ほんとに脱ぐの……?
「っ……~~っ!」
そして、チェルはシャツを一思いにめくりあげた。鎖骨が見えるか見えないかのその瀬戸際まで。夜の森で焚火に照らされながら、当然のように膨らんでいるはずも無い己の胸をチェルは露出した。
「……少年……か?」
服をめくりあげるチェルに対し真剣な眼差しを向ける追手。焚火の火の粉に炙られているかのように、露出した腹部が羞恥心で熱くなっているのをチェルは感じていた。
「いや、少女だ。成長していないだけだな」
「判断がつかないな……下を見せてくれ。その方がはっきりする」
「当然の要求だな。さあ、さっさと下も脱ぐんだ。今更恥ずかしがる必要も無いだろう。言っておくが、ズボンだけでなく下着も脱ぐんだぞ」
胸を見せたのはチェルなりに考えての行動であった。下半身を見せては言い訳のしようが無いが、上半身であれば誤魔化せる可能性がある。チェルなりにカイナの意図を汲み、胸を見せれば口八丁で何とかしてくれるという希望があっての露出であった。
しかし現実はそうではなかった。カイナはチェルに救いの手を差し伸べるばかりか、全てを晒すように追い立てている。言葉通りに下半身を露出しない限り、追手どころかカイナまで諦めそうにない。
「いっ、いいの? カイナ兄? ほんとに脱ぐの……?」
涙で滲むチェルの視界に映っていたのは、やはり黙って脱ぐように促すカイナの姿であった。
下半身を晒してしまえば性別は隠しきれず、追手の捜し人であるチェル本人ということも知られてしまう。近くに居るという仲間まで呼ばれてしまえば、チェルとカイナは絶体絶命だ。聖剣の加護が無い今、多勢に襲われてはひとたまりも無い。
そして何より、知らない人を前にして下半身を露出などしたくはない。イクスガルドでは普段から寝間着のような薄っぺらい私服で出歩いているチェルではあったが、決して露出狂では無い。腕や脚であればいくら見られようとも何も思わないが、晒してはいけない場所に対する羞恥心は人並みに持ち合わせていた。
恐怖と羞恥心に煽られて加速していく心臓の鼓動が耳の中で鳴り響く中、チェルは両手の親指をおずおずと下腹部へと滑りこませる。親指が下着と鼠径部に挟まれ、あとほんの少しでも下してしまえば真実がまろび出てしまう。
「ふーっ……ふーっ……――~~っ!!」
外套を咥える口から荒い吐息が漏れ出していく。緊張と恥じらいで何も考えられなくなり、瞼が勝手にぎゅっと閉じられ、ついにチェルは半ば自暴自棄に下着ごとズボンをずり下し――
――その時、背中からパチンと留め具を外す音が聴こえた。
「っ!? やっぱり少年じゃないか――っ!?」
聴こえたのは短い風切音と、追手の断末魔。
恐る恐るチェルが目を開けてみれば、追手の首には聖剣が突き刺さっていた。
「え……え?」
呆けるチェルの背後から、カイナが勢いよく飛び出した。
死の間際の血走った瞳でカイナを睨みつける追手。膝をつきながらも右手を腰に回して何かを手に取ろうとしていたが、カイナの大剣によって腕を切り落とされ、血飛沫を上げながら絶命した。




