空運』。
物資、人員の輸送速度は劇的に早まり、それまでは数ヶ月、数年かかった輸送が1日、長くて数日まで短縮されているのだ。人件費、輸送費の大幅な短縮が可能であり、商圏の拡大も容易い。
その有用性は史上類を見ないほどである。
そして、その成果も史上類を見ないのだ。
当然ながら、輸送もタダではない。延々馬車を牽く輸送費や護衛などの人件費とは比べるべくもないが、それでも結構な値段設定なのだ。
そうでなくば、依頼が殺到するのは目に見えていたのでかなりの高額にしたのだが、それでも依頼が殺到したのが現状である。
ある程度稼いだ商人には、苦にもならなかったらしい。まぁ、あれ以上高額にすると、一般庶民が手を出しづらいまでに高額になってしまうので仕方がない事ではあった。
問題は、このペースで金がアムハムラ王国に集中してしまうと、他の国々の反発が必至なのである。
金というものはどこからともなく湧き出すものではない。アムハムラ王国に流れ込んだという事は、どこかから流れ出したという事である。商人や庶民が支払っているとはいえ、それは他国の資産がアムハムラ王国に流入している事に他ならない。
このまま資産を貯め続ければ早晩どこかの国の貴族が没落しかねない。そうなれば反発が起こり、アムハムラ王国に危機感を覚える貴族も増えるだろう。
対応を間違えれば戦争が起こる、というのはそういう意味である。
しかし、これまでアムハムラ王国は貧しく、王族とて贅沢な生活などできない国だった。
流入した、貯めておくわけにもいかない資産を吐き出す術がないのは当然とも言える。
ただ、それでも言わせてもらうなら、なんて贅沢な悩みなんだと憤らざるを得ない。
勿論、贅沢な悩みだろうと、悩みは悩み。施しのように寄付するわけにもいかないだろうし、どうやって他国の支出を補うかは悩み所なのだろうが、ぶっちゃけ『知るか!!』と言ってやりたい。
それは本来、没落しかねない貴族側が考える事であって、忙しい僕が頭を悩ませるべき事柄ではないはずだ。没落したならしたで、それは本人の責任であり、アムハムラに反感を持つのはお門違いなのだ。
まぁ、そんな不条理が罷り通るのが国際社会と言われては返す言葉も無いのだが。
アムハムラ王も、臨時ボーナスや関係各所への謝礼なんぞで金をばら蒔こうとしたようだが、焼け石に水。結局はアムハムラ王国の経済が余計潤っただけで、あまり意味はなかったようだ。むしろ逆に、収入が微増したという泣き言に、なんの冗談だと返さなかった僕を誉めてほしい。
はぁ………。
結局、アムハムラ王国の収入を真大陸各国に還元しなければならない、という事だ。
「一番手っ取り早い方法を取りましょう」
「手っ取り早い方法?」
「はい。一番の問題は恒久的に入ってくる金なのですから、それを恒久的に吐き出すサイクルを作り上げればいいわけです」
「う、うむ。だが、その方法が………」
「大規模な、それこそ国をあげての大きな『祭り』を開きましょう」
「ま、祭りだと?そんな事で解決するのか?」
「飲食代を国が持ち、タダで飲み食いできれば庶民のお金が浮きます。そこでお金が余った人々の目はどこに向くか。
飲食以外の出店です。
出店は、勿論アムハムラの商人も出すでしょうが、一番目を引くのは珍しい他国の品。それを持ち込むのは他国の商人。稼いだお金を持ち帰らせれば、間接的に他国に資産を還元できます。
まぁ勿論、アムハムラ王国の負担はバカになりませんから、食事代全てを賄うのは無理でしょうし、アムハムラの国民もこの短期間で無駄遣いできる程の金を持っているわけではないので、大規模になるのは何年か後の話でしょうがね」
「な、成る程………。しかし、祭りを行うにも理由が必要だ。アムハムラ王国では、他国のような収穫祭は催されていないし、豊漁祈願の祭りはあるが、今は時期ではない。どうするか………」
「いいのがあるじゃないですか。今年から新たに始めるに相応しい、とある事柄が」
「………おい、まさか………」
「オンディーヌに剣を授かった王を称える祭り。そうですね『剣王祭』なんてどうです?」




